表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/58

閑話「エヴリデイ血眼」

「これはかなりデカいな」


 夜。一人の男が自転車に乗りながら、そんなことを呟いた。男は街灯の光を頼りに、殺風景な住宅街を進んでいた。


「この辺りだな」


 男は、何の変哲もない住宅地の曲がり角で自転車を止めた。なるべく音を立てないよう、赤子をあやすように丁寧に。彼は自転車から降り、角にある住宅の(へい)に身を潜めるようにして、角を曲がった向こう側を覗き込んだ。


「三人…。うーむ、大分薄れてきてるな」


 そう呟く男の視線の先には男が二人、女が一人いた。男の一方と女は、この辺りにある高校の制服を着けているらしかった。もう一方の男は、金髪に色付き眼鏡という風貌である。彼らの側には真っ赤な車が一台止まっている。彼らは何やら口論をしている様子である。制服の男が他の二人の口論を仲裁しようとしているらしい。


「うーむ」


 彼は目を凝らして彼らの唇を見つめ、耳を凝らして彼らの声を聴こうとした。


「…口が悪すぎる」


 両者ともにそれは酷いが、女の方は特に顕著(けんちょ)のようだ。確実に相手の心をへし折るような言葉を息をするようにつらつらと吐いている。


「お」


 電池が切れたように彼らの口論は突然終わった。両者は気まずそうにするわけでも無く、それが日課であるかのようにけろりとしていた。制服の男の仲裁が効いたのだろうか。

 彼らは車に乗り込むようだ。金髪の男が運転席に回る。そうしながら、何やら制服の男女へ言葉を投げかける。それは、他愛もない世間話のような様相であった。


「―マジか」


 だが、彼らを覗き込んでいるこの男にとって、その発言は天地を揺るがすような一大事であった。

 彼らはそのまま車で走り去っていった。


「うーむ。悩ましいねぇ」


 男は考え込むような仕草をして、一人途方に暮れた。

 男が長年の訓練で培った読唇術と先天的なそこそこの聴力で読み取り、聞き取ったのは以下の会話である。


『てことはよぉ。一昨日くらいにこの辺りで騒いでた引ったくり()()()のもお前らってことか?』

『え、何故それを?』

『いや、あいつめちゃくちゃ騒いでたぜ。カップルがどうの、ビームがどうの』

『本当ですか…。目立った行動は避けないとですね』

『はっ、下衆(げす)がしっちゃかめっちゃかな御伽噺(おとぎばなし)(わめ)いても誰も信じないわよ。…でも、以後気を付けましょう』

『ま、さっき大暴れしちまったけどな。ははは…』

『お前のせいだろ。ミジンコが』

『黙れ。いや、タッちゃんには本当に申し訳ないと…』

 

()()は気になるが……出世に繋がるのか?これは」


 山里冬寂巡査は、今日も血眼(ちまなこ)になって町を見回っている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ