権力者の7割以上は想像よりお金にがめついらしいですよ
朝、いつものように目を覚ますと、焼けたパンの香りが鼻腔をくすぐる
「…あー、月詠さんか」
今更ながら思えば未成年女子を住み込みで雇うという、聞く人が聞けば正気を疑われるか然るべき機関に通報されそうな所業をよく承諾したなと思いつつ、空腹感を刺激する香りには抗えずリビングに顔を出す
「月詠さん、おはよう」
「黄泉山さん、おはよう!朝ご飯もう少しで出来るので待っててね!」
見れば月詠さんの手には皮を剥いている途中のリンゴが握られている
椅子に座りスリープ状態のパソコンを立ち上げて寝ている間に来たメールを確認していると、先日の件の報酬振込完了の連絡と明細のデータが送られているのを見つけた
開いてみると、当初提示されていた金額の半分程の金額が記されている
「…やってくれたねぇ」
メールを読んでいくと、短時間で解決したのだから当初の報酬では多いだの、そもそも最初の金額は目安だからこれが正当な報酬だの、子供の言い訳のような文が連ねられていた
「どうかしたの?黄泉山さん」
「ちょっと仕事のトラブルだよ…ほらこれ」
月詠さんがメールを読む
「…何これ、酷くない?」
「本当だよ、月詠さんはこんな大人になっちゃダメだよ?」
テーブルに用意された朝食をチラッと見て、パンだけ手に取る
「ちょっと急用が出来たから、朝食準備してもらったのにごめんね!」
「え!?ちょっと黄泉山さん!?何処行くの!?」
「取り立て」
ーーー
ワシ、金欲権蔵の人生は実に順風満帆なものだった
若輩時代から着々と積み上げてきたコネと権力で今の治安維持局局長という地位を築き上げたのだからな!
{不死者}とかいう化け物の対策は苦労するが、まぁこのワシには相応しい椅子だな!
そんなワシの唯一の悩みの種は、政府のボンクラ共が予算を出し渋る事くらいか
「復興支援予算に回す」だの「削減出来る経費はある筈だ」だの、本当に腹が立つ…
ワシが政府のボンクラに何と言って金を払わせようかと画策していたその時、直通電話が緊急事態を示す音を出した
何でも郊外に強力な{不死者}の出現予兆が確認されたらしい、こんな時にクソッタレめ…
この規模の{不死者}災害になると対処出来る戦力を政府で保有すると諸外国が煩い為、登録されているハンターに依頼をする事になっている
この規模に招集をかけられるハンターをリストから探してみると、1人だけ見つかった
早速連絡をとると、開口一番報酬の話をしてきやがった!今金の話はしたくないというのに若造めが…!
嫌がらせに適当な金額を伝えると、その金額で了承すると返事が来た、チョロいヤツめ
現場に居た部下から話を聞くと、奴はものの15分あまりで{不死者}を討伐したらしいではないか、それだけの短時間で討伐したのなら最初に提示した金額すら高いな!半額で十分!
…その判断があまりにも間違いだったことを思い知るのは、もう間もなくの事だった
ーーー
荒れ果てた金欲の部屋の中、たった今かかと落とし1発で真っ二つにした高そうな机の残骸に足を乗せた夜見山が椅子の上で縮こまる金欲を見下ろしていた
「…それで、何か言う事は?」
「き…貴様!こんな所業が許されると…」
「許されるんだよ、これが」
こんな事もあろうかと自宅から持ち出してきた書状を金欲に見せつける
「国と契約してるハンターにはランクに応じて幾つかの特権が許されてる、俺のランクだと契約不履行の場合の報酬取り立ての権利だな」
「なぁっ!?そんなのアリか!?」
「アリなんだよ、未払いの残金に利子つけて2500万だ、今すぐ払ってよ」
「高くないか!?未払いは1000万だろ!?」
「利子と延滞料金込だよ、ほら早く……」
ふと窓の外にチラリと目をやると、こちらに向かって高速で飛んでくる何かが見えた
「…伏せろ!」
たまたま偶然足元に落ちていた丈夫そうな棒状の瓦礫を足で蹴り上げ、キャッチする
「おい貴様!一体何を…」
「ッおらァ!!」
窓を突き破って飛び込んできた物体を、手にした棒状の瓦礫で殴打する
「んぎゃぁっ!!」
窓から飛び込んできたそれは、カエルが潰れたような声を出して壁に激突する
「な、なんだぁ!?」
「ふぅーん…」
壁に突き刺さったそれをよく観察して、金欲に声をかける
「これ{不死者}だよ、気絶してるけど」
「なっ!何で{不死者}がここに!?」
「敵討ちとかじゃない?まぁそんな事よりさ…」
「そんな事!?{不死者}が目の前に居るんだぞ!?早く始末しろ!」
あー…何でこういうタイプって一々叫ぶんだろう?
「始末しろったって、前の仕事の報酬もまだなのに?」
「ぐぎぎ…分かった払う!払うから何とかしてくれ!」
「いいよ、今回分合わせて3500万ね」
「まだ取るのか!?」
何故当たり前の事を言われてそんなに驚くのだろうか?
「払わないなら次は差し押さえるけど、いいの?」
「ああ畜生!払う!払うから早く何とかしてくれ!」
「了解、次は無いからねー」
倒れている{不死者}を肩に担ぎ、部屋を後にした
ーーー
「…それで、その人連れて帰ってきたんだ…」
「どう見ても有翼型の{不死者}が事故で突っ込んできただけだからね、別に{不死者}なら無条件で殺す訳じゃない」
そう言いソファに寝かせた{不死者}に布団をかける
「俺が見張っておくから、月詠さんは寝ちゃって大丈夫だよ」
「そう?ならおやすみ〜」
「うん、お休み」
月詠さんがリビングを出て行くのを見届けた後、コップに水を注ぎ、喉の乾きを潤す
「はぁ…めんど」