プロローグ
ある晴れた昼下がり、中学生くらいの1人の少女がスマホ片手に早足で街を歩いていた。
「はぁっ、はぁっ…あった!」
スマホの画面に書かれた住所を何度も確認して、少女は目の前の建物のチャイムを鳴らす
少女のスマホの画面にはこう書かれていた
『{不死者}専門の殺し屋!?その正体に迫る!』
ーーー
この世界には、人間の他に様々な種族が暮らしている。
エルフ、人狼、その他諸々…
ところが、ここ数年で突然変異のように現れた者達がいる
彼等は様々な方法、特異な体質等により不死に近い生命力を誇る
彼等の中にはその力を振りかざし暴れ回る者、自分こそが頂点に君臨すべしと考える者等、様々な者達がいる
そんな彼等を総称してこう呼ぶ…{不死者}と
………
「それで、何の用?」
家の中に招かれた私は、目の前に座るこの家の住人の男に視線を向けた
「あの…この記事を見て…」
私はスマホの画面を見せる
「あー…お客さんか、取り敢えず話は聞くよ?」
「はい、その…父が再婚したんですけど、その再婚相手が{不死者}かもしれないんです!」
男はタバコに火をつけ、ひと吸いする
「ふぅ〜ん、何でそう思ったの」
「これを見てください!」
私はカバンから数枚の写真と、ボイスレコーダーを取り出した
男は写真を見ると、机に戻す
「…ブレが酷すぎて何の写真なのかわかんないんだけど?」
「えっと…すみません…」
次に男はボイスレコーダーに手を伸ばす
「そっちはちゃんとしてるから!決定的な証拠!」
「ふーん?」
ボイスレコーダーの再生ボタンを押すと、録音された音が流れてくる
『もう少……………あの人の……を…………ふふ………』
「…これ{不死者}とかじゃなくて結婚詐欺とかじゃないの?」
「そんな!違うんです!」
どうしよう…これじゃ信じて貰えない…
「…はぁ、分かったよ、取り敢えず調査くらいはしてあげるから」
「本当ですか!」
「本当だよ、取り敢えず名前教えてくれるかな?」
私は男の手をとり、叫んだ
「月詠 昴です!」
「黄泉山 帳だ、よろしく」
ーーー
その後、帳さんの家を出て私の家に帰り着いた頃には、すっかり日が暮れて月が昇っていた
「…あ、満月だ」
「そうねぇ、昴ちゃん」
「ひっ!」
急に話しかけられ振り向くと、玄関を開けて父の再婚相手、照菜が張り付いたような笑みを浮かべている
「照菜…さん」
「もうすっかり夜よ?晩御飯用意してるからね〜」
「…要らない」
照菜の横を通って、家の中に入る
「あらそうなの?残念ね〜」
私は振り返らず、真っ直ぐに自室に戻った
ーーー
その夜、何となく眠れなくて窓から空を見上げていると、不意に月に雲がかかり部屋が暗闇に包まれた
「うわ、急に暗くなるじゃん…」
電気をつけるか、いい加減ベッドに入るかを考えていると、スマホがバイブレーションで着信を伝える
画面を見ると、黄泉山さんの番号が表示されていた
「はい、もしもし?」
こんな夜中に何の用だろうと思いながら電話に出ると、慌てた声の黄泉山さんの声が聞こえてきた
『月詠さん!今家!?』
「はい、そうですけど…」
『今すぐ逃げて!』
直後、家が吹き飛んで私の意識はそこで途絶えた…
ーーー
数分か、数刻か…響き渡るサイレンの音と人々の悲鳴で私の意識は戻った
「うぅ…何事…」
辺りを見渡してみると、見慣れた筈の街並みが瓦礫の山になっている
「お父さん…お父さん!」
自宅だった瓦礫の山に声をかけるが、返事は無い
瓦礫をかき分けようと近づこうとすると、後ろから腕を掴まれた
「大丈夫か!?」
振り向くと、黄泉山さんが私の腕を掴んでいた
「よ、黄泉山さん!お父さんが!」
黄泉山さんは瓦礫の山を見た後、首を横に振る
「今は危険すぎる、早く逃げないと駄目だ」
「逃げるって…そもそも何が起きてるんですか!」
黄泉山さんは空を指さす
「アレだよ、人々を虐殺してその命を自身の糧にすることで永き時を生きる{不死者}」
空に浮かぶソレは、生気の無い目で地上を見下ろしていた
ただそこに居る、それを認識しただけで身体が震えるのが止まらない
「月詠さん、落ち着いて」
黄泉山さんが私の肩に手を置いて優しく声をかけてくれる
「俺達はアレを仕留める為に来たから」
町のあちこちから光り輝く鎖が空高く飛び上がり、空に浮かんでいる{不死者}を雁字搦めにして地面に叩き落とした
帳さんがインカムで通話を始めた
『帳!略式封印完了だ!ただ思ったより強いぞコイツ!5分と持たない!』
「了解だよくやった!すぐに向かう」
帳さんは私の方を見て、笑いかけてくれた
「すぐに終わらせてくるから、待っててね」
そう言い帳さんは走って行ってしまった
「…私も!」
私は立ち上がり、帳さんの後を追いかけた
ーーー
「帳!急いでくれ!」
「悪い!」
俺が辿り着いた時には雁字搦めの鎖にヒビが入り、今にも解かれそうな略式封印を仲間達が必死に補強していた
『LuLuLu…』
{不死者}がこちらを激しく睨みつけながら鎖を解こうと激しくもがいている
「元々どんな奴だったのか今となっては分からないが…」
{不死者}の足元に略式封印のものとは別の魔法陣を展開する
「もっと大人しく暮らしておくべきだったな」
魔法陣が多層展開され、{不死者}から生命力を奪い始める
『LiLiLi…』
段々と弱々しくなって行く{不死者}に近付き、その胸に手を当てる
「次はもっとマトモに生きるんだぞ」
胸に手を突き刺し、心臓を引きずり出した
生命力を抜かれ、心臓を失った{不死者}は、少しだけ身じろぎした後、動かなくなった
「お疲れ様帳!後は自衛隊が災害派遣されてくるから俺達は引き上げるぞ」
「ああ、皆お疲れ様」
「それじゃあ皆!打ち上げ行くぞ!」
意気揚々と引き上げる仲間達と共に、俺は町を後にした
「凄い…黄泉山さん…」
瓦礫の影から見ている人影に気付かずに…
ーーー
数日後、俺は自宅に押しかけてきた月詠さんと机を挟んで向かい合っていた
「…急に何の用?」
「いや〜…その…暫くここに置いてくれませんか?」
「…はい?」
話を聞いてみると、彼女の父親は先日の件で怪我をして、大事をとって義母の実家に義母と共に行っているそうだ
それで、義母が信用出来ない月詠さんは友達の家に暫くお世話になると嘘をついてここに来たらしい…というか
「何で俺の家に…」
「えへへ…まあいいじゃないですか!家事でもなんでもやりますよ!」
「はぁ…まあそれじゃあ住み込みのアルバイトって事にしようか、よろしくね月詠さん」
「よろしくお願いします!黄泉山さん!」