不死者の9割以上は人類にとって無害らしいですよ
痛い…痛い…痛い!!
私が…僕が…俺が…分からなくなる…
周りに居る研究員がコンソールを操作すると先程までとは別の薬剤が注射される
身体の中で薬剤が作用して激痛に襲われるけど、全身が拘束されていて身をよじる事すら出来ない
微かに研究員達が喜ぶような声が聞こえる
身体が熱い…背中に違和感がある
力が溢れかえる…自分が違うものに変わってゆく…
ふと…今までの苦しみが嘘のように収まる
何となく、自分を縛り付けている拘束が大した事の無い物だと理解出来た
右手を振ると、先程までは微動だにしなかった拘束が紙切れのように千切れる
背中に意識を向けると、白い羽が目に入る
記憶が混乱してこれが元から生えていたモノなのか、そうでは無いのか定かじゃないけれど…そんな事より今は逃げる事が先!
思い切り飛び上がると、天井を幾つも突き破って地上に出る
空高く飛び上がったまま、思い切り手を広げて日光を全身で浴びる
全身にくまなく力が…いやちょっとこれ溢れすぎてない?
ヤバいヤバい!これ普通に危ないって!
そうこうして慌てている内に目の前に建物が迫ってくる
窓を挟んだ向こう側で棒を持った男の人が見え…
ーーー
「起きた?」
朝、日が昇ると同時に目を覚ました羽付き{不死者}に話しかけてみると、キョトンとしか顔で見つめ返された
「…自分、生きてるんすか?」
「殺してはないから、そりゃあ生きてるよ。名前は?」
「名前…あー、その…自分記憶喪失といいますか、なんと言いますか…」
うわ、めんどくさ…
「うわ、めんどくさ…」
「心の声全部漏れてるっすよお兄さん…」
「まあ、面倒だし」
さてどうしたものだろうか…
ーーー
「という訳で勉強の時間だよ」
「…黄泉山さん、何で私も?」
羽付き{不死者}と並んで座っている月詠さんが不満そうに唇を尖らせる
「だって月詠さん、ぶっちゃけ{不死者}の事そんなに詳しくないでしょ?この機会だからまとめて色々教えようかなって」
そういえば、と羽付きの{不死者}君に声をかける
「なんて呼べばいい?」
「なーんにも覚えてないんで、何でもいいっすよ〜!」
「うーん…」
そんな事を急に言われても悩む…パッと浮かんだ単語でも並べてみるとか…
「…イエ〇ーサブマリンとかレット〇ットビーとか?」
「…個人名には適してなくないんじゃ?」
「…黄泉山さん、ビート〇ズ好きなの?」
「…月詠さん、何か適当な名前考えて」
こういうのは向き不向きがあるからね、しょうがない
「うーん…取り敢えず羽が白いから…ユキで!」
「まぁ…レットイ〇トビーよりはいいと思うっす!」
よし決まりだな、という訳で2人に資料を手渡す
「それじゃ月詠さんとユキさん、始めるよ」
「「はーい」」
ーーー
「そもそも{不死者}なんて呼ばれてるけど、実際には完全に不死な訳じゃないんだよ」
「え、じゃあ自分死ぬんすか!?」
「まあ、殺そうと思えばやりようは幾らでもあるよ、{不死者}っていうのは外界からエネルギーを取り込み続けられる限りは死なないってだけだからね。{不死者}を殺すならそのエネルギーを断ち切ってしまえばいいだけだよ」
「先生質問!」
月詠さんが元気よく手を挙げる
「そのエネルギーってどんな物なの?」
「いい質問だね、{不死者}の生命維持に使われるエネルギー…つまりは{糧}なんだけれど、これは{不死者}それぞれでバラバラなんだよ。普通に酸素や水を{糧}にしてる奴も居れば、光や風、珍しい奴だと{恐怖心}なんかを{糧}にしてる奴もいたよ」
「この前何とかしたでしょ?」
思えば先日の{不死者}は相当強力な個体だったよなぁ、何を{糧}にしていたのか正確には分からなかったけど、あと少し遅れていたら間違いなく勝てなかったね
「黄泉山さん、質問!なんで{不死者}は人を襲うの?」
「うぅーん…別に全部の{不死者}が人を襲う訳じゃないんだけどね、大体は{糧}を得るのに人を襲うのが都合が良いとかだね、だから{糧}がそういうものじゃない{不死者}は結構その辺で人間社会に紛れ込んでたりするよ」
「え!?マジ!?」
「まじまじ、『歳の割にあの人若いなぁ』って人大体{不死者}だよ」
「めっちゃいるじゃん」
近所の駄菓子屋の元気なおばあちゃんとか、結構そのパターン多いんだよね
「まぁそういう事だね、ユキさんも是非そういう{不死者}になってね」
「あ、はい」
ここいらでお開きかなという雰囲気になったところで、月詠さんがパチンと手を叩く
「そろそろ終わりっぽいし!ユキちゃんの服買いに行こう!」
「自分のっすか!?」
「そうそう!ユキちゃん中性的な感じで色々似合いそうだし…待って、そもそもユキちゃんって男女どっち?」
「ええっと…そのぉ…」
ユキさんが顔を僅かに赤らめながらモジモジしている、これは…
「月詠さん、ユキさんは{不死者}になったばかりだから、どちらでもないんだよ」
「つまり?」
「無性って事、{不死者}は適応力が高いから、最初はユキさんみたいにどちらでもない状態から本人が望む形に変化していくんだよ」
「へぇ〜」
「姉さん、あんましジロジロ見ないで欲しいっす…」
「…良いねそういうの!萌える!完璧なコーディネートしてあげる!!」
「どういう事っすか!?」
月詠さんがユキさんの手を引き、飛び出して行った
「…まあ、仲良く出来そうならいいか」