4/14-①「取材記録:二年生 男子生徒」
「昨日は従兄妹共々見苦しいところを見せて申し訳なかったわ」
朝、玄関を出て顔を合わせた瞬間、宇治山君に昨日の別れ際の私の醜態と漏月の非礼とを詫びた。彼は少し意表を突かれたように、謝罪を受け入れた。
「あはは、気にしないでよ。雲間さんが異能者だと分かったんだから、前向きに考えよう。今日からは切り替えて七不思議戦争に集中しないといけないしね」
「そうね、その通りだわ。ベストを尽くしましょう」
そうして4月14日の金曜日は始まった。空は灰色がかっていたが、雲々の隙間から中途半端に陽の光が差し込んでくるような、もどかしい天気であった。
※※※
放課後、情報収集を始めた。松浦夕凪には七不思議戦争の話はしていないが、やはりそれが知れたら面倒だろう。部の存続をかけた対決など教員が認めていいものではない。だが、異能部の活動内容からして七不思議を取材することは自然な流れなので、こちらが余程のボロを出さない限り、疑いを持たれることはないだろう。
2-3教室にて。
「七不思議?あー、色々あるらしいけど、最近タマオの噂は聞くな」
教室に残って駄弁っていた、同じクラスの常にやかましい中心的グループの男女に話を聞いたところ、心当たりがあるようである。こういう類の人間の話はつまらないのなんので、出来る限り避けたいところではあったが、要らぬ噂をいくつも携えているのもこの人種なのである。背に腹は代えられない。
「タマオ?それはどういう噂なの?」
宇治山君が詳しく聞き出そうとする。
「あー、バスケ部の奴から聞いたんだけどよ。朝練とか居残り練とか、一人で体育館にいるときに、今にも死にそうな顔色した小学生ぐらいのガキンチョが出てくるらしいんだよ。そいつが何かしらボールを持ってるらしくてよ、だからタマオって呼んでるんだと…」
この手の話には「死」とか「呪い」とかそういう類の言葉がつき纏うはずだが、特に実害は無いのだろうか。
「それで?」
質問することにした。
「え、それでって…終わりだけど」
つい高圧的な質問になってしまった。彼を怯ませてしまった。
「そう…で、その話は誰から?」
「和田って奴…」
「そう。他に何かあるかしら」
「無いっす…」
「そう、ありがとう。行くわよ、宇治山君」
ひとまず情報は得られた。
「―あのさぁ…」
教室を出ようとしたときグループ内の一人の女子から呼び止められる。一応、申し訳なさそうな声色ではあるが、好奇心がダダ漏れだ。容易に質問内容を推測できる。
「二人ってやっぱ付き合ってるの?」
やはりだ。
「は?」
振り向きざま、無意識に威圧的な声を出してしまっていた。途端に奴らは押し黙り、私たちから視線を逸らす。教室から出た後、宇治山君に苦笑されながらあり得ないくらい顔が怖かった、と指摘された。