閑話「悪夢と正夢」
七不思議戦争、これより先はもう後がない、正真正銘、最後の調査活動。宇治山君に体調を心配されながらも、私は決行を固く宣言した。丑三つ時―午前二時の十五分ほど前に校門前で集合することを宇治山君と約束し、解散。夜半の起床に備え、軽い夕食を済ませてすぐに就寝。
いつまでも自分の身体を騙せはしないようだ。今日までの一週間の酷使を想えば、いくら自分の身体と言えどボイコットされても仕方ない。
余程疲れていたのだろう。ある夢を見た。悪夢と呼んで差し支えない、夢。
それは遠く、幼き日の凄惨たる記憶。
炎。死臭。幼き叫び。
『お母さん!お父さん!』
特異点。エネルギー。胎動。
『うわあああああああああああ』
拒絶。退屈。達観。
『世恋!もうその力は使うな!』
応急。癒え。憧憬。
『世恋。漏月。この世にはいろんな場所があって、いろんな人がいて、いろーんな繋がりが果てしなく広がっているんだ。君らや私なんか、世界のほんの、ほんの、ほんの、ほーんの一部に過ぎない。…だけど、君らがいることには意味がある。誰にだって意味があるのさ。私の弟子なら、それを見つけてごらん』
意味。意味。意味。意味。意味。意味。意味。意味。
図星。動揺。憂鬱。
『誰も信用してねえもんな』
他者。他者。他者。他者。他者。他者。他者。他者。
「―っ」
起床。
大量の発汗。荒い呼吸。迸る熱。
「……先が思いやられるわ」
※※※
七不思議戦争、これより先はもう後がない、正真正銘、最後の調査活動。長良井さんの体調を心配しながらも、彼女の強固な決意を無下にできなかった。丑三つ時―午前二時の十五分ほど前に校門前で集合することを長良井さんと約束し、解散。夜半の起床に備え、軽い夕食を済ませてすぐに就寝。
この町に来てから毎日同じ夢を見る。多分、同じのはずだ。
―三人立っている。一人は俺だ。隣に一人、向かいに一人立っている。俺以外のその二人は、よく顔が見えない。
俺には、両腕がない。肘から下が、ない。そして、込み上げてくる、血のような、胃液のような何かを、必死で制して、そして、隣に立っている一人がこちらを向いて、何かを言って、消えて――
「――。ふぁ……よし、支度するか」
起床。
欠伸をしながら、軽く伸びをする。
「また、夢…見てたのか?」
何か同じ夢を見ている気はするのだが、肝心の内容はいつも曖昧で、よく思い出せない。