4/14-⑤「取材記録:一年生 文芸部 女子生徒」
1-1教室にて。
「七不思議ですか?昨日、それらしいこと聞きましたよ」
入学してきたばかりの一年生にこの高校の七不思議を聞いて回るのは、ほぼ無意味になる可能性はあったが、今は少しでも情報が欲しいところだ。その矢先、幸いにも見つけた。
「あのその前に……私、一昨日文芸部の体験に行った長谷川清乃と申します。長良井世恋さん……ですよね?」
ボブの黒髪を揺らすその女子生徒は、どういう訳かそんな質問をしてきた。小柄で小動物のような可愛らしさがあるが、目力が強く、言動も溌剌としている。
「ええ。そうだけど、何か?」
「あ、やっぱりですか!一昨日、文芸部に退部届出しに来てましたよね。その時ちらっと見かけたんですけど、綺麗な方だなと思って…少し気になってたんですよ」
何が言いたいのだ、この女は。
「はぁ、それはどうも。それで…?」
「え、それだけです。あ、七不思議ですよね。文芸部の先輩に聞いた、図書室にまつわる話なんですけど…」
話がころころ変わりおる。非常にやりにくい。そして、文芸部の先輩に聞いた、か。私はそんな話はされたことはない。あそこの部員とはほぼ誰とも、ろくに喋ったことはないからだ。まあ、余計に関わってくる西尾のような人間がいない、静かな部だから加入していたのだが。
「図書室のどこかにある本があるらしいんですよ。タイトルもどんな話なのかも分からないらしいんですけど、それがもうあり得ないぐらい面白いらしいんです。先輩方は読んだことはないし、その本を見つけたことも無いんですけどね。それで、その本は不思議なことに、年月を経るごとにページ数も登場人物も増えていくらしいんです。それは何故か…」
長谷川はいかにも怖がらせようというような間を作って、
「読んだ人が取り込まれるかららしいんですぅ…。それで、取り込まれた人は本の住人になってしまうからこの世界の人の記憶からは消えてしまうんだとか…。それは、親であっても、大の親友であったとしても……。どうです!?怖いでしょう?」
おどろおどろしい口調で結末を言ったかと思ったら、突然、明朗快活に感想を求めてくる。
「ははは、それは怖いね。情報提供ありがとう」
宇治山君は長谷川を軽くあしらうようにして、礼を言う。
「もっと怖がってくださいよぉ」
長谷川は悔しそうにする。
「それじゃ、私たちは行くわね」
「あの、最後に名前だけ呼んでください!世恋先輩」
「は?嫌よ」
教室を出ながら振り向きざまに彼女の要望を切り捨てる。何故そんなことをしなければいけない。時間が無いのだ。第一、貴様の名前など忘れた。
「はあ…ありがとうございます!」
恍惚とした溜息が聞こえたかと思うと、腰を折る音まではっきり聞こえる程、全力で背中越しにお辞儀をされた。本当に意味が分からない。冷汗が頬を伝った。