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鎖町百景-百人の異能力者の群像劇-  作者: 読留
卯月・七不思議戦争
19/58

4/15-②「調査結果:体育館」

「とりあえず、『この学校にいる他の怪異の居場所』と『お前は一体何者なのか』、この二つを教えてもらうわ」


 目の前にいる敗北者に私は問うた。


「は?誰が教えるかっ、バーカッ!!」


 だが、まだ立場を弁えていないその幼子は私を罵倒する。非常に滑稽(こっけい)である。


「はい」


 宇治山君が一枚の紙を敗北者の眼前に突き出す。その紙は電車の乗車切符ほどの大きさである。


「僕はこの学校にいる他の怪異の居場所は知らない。僕はお前らが言うところの幽霊・妖怪だ」


 途端に、チャンネルが変わったかのようにこちらが聞きたい情報を素直に、まっすぐにタマオが紡ぐ。


「…はっ」


 ふと彼は我に帰った。


「感謝するわ、タマオ君」

「ありがとう、タマオ君」

「クソぉぉぉぉぉぉっ!!悔しいぃぃぃぃぃぃっ!!うわあああああああん」


 恥も外聞(がいぶん)もなく、彼は泣き叫び床を転げ回る。だが、突然うつ伏せになって静止した。


「――か?」


 (あり)の声かと思うほど何を言っているか聞き取れなかった。


「――僕のことか?」


 徐々に言葉が形を帯びていく。


「『タマオ』って……その目も当てられないくらいに安直な名前って、僕の事かぁぁぁぁぁっ!?」


 タマオは世界の終わりが訪れでもしたかのように絶叫した。


「…それには同情するわ。目も当てられないものね。常に球を抱えている男子で球男(タマオ)。…可哀想」


 心からの気持ちを包み隠さずに述べた。


「あはは…」


 宇治山君は気まずそうに苦笑する。


「黙れ黙れ!…その様子だとお前らじゃないのか?」


 我々二人と一体は同時に一人の男へ視線を向けた。私たちがいるコートとは逆―玄関側のコートにいる男である。


「いや、何でこの状況で普通にバスケしてるんだ!おい!」


 その男―和田は私たちの話し合いには目もくれず、黙々とバスケットボールに打ち込んでいた。先程までの微気力とでも形容すべき彼はどこへやら、気力に満ち満ちて革製の球と(しのぎ)を削り合っていた。宇治山君には悪いが、彼の技術は全てにおいて宇治山君のそれを上回っていた。バスケ部だから当然ということではない。何故なら、宇治山君は少し練習すればそこらのバスケ部は蹴散らせるようなレベルにいるからである。つまり、和田の非凡性は「バスケ部」というぼんやりしたステータスのみでは語れないということだ。


 その姿勢は旋毛(つむじ)から指先一本ずつに至るまで細かく把握され、そして制御されている。ボールは彼が想定するように動いている。いや、動かされている。そして、一連の動作の最後には赤い輪のちょうど中心を潜っているのだ。心地よさそうに。


 彼はクロスオーバーをする際、レッグスルーやビハインドザバックなどの、いわば特殊なドリブルは使わず、フロントチェンジだけを用いた。初歩も初歩の技術である。だが、彼にかかればそれすらもディフェンスを殺す凶器になろうということが、容易に見てとれる。基礎能力を極限まで高めた結果、何者をも寄せ付けぬ聖剣のように真っ直ぐで破壊力のあるプレイスタイルになったという印象である。


「おい!…おい!……おい!!!!!!!」


 和田はやっとタマオの呼びかけに気づき、こちらに意識を向ける。


「なんだ?タマオ」

「その名で呼ぶな!お前か?名付け親は?」

「え、うん。分かりやすいだろ」


 タマオが和田を殴りにかかったので、宇治山君が例の券で制止した。


 ※※※


 それから、呆れるほどに同じ流れを彼らは繰り返した。


「…それで、何人殺したの?」


 長良井世恋がタマオに問う。


「へへへへっ、いい質問だな。6人は食ったかな」


 タマオは得意気にふんぞり返って質問に答える。


「はい」


 そして、宇治山辰巳が機械的に例の券を出す。


「一人も殺してないよ……ぐわあああああああああ」


 タマオが恥じらうあまりに絶叫し、床をのたうち回る。やがて、10秒ほどでふらふらと立ち上がる。


「なんで、和田君には手を出さなかったの」


 長良井の質問を皮切りに、再び、途方もなく仕様もない輪廻(りんね)が巡る。このサイクルの合間合間に和田が放つスキール音、ドリブル音、リングやネットが揺れる音が挿し込まれるのであった。


「ふんっ、寛大な心遣いさ」


「はい」


「あいつが僕を見えてることに気づかなかったんだよ……ぐわあああああああああ」


「あなたのことを認識してる人でないと手を出せないの?」

「いいや、誰にでも手を出せる入れ食い状態さ」


「はい」


「基本そうだ。霊感のある奴にしか危害を及ぼせない。だが、稀にいる強大な力を持ったイレギュラーは誰にでも手を出せる。ちなみに、僕は当てはまらない……ぐわあああああああああ」


「あなた達はどういった存在なの?」

「さあ、一体何なんだろうなあ?」


「はい」


「高次元の存在さ。こっちの次元でいうところの四次元だよ。ある程度の基準を超えた力を持つ者はこちらに干渉できるようになる。その時間や空間に制限はあるがな。……ぐわあああああああああ」


「なぜ人を襲うの?」

「美味いからさ。それ以外に理由がいるのかい?ははははは」


「はい」


「それに加え更なる力を手に入れられる……ぐわあああああああああ」


「私たちの能力について何か知ってる?」

「知らん」


「はい」


「知らん。ただ、あれは二度と使うなよ。痛くて僕泣いちゃうから……ぐわあああああああああ」


「情報提供、感謝するわ。というか、あなた凄いわね。そこまで無意味で無謀な反抗をしてくるのは尊敬に値するわ」


 長良井世恋は、やけに真剣味を帯びた表情と声音でその言葉を放った。それが、皮肉としか取れない文字列を何十倍にも引き立てる調味料としての役割を果たし、案の定、タマオは致命傷を負った。彼はあまりの怒りと悔しさでその身を破裂させんとする勢いであった。しかし、当の長良井は本音を言ったまでなのであった。宇治山は、タマオを(いつく)しみ(あわ)れむような母なる笑顔を浮かべていた。


「他の怪異の居場所を知らないとのことだから、駄目で元々なのだけれど、この中に見知った者に関連する話はあるかしら。そちらの次元の言語体系など知らないけれど、日本語は読める?」


 長良井はそんなタマオの様子を気にする風もなく、一枚のルーズリーフを取り出しタマオに突き付けた。それは異能部が先日取材した鎖倉高校に蔓延(はびこ)る七不思議の一覧表であった。長良井がまとめたものらしく、黒のボールペンだけを使って端正な文字が(つづ)られていた。黒一色だけしか使っておらず、これといった枠線なども引かれていないのにも関わらず、七不思議ごとのまとまりと概要が一目で脳に入り込むような、極めて完成度の高い資料であった。


「馬鹿にしてるのか?お前らの次元の言語は全て操れる」


 タマオは相変わらず、いちいちふんぞり返ってから物をいう。しかし、もう懲りたのか例の券を使わずともすんなり資料を手に取った。宇治山も肩透かしを食らったようにあやうく券を落とすところであった。

 実際のところ、タマオはその資料を気が済むまで一心不乱に破り裂き続けるつもりであったのだが、ある文字列を目にしたことで、その気は失せた。


「…テケテケの横にチェックが付いてるが、どういう意味だ?」


 タマオは何やら長良井たちを値踏みでもするかのような視線を向けだす。その真意は()み取れない。


「昨夜、そいつに遭遇し襲われたから撃退したというまでよ。何?もしかして、仇討(あだう)ちとか考えてるのかしら」


 長良井は、どこまでも挑発的にタマオと対峙する。宇治山は非常時のために券を今一度掴みなおす。


「そうかそうか、()()はお前らがやったのか…」


 タマオは、四次元(ふるさと)に思いでも馳せるかのように遠い目をして体育館の天井を見上げた。彼の身体がただならぬ震え方を始める。


 「…()()?まるでテケテケの負け様を既に見知っているような言い方ね…」


 長良井は、タマオの発言の違和感を指摘する。もし、タマオがテケテケの同胞であったりしたのならば相当に恨まれていてもおかしくはなかった。昨日、その傷を負わせた本人ですらも足が(すく)んでしまうような、目も当てられないほどの深手を彼女たちはテケテケに負わせたのだ。タマオからその深手と同等の悪意を向けられても、やはりおかしくはない。


 とはいっても二人には例の券がある。そこまで緊張して身構える事態では無く、宇治山はきちんとそこを理解しているようで、程よい余裕が感じられた。しかし、長良井は様子が違う。今まさに命の取り合いが巻き起こると言わんばかりの張り詰めようであった。そして、心なしか後退りして見えた。


「―あははははははははは」


 タマオは、今まで心の奥底に沈殿していた汚泥(おでい)をそこら中にまき散らすように、それはもう腹を抱えてけらけら笑った。今までの「ませた」という次元を超えた凶悪な発言の数々が(かす)むほどに、ただの健康的で無邪気な男児のように笑った。


「あー、愉快愉快。良くやったな、お前ら。それだけは褒めてやる」


 タマオは目に浮かんだ愉悦(ゆえつ)の涙を拭いながら、その見た目に反した(つぶや)きをした。長良井は無意識のうちに自身が緊張していたことに気づき、それを解いた。宇治山はそれを横目で一瞥(いちべつ)し、何か長良井を案じるような表情を浮かべた。


「仲間というわけでは無いようね」


 長良井は瞬時に切り替え、いつもの淡々とした声質に回帰する。


「馬鹿を言うなよ。四次元存在ともあろうものが、獣のように理性の欠片もない振る舞いをする。そんなことが許されると思うか?それでは人間に劣ってしまうのだ。肉体的には勝っていても精神的に劣っていては四次元たる意味は無い。テケテケなど、その典型だ。虫唾(むしず)が走る。最近、あいつの無様な姿を遠目に見たが、いや、実に清々しかったね。しかも、人間に負けた故に負った傷だと来た。ああ、実に愉快だ」 


 晴れやかな表情で、タマオは淀みなく舌を回した。


「おそらく世界一のマセガキよ、あなた。それで、気持ちよさそうにしているところ悪いけど、あなたもその人間に負けたのよ。体力でも、精神でも」


 もう長良井の調子はいつも通りである。相手の痛いところを無遠慮に突いていく。


「ぐっ……ひゃ、百歩譲って、肉体の勝負では負けたとしても、精神で負けたとまで言われる筋合いはないね」


 タマオも何とか食らいつく。しかし、先程まで子どもらしからぬ言葉をつらつらと吐いていた割に、世恋の言葉の弾丸を前にすれば、その殺傷性能の差には目も当てられない。


「いいえ。頭に血が上って忘れてしまったのかしら。宇治山君に負けた腹いせに、球技でもスポーツですらもない、暴力という手段で私に向かってきたのよ、お前は」


 タマオは文字通り膝から崩れ落ちた。宇治山はすぐさま彼の後方に回り、背中をさすり始める。


「球技という緩衝材(かんしょうざい)を挟んで、その勝利条件に相手の命を頂くというやり方を取れば、理性的な殺傷になるという見方を取ってるようだけど、果たしてそれもどうかしら?だって、あなた負けるなんて微塵(みじん)も思っていなかったでしょう?それはつまり、テケテケと同じように抵抗する術の無い弱者を(むさぼ)り食うということよ。球技という行為の意味はあってないようなものなのよ。あなたはそれでも人間側には勝負を受けるか受けないかの選択権がある、と反論するでしょう。それは一理あるけれど、あくまで選択権があった場合の話よ。本当に選択権があるの?だとしたら、お前みたいな不気味なガキと誰が勝負するのよ。ほとんどが、勝負を吹っ掛ける前に一目散で逃げていくわよ。けれど、お前はそれを予測できない馬鹿じゃない。なら、どうする?宇治山君はたまたま受けて立ってくれたけど、断られたら?逃げられたら?相手の興味を引くような交換条件を提示する?何かを人質に取る?それとも暴力で言うことを聞かせる?まあ、実際お前にしかそれは分からないけれど。でも、明らかに宇治山君が何か交換条件を提示するように動いてはいたわね。……ああ、気にすることはないわ。あくまで下等な三次元存在の()()だから」


「いや、気にするわ!ボケ!」


 タマオは泣きべそで心の底から叫んだ。宇治山は、やはりその後ろで母なる笑みを浮かべて背中をさすり続けていたのだった。タマオもどこか宇治山を受け入れるかのように、全力で慰められているように見える。


「あれ、薄くなってる」


 宇治山がそんなことを不意に言った。長良井もそれを聞いて異変に気付いた。タマオが徐々に透け始めている。床の木目がタマオの身体を侵食しようとしているようであった。


「ぐすっ、どうやら時間切れだね。僕はこれにてお(いとま)させてもらうよ」


 鼻を(すす)りながらタマオはそんなことを言った。彼が鼻を啜っているのは先ほどの長良井の言葉の槍に貫かれたからなのであるが、ここだけを見ると、仲の良い姉もしくは兄のような親戚との別れを惜しむ()()()子供に見えなくもない。


「なるほどね。これがさっきあなたの言っていた時間制限というわけね」


 長良井は淡々と分析した。


「タマオ君、最後に一つ教えて」


 宇治山は両手を顔の前で合わせて謙虚さを演出しつつ、爽やかに片目を(つむ)って親しみやすさも演出した。


「タマオって言うな!」


 その演出も虚しくタマオの「タマオ」という地雷を踏みしめて儚く散った。


「で、何」


 ように見えたが、意外にもタマオは友好的であった。多少乱雑な返答ではあるが、これまでの宇治山のタマオへの接し方が功を奏したのだろうか。例の券を使わずとも、質問に応じたのである。


「いや、試合前に俺と君がした約束について知りたくてね。これは全ての四次元存在が出来るものなの?」


 宇治山は例の「なんでも言うことを聞く券」を右手で上下に揺らしながら、そう問うた。


「そのことか。僕以外の奴らにも出来る。お前らの次元では『契約』もしくは『縛り』と呼ぶはずだ。だけど、人間相手にこれを結ぶ奴は滅多にいないと思うぞ。僕らにとってお前らは栄養効率の良い食糧でしかないからな!ははははははは」


 虚言を吐いている様子はない。そう宇治山は判断した。


「自分は他の奴らとは違う理性的な存在だから、他の奴らがしない契約を交わして理性的に命を頂こうという魂胆(こんたん)も含まれていたのね。それで敗北して権利を取られるだけ取られておめおめと帰っていくなんて…。殊勝すぎるわ」


 「黒ひげ危機一髪」なら即座に負けるであろう勢いで、言葉の短剣を何十本も長良井が差し込んだ。


「はっ倒すぞ!お前!」


 黒ひげが飛んだ。


「バーカバーカ!アホ女!妖怪悪口娘!」


 盛大に中指を立てて唾を飛ばしながら、タマオはほぼ見えなくなるまで透けていた。


「じゃあね、タマオ君。これからは人食べないでね。また遊ぼうね」


 宇治山が券を別れの挨拶代わりに振りながら、そう言った。彼は本気で別れを惜しんでいるようだった。


「あああぁぁぁ……」


 食人を禁じられたタマオの絶望の悲鳴は四次元に吸い込まれ、余った悲鳴は三人しか存在しない体育館に反響した。


「よし、行こうか。長良井さん」

「ええ」


 異能部の二人は瞬時に、次に行うべき行程を見据え体育館の入り口へ踵を返した。振り返ると、依然黙々とバスケットボールに打ち込む和田が煌めく汗をコートに滴らせていた。


「和田くーん。俺らそろそろ行くねー」


 宇治山は彼に近づきながらよく響く声をかけた。和田は丁度ミドルシュートを放ったところであった。和田の爽やかな汗にかかった虹のように、美しい弧を描いていた。


「ん、おう。タマオはもう帰ったのか?」


 和田は宇治山の方を向いた。と同時にボールは赤く縁取られた穴に吸い込まれた。揺らぎのない網の音だけが鳴った。


「うん。体育館入れてくれて助かったよ。あと、君がいなかったらタマオ君に会えなかったよ。ありがとう」


 宇治山は感謝の意を込めて微笑んだ。


「お、おう。よかったな」


 和田は少し戸惑いながらも、それを快く受け取った。


「名前教えてくれないかな?」

「ん?和田だけど?」

「ははっ、いや、そうじゃなくて下の名前だよ」

「あー、そういや言ってなかったか」


 長良井は二人のやり取りを少し後ろから見つめている。


「タツロウだ」

「どういう字を書くの?」

「『たつ』に『ろう』でタツロウだ」

「ははっ、それだと分からないよ」

「あー、すまん。難しい方の『龍』に『狼』で、龍狼(たつろう)だ。和田は和食の田んぼって書く」

「はははっ、名字までありがとう。良い名前だね。俺、まだちゃんと名乗ってなかったよね?宇治山辰巳、よろしく」


 宇治山が手を差し出した。


「知ってるよ、有名人だ。よろしく」


 天駆(あまか)ける神獣を表す文字を共に名に持つ両者は、握手を交わした。固く、とまではいかないような、多少の弛緩(しかん)(はら)んだ握手であった。そして、腕を組んだ長良井が前に進み出た。


「長良井世恋よ、よろしく」


 彼女は、特に手を差し出すようなことはしなかった。


「有名人パート2。よろしく」


 和田もそれに応え、さっぱりとした返答をした。


「もう私たちは出て行くのだけど、最後に質問と頼み事を聞いてくれないかしら」

「おう、重くなければな」


 和田は胸を張って頼りないことを言った。


「それじゃあ、質問するわ。12年前の『隕石』の日、あなたの身に何かあった?」

「え、特には。何だ?この質問」

「無かったなら良いのよ。ちなみにその霊感はいつから?」

「物心ついた時からだな。……あー、そういえば」

「なに?」

「よくよく思い出したら12年前から、見かける幽霊の数がだんだん増えてるかもしれない」

「……なるほど」

「おう。まだ聞くことあるか?」

「質問はもういいわ。一つだけ頼みごとがあるの」

「おう、重くなければな」


 和田は念を押した。


「タマオがこの場に出現したことの証人になってほしいの」

「え、うん。まあ、うん。いいぞ。意味は分からんけど」

「助かるわ。その時が来たら召喚するわ」

「いや、裁判でもすんのか?まあ、いいや。じゃ、気を付けて帰れよ」

「じゃあね、和田君」

「失礼するわ」


 こうして、二人の有名人は体育館を後にした。

 

「ふー、何だったんだ。あいつら」


 体育館は急激に静けさを増した。再びいつもの、タマオも異能部もいない和田の朝が戻ってきた。窓の外の空は白み始めている。


「静かだ」


 和田がつき始めたバスケットボールの一音目が、体育館を微かに揺らした。

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