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とりあえず、領主の家へと行く事になった。とは言っても、この漁村からは遠いらしく、歩いてだと二日はかかるらしい。それも急いで、だ。
面倒だ。
「じゃあ、お前らなんで此処まで来たのよ?」
「襲われて仕方なく、夜通しで逃げてたら此処まで。漁村の廃屋で休んでたら、村が燃やされていたの。まさか、此処までするとは思って無かったの。」
そう言う、マリーは涙目だ。
「いえ、お嬢様は悪くありません。ぼ、私が此処を選んだんです。申し訳ないです。」
「いえいえ、そんな事ないわ。最終的に決めたのは私だもの。」
なんだか慰め合っている。
「そんな事はどうでも良いから、私が聞きたいのは一つよ。他に仲間はいるの?いないの?親は味方?」
一つ?二つだったかも。
「ごめんなさい。他に仲間は、いません。親はもう、分かりません。謀反されたのは私が原因ですし、もしかしたら、もう。」
もう死んでるかも、と。
「はは、ウケる。結構、詰んでるね。」
面白い展開になってきたかも。
「あ、そう言えば、どっちがエルフなの?」
聞くのを忘れていた。
「母です。」
「へー。」
「……興味なさそうですね。」
「えぇ、興味なんて全くないわ。」
「だったら、なんで聞いたんですか。」
「なんとなく。」
どっちを殺したら盛り上がるのか知りたかっただけだから。だけども、なんだかつまらないとも思う。殺すだけってのも、なんか盛り上がらない。モチベーションが湧かない。
逆にめっちゃ助ける?
んー、それもなんだかイマイチだ。それにもう殺されててもおかしくないし。
行き当たりばったりでいっか。
「お嬢様、どうしますか?どう帰ります?」
「どうしよう。ただ、家に帰るしかないんじゃ。」
「ただ家に帰ったら殺されるだけなんじゃないかしら?」
謀反ならば相手の数も多そうだ。しかも、貴族なら防衛の手段も持ってるだろうし、なんだか膠着状態になっていてもおかしくなさそうだ。
「そうかもしれませんが現状を確認するのが良いと思うのですが。」
「別になんだって良いわよ。私は改善案なんて言わないわ。文句を言うだけよ。」
「……そうですか。」
「そうですわよ。」
「ところでメルティさんは戦っていただけるのですか?」
ケントがそう聞いて来る。
「えぇ、戦ってあげるわ。正直言って、私一人いれば良いと思うわよ、戦力なんて。」
「そんなバカな、と言えない所が恐ろしいです。」
ケントがそう言い、マリーが同意するように頷く。
「本当に戦っていただけるんですか?ありがたいのですが、御礼などを期待されていたらご期待に添えないかもなのですが。」
「お礼はどうだっていいわよ。」
私は本心から言う。
「本当ですか!?ありがとうございます!!」
そう言って、マリーは私の手をブンブンと振るように感謝する。
「ふん、感謝すると良いわ。」
私は偉そうに胸を張って、そう言った。
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sideマリー
エルフとの混ぜ物と呼ばれ、剣先を向けられた。
わたくしはエルフの母から産まれた。母は父の愛人であり、正妻では無かった。
愛人とは言っても、そこにはきちんとした愛があった。貴族としての体裁を保つ為に制裁と結婚し、愛は母と育んでいた。
わたくしも、もう十三歳になるので複雑な愛の形だと分かるけども、子どもの頃は理解できず、母と父に反抗した時もあった。今も少し、反抗精神が残っているけども。
父と正妻の間には全くと言っていい程に子どもが出来なかった。そして、父も焦ったのだろう、わたくしが十歳の頃に、わたくしを正統な後継者だと口外したのだ。そこからはどんどんとおかしくなっていった。
正妻は父にブチ切れ、家を出ていき、父の部下である人達も私に将来、仕えるというのに難色を示した。父を慕っていても、わたくしを慕っている訳でもないし、わたくしが人間でも無いからだ。
そんな事は分かっていた。
わたくしが受け入れられる訳が無いというのは分かっていた。
だけども、現実でそれを実感すると悲しかった。
後継者になってから三年が経ったある日の事、わたくしは叩き起こされた。
家の外からは野蛮な雄叫びが聞こえ、混じりっ気の無い敵意がこもっていた。
謀反だと伝えられても、狼狽える事はなかった。予感はしていたのだ。
わたくしはケントに連れられ、漁村まで逃げた。家族や、家を捨てて。
わたくし達は廃屋に身を潜み、追っ手をどうにかやり過ごそうとしていた。だけども、向こうには探索の魔法を使える者がいたのだ。炎、水、風などの誰でも鍛錬さえすれば使える三元素魔法とは違い、才能がいる魔法を使える者がいたのだ。
聞くに耐えない罵詈雑言を浴びせられ、元は父の部下の男に剣先を向けられる。
父の部下では一番、強いとされる騎士だった。父の持つ騎士団の団長であり、実力は折り紙付きで、本来ならばこんな領には似つかわしく無い程に強い騎士だった。
『あなたも裏切るの!?』
わたくしは団長にそう叫んだ。
『すまねぇな、お嬢様。』
そう言って、団長は一人、わたくし達を捕らえている家から出ていった。
そして、他の騎士達も何人か外に出た後、家へと綺麗な化け物が入ってきた。
その化け物を見た瞬間、耳がピンと立ち、鳥肌が立つ。
私が見た中で一番、美しい生き物だった。だけども、その瞳には確かに狂気が宿っていると確信できた。
横のケントを見ると、状況がうまく分かっていないのか、その真っ黒な眼をウロウロとさせていた。ケントも、黒髪に黒目、整った容姿をしているが、目の前の化け物ほどじゃ無い。
私も美しいエルフの血を受け継ぎ、グリーンの髪に赤目を綺麗だと褒められるが、目の前の存在を前にしたら、自分を美しいとはもう思えなかった。
化け物は美しい、ゾッとするような冷たい刃でわたくし達の鎖を切った。
わたくしは安堵と、恐怖が入り混じり漏らしてしまった。忘れたいし、思い出したくもない。
わたくしは目の前で、偉そうに胸を張っているメルティを見る。
「本当にありがとうございます。」
わたくしは頭を下げた。
「ほい。」
そう言って、メルティは私の目の前に人差し指を持って来る。
「な、なんです?」
「いや、燃やそっかなって思ったけども、やめたわ。」
ゾッとするような事を簡単にそう言う。
生きて帰れるかな?と本気で思った。