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訳の分からない世界は嫌いなので  作者: ぺん ぎんこ
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2

道を進んでいると夜になり、朝になり、昼になり、夜になった。すると、門に辿り着いた。

壁が見渡す限り、何処までも続いていて、眩い明かりが壁の中から漏れ出ており、空をライトアップしている。

私はふわふわと宙に浮きながら壁に登ると、壁の中には人間がウジャウジャといた。

家から出たり入ったり、食べ物を食べたりと忙しそうだ。

私はそのまま入ろうとして、やめる。

思考するのは面倒だけども、考えざるを得ない。此処は人間しかいなのだ。もしかすると人間だけのコミュニティなのでは?

私は仕方ないので、人間を観察する事にした。

壁の上からじっと人間を観察するのを長い間、続ける。朝になり、観察にも飽きる。

私は仕方ないので、私の美的感覚的に美しいと思える小さい人間になる。

堂々と周りの人間がしているように歩く。

家々が鬱陶しいくらいに乱立する場所を歩く。

人間がウジャウジャといるので、虫の池を思い出す。あれにそっくりだ。馬鹿みたいに一箇所に集まっているのだ。だけども、あれとは違って見応えがある。

一歩、一歩と進むごとに様々な人間とすれ違う。なんだかみんな色んな装いをしているのだ。耳が長い人間がいたり、ヒラヒラしたりした人間がいたり、頭が長い人間だっている。

同じ人間だというのに様々な違いがあるのだ。

私が歩いている場所だって違いがある。ごつごつしていたり、ツルッとしていたり、本当に面白い。道というのにも種類があるとは知らなかった。


「おい!」


私は肩を掴まれ、そう言われる。

バレたか?


「何よ?」

「子どもがこんな朝っぱらから1人でうろうろするな!!家に帰って、まだ寝とけ!!」


なんだかゴツゴツして銀色のものを着ている人間がそう怒鳴る。人間が動くたびに着ているものがガチャガチャと鳴るのでうるさい。


「黙れ、私の勝手だろ。」


そもそも、帰る家など無い。というか、子どもとはなんだ?


「……おい、クソガキ。家を教えろ。」


クソガキとやらも分からない。ただ、クソは分かるので馬鹿にされたとは理解する。それに、なんか怒ってるし。


「家なんかないわよ、馬鹿が。」


馬鹿にされたので、私も馬鹿にする。


「……なんだ、おまえ捨て子か?」

「そうよ、ゴミ。」


捨て子が何か知らないけども、人間が憐れむ様な顔をしたので多分、頷いた方が得をすると見た。


「あぁ、クソッ。やっぱり街の警護なんて依頼、受けるんじゃなかった。……おい、こっち来い。」


そう言われてたので、近寄る。

すると頭を触られた。そして、頭を揺らされる。

何がしたいんだ?


「辛かったな、お前。もう大丈夫だからな。お兄ちゃんもあれだ、孤児だったんだ。だから、敵じゃない。まぁ、言っても信じられないだろうけどな。教会はお前みたいな奴も受け入れてくれるから、頑張って生きるんだぞ。」


なんか同情的な目を向けられる。

なんだ、こいつ?

言っている意味は分からないけど、なんだか悪い事にはならなそうだ。

人間と共に歩いていると、壁の側面に建っている建物に着く。とんがった屋根のある、なんだかボロっちい今にも崩れそうな白い建物だ。


「ほら、此処からは一人で行け。頑張って生きるんだぞ。」


そう言うと、人間は私の背中を建物の方に押した。

私は言われた通りに、その建物に近づき、とりあえず扉を開ける。


「ただいま!!」


私は消しゴムに教わった挨拶で、建物に入る。すると、中にいる人間どもが怪訝な目でこちらを見るではないか。あいつ、嘘を吐きやがったな。


「お、おかえりなさい?……何処の子かしら?」

「何処の子でもない、私は私だ。」


私がそう言うと人間がクスッと笑う。


「お名前はなんて言うのかしら?」

「お名前?」

「そう、お名前。」

「人間だと分からないかしら?」


不味い、人間ではないとバレたか?

バレたらどうなるか分からないから、怖いのだけども。


「そうじゃなくて、お名前を……あ、もしかして、お名前が分からない?」

「分からないわよ、そんなもの。」


私が自信満々に言うと、人間はハッとした表情をして悲しそうな顔をする。

すると、また頭に手を置かれる。今度は優しく頭を揺らされる。

だから、何これ?


「かわいそうに、あなたも捨てられたのね。ほら、こっちに来なさい。信じられないかも知れないけど、此処にはあなたを捨てる様な人はいないわ。」


人間がそう言った。

私はよく分からないけど、良い結果を得られた様だ。

それからはまぁ、此処の常識を知る良い機会だった。

人間という種がどの様なものか教えて貰い、時間の概念を知った。他の概念もめちゃくちゃ教えて貰い、私の知識はどんどんと増えていった。

あれよあれよと月日は経ち、一年が経った。

私は教会の庭でじっと壁を見上げていると、人間の雌で六歳のメープルが私に近づいてくる。


「何かしら?」

「また壁を見てるの?メルトちゃん。」


メルト、それが私の名前だ。名前はシスターが付けた。


「そうよ、壊したいなぁ、と思って。」

「だ、駄目だよ!!魔物が入って来ちゃう。」

「冗談よ、壊せる訳ないじゃない。」

「だ、だよね。」


まぁ、壊せるけど。


「でも、メープルはあれくらい壊せるようにならなきゃダメよ。ドラゴンを倒せるような冒険者になりたいんでしょ?」


ドラゴンはトカゲの化け物のような魔物だ。なんでかは知らないが、人間には人気の魔物らしい。特に人間の幼体には絶大な人気を集めている。


「うん!!だから、凄い魔法使いになるんだ!!」

「へぇ、頑張るのよ。」


人間は何故か強さに拘る。弱い生き物だから、生存の為に仕方ないとは思うのだけども、度が過ぎていると思う。


「う、うん。そういや、メルトは何になりたいの?」

「さぁ?」


なりたいものなど無い。


「じゃあ、何したいの?」

「冒険。」


この美しい世界を旅したいのだ。


「じゃあ、私と同じで冒険者じゃん。」

「確かに。」


じゃあ、なりたいものは有ったわね。


「おーい!!」


教会の方から元気な声が聞こえる。

馬鹿みたいに五月蝿く、小蝿のように私とメープルに集るクソガキこと、人間の雄で七歳のエルスが私達に手を振りながら近づいてくる。


「おい、メルト。剣の稽古に付き合えよ。」

「クソガキが、私じゃなくて他の奴を誘え。稽古じゃなくて実戦ならやってやるわよ?」

「実戦なら死ぬだろ、俺が。」

「あら、実力派くらいは分かるのね。小蝿から、ただの蠅にランクアップしてあげるわ。」

「結局、蠅じゃねぇかよ。」

「何?不満?」

「不満じゃない奴なんていないだろ。つうか、俺の方が年上なんだからもうちょい手心を加えてくれよ。」

「いやよ。私がお前如きに優しさを見せるわけがないでしょ。顔の造形をもう少しマシにしてこい。」

「キッツいなぁ。俺ってこれでもイケメンなんだぜ?一応。」


確かにこいつは教会にいる孤児のガキの雌にはモテるらしい。顔がいいのと、その明るい性格だから。

だけども、私は別に好きではない。


「だから何よ。メープルのように可愛いらしい顔になりなさい。」

「お前、メープルには優しいよな。」

「ぬいぐるみみたいで可愛いのよ、蠅とは違って。」

「その蠅って、もしかして俺?」

「え?それ以外に誰かいるのかしら?」

「それって。」


蠅が苦笑する。


「二人は今も仲がいいね。」


メープルが笑いながら、そう言う。


「そう、仲が良いのよ。」

「だからって、何を言っても良い訳じゃないけどな。」

「黙れ、蠅が。」

「え?俺、なんかした?」


何も分かってなさそうな顔をする。


「何もしてないわ。剣、剣、うっさいから黙って欲しいだけよ」

「そんなに俺、剣って言ってんのか?」


蠅が私の横のメープルに聞く。


「毎日、言ってるよ?」

「マジ?」

「うん。」


メープルが無慈悲にも、そう言うと蠅は項垂れる。


「そう落ち込むことないわよ。私以外のガキどもなら、喜んで剣の稽古に付き合ってくれるわよ。」

「そうかもだけどよぉ、メルトが一番、強いんだよ。強い相手と稽古したいじゃん?」


何も賛同できないけども。


「いえ、全く。というか、私が強いのは当たり前よ。他のガキどもに私レベルを求めるのは頭がイカれてるわよ。」

「そんなにかよ。」

「そんなによ。ってか、お前もお前で毎日、毎日、馬鹿みたいに剣振って何が楽しいの?」

「俺だって別に楽しかねぇよ。けど、剣士になってドラゴンを倒せるようになりたいんだ。」


どっかで聞いたような事を言う。


「あっそ、頑張って。」

「……適当だなぁ。」

「お前なんかの夢に興味なんてないもの。」

「ひどいなぁ。ま、メルトが常に人を見下してんのは知ってるからどうも思わないけど。」

「お前如きに分かったような口をされると苛つくわ。」

「けど、気をつけろよ、貴族様にはちゃんと敬語を使うんだぞ?というか、知らない人にはとりあえず敬語で話せ。」

「は?嫌よ。」

「不敬罪で捕まんぞ、マジで。」

「捕まったら脱走すればいいじゃないの。」

「馬鹿か。ほら、メープルを見てみろ。お前の事を不安げに見てるぞ。」


そう言われたので、メープルを見ると目元が潤んでいる。


「あら、泣くの?可愛いわね。」


泣きそうな顔が可愛かった。


「泣かないよ。けど、エルス兄の言う通りだよ、メルトが捕まったら私、泣いちゃう。」


なんで泣くのよ。


「あっそう。」

「もっと他に言う事があるだろ?」


蠅がなんか言ってくる。こちらを諭すような言い方だ。私はなんかコミュケーションをミスったらしい。


「ありがとう。」


とりあえず、メープルに感謝しておけばいいだろう。

私はメープルに対して頭を下げる。なんで、感謝したのかは私には分からないけども、メープルと蠅が勝手に良いように解釈するだろう。それに大体のことは、ありがとうと言っていけば良いのだ。


「うん、けど本当に気をつけてね。捕まったら終わりなんだよ。不敬罪だと死刑もあり得るんだからね。」

「そうだぞ、全く。じゃあ、俺は剣の稽古の相手でも探してくるわ。」


そう言って、蠅はどっかに行く。

ほら、どうにかなった。



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