sideマリー
メルティがニヤニヤとしながら、わたくしとケントは共に帰路をどうしようかと考えていた。あと、なんでかは分からないけども、とりあえず水の魔法で下半身を洗った。臭いは他の民家からレモンを探して来て、果汁を垂らした。なんで自分から臭いがするのかは謎だけど。
自分で魔法を使うと、メルティの魔法が馬鹿げていると思わざるを得ない。
わたくし達が魔法を使う際は溜めがいるのだ。周りにある魔素を、魔法へと変換する時間がいるし、何より疲れるのだ。粘土を練る時だって、手が疲れるように、魔素を練って魔法へと変化せるのは疲れる行為だ。それも、腕立て伏せを何回もするぐらいには。
だけども、メルティには疲れた様子も無い。あれだけ大きな魔法を使うには時間もいるし、人によってはぶっ倒れて何日か寝込むぐらいなのに、だ。人を殺すだけの威力というのは本当に馬鹿げているのだ。練習も、疲労も常人では不可能だと思えるほどに経験しなくてはならない。だから、みんな魔法使いでは無く、騎士になりたいと思うのだ。騎士ならば練習して模擬戦すれば、自分がどれだけ強くなったか分かる。
魔法の方は分かりずらい。火の魔法ならば最初は火花から始まり、マッチの火ほどまで火が大きくなるのに常人ならば半年はかかる。それも毎日、何時間も練習してだ。
メルティのように火柱が立つ程と言うのは、熟練も熟練の魔法使いでしか出来ない域だ。
メルティが魔物だと思えて来る。
ただ、若くて才能がある人間というのも得てして存在するのも分かっている。多分、メルティもその類なのだろう。
わたくしはそう自分を言い聞かせる。ケントだって、若いのに火球ほどの火の魔法を使えるのだし。
命の恩人なのには違いないのだ、恐れていては悪いし、メルティがこのままわたくし達と行動を共にしてくれる様になれば護衛としてこれ以上のものは無い。
「メルティ、やっぱり歩くしか無い。ごめんだけど。」
ケントがそう言った。ケントはもうタメ語でメルティに話しかける事にしたようだ。
恐ろしいとは思わないのかな?
「えー、まぁ、仕方ないわね。」
渋々といった様子で、メルティが納得してくれた。
「メルティ、僕らは君の戦力に頼らざるを得なくなると思う。自衛くらいは出来るけども、騎士と戦うとなると僕は自分の身を守るので精一杯だ。それ以上となると、やっぱり君の助けがいるんだ。それでも良いのかい?」
ケントがそう言う。デメリットを語っているようだけども、一番のデメリットを伝えていない。わたくし達に与するという事はこの領地の騎士団にも、他の貴族からも良い顔をされないって事だ。身に覚えのない言いがかりをつけられる事だってあり得るのだ。
多くの貴族は表面上は市民を気遣う様な事を言うけども、気遣うような対応をするけども、裏ではどう思っているかわからない。市民なくして貴族はあり得ないと分かっているが、内心では見下しているのだ。
「別にどうだって良いわよ。」
「ありがとうございます。」
わたくしとケントは共にそう言い、頭を下げる。
「できれば良いのですが、お嬢様を優先的に助けてはいただけないでしょうか?」
ケントが伺うように言う。
「まぁ、それも良いわよ。」
メルティがそう言うので、ケントは深々と頭を下げた。
「なんかもう飽きたわ。どうでも良くなってきたわ、行くわよ。」
そう言って、メルティは家の外へと出ていく。わたくし達は唖然としながらも、メルティについていく。すると、やはりメルティは明後日の方向へと向かっていた。真逆だ。
「メルティ!?こっちだよ!!」
わたくしは慌てて叫ぶ。
「それならそうと早く言いなさい。殺すわよ。」
えぇ、んな理不尽な。
「ご、ごめんなさい?」
自分でもよく分からないが、謝ってしまう。
「お嬢様、そんな無闇に頭を下げてはいけません。」
ケントが諭すように小声で言う。
「そ、そうだけど怖いのよ。」
「それもそうですが貴族としての矜持を持っていください。」
わたくし達は漁村から食料や、旅に必要な物質を奪い、漁村を出る。漁村では彼方此方で村人が死んでおり、申し訳なくなる。わたくし達が訪れなかったら、と思わなくも無いが、それだとわたくし達はメルティにも助けられず、騎士に殺されていたと思うとこれで良かったととも思う。良いも悪いも無いけども、巡り合わせだ。
わたくしがもっと大きな港町くらいにする。
メルティを先頭に森の中を進む。
「……飽きたわ、歩くの。遅すぎるのよ。」
メルティがそう言って、わたくし達の方を見る。
「ごめん、けど、これでも急いでいるんだ。」
そう、わたくし達は自分達でもこれだけ走った事が無いくらいに全力疾走で駆けていた。
「そう、じゃ、仕方ないわね。」
意外にもメルティは聞き分けが良かった。
それからは珍しく、というよりか奇跡的にも魔物と出会う事がなく、家へと後直ぐの所まで着いた。驚くほど順調だった。
領主の館は街の外れにあり、わたくし達は街の外壁を回り込み、館へと向かう。
壁の中からは普段通りの活気ある声が聞こえ、街の方には何も起きなかった様子だ。それに安堵するが、もしかすると全てのことが終わり、両親は殺されたのかも知れないと思うと恐怖で足が震えそうになった。
館へと近づくが、声や戦闘の音は聞こえない。
「これ、このまま行くとあれよ?つまらないわよ。」
メルティがそう言うので、わたくし達は足を止める。
「……どうゆうことですか?」
わたくしがそう言うと、メルティはつまらなそうな顔をしながら言う。
「死ぬわね、お前達。館を囲うように何十人も人がいるわ。誰も戦闘をしている様子が無いし、門の前の道には誰もいないわ。待ち伏せね、あれ。このまま行ったら襲われて死ぬわよ、お前ら。」
メルティがそう言った。
「え?サーチが使えるの?」
「ん?気配で分かるじゃないのよ。」
気配?
わたくし達は三人揃って首を傾げてしまった。