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訳の分からない世界は嫌いなので  作者: ぺん ぎんこ
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私は此処が嫌いだ。

頭がおかしくなりそうで、だけども、それは当たり前だから、文句なんて言えない。

降っている雨がマグマになり、マグマが糸になり、糸が光のレーザーとなり、雲を蹴散らす。天地はもうすでにひっくり返っていた。

他の者共と同じようにレーザーを避けながら、宙を漂う。天地が元通りになるのを待たなくてはいけないのだ。だいたい、太陽が上がり沈むのを二回ほど繰り返せば元に戻るはずだ。その最中に太陽が三個になったり、地面が液化して、雨の様に降ってくるだとかが無ければの話だけども。

もう嫌だ、こんな場所。

たまに空が点滅してカラフルになったりするし、精神がおかしくなりそうだ。


「おい、久しぶり。」


私の前を通っていったレーザーがそんなこと言って、雲に向かって落ちていった。そして、そのまま見えなくなる。此処の天候はたまにこうやって喋りかけてくる。


「久しぶり!」


私は聞こえ無いだろうけども下を向いて大声で叫ぶ。いつか、私達と同じようになった時に覚えてていてくれるかも知れないから。

私も昔は天候だった。よくある雷が喋るというやつだ。雷の次は雨口であり、これもまた喋り易いものだった。そして、ちょうどタイミングがよく地面があったので、そこで発芽し、ペンギンとなったのだ。ペンギンになった後は夜鳴き鳥となり、鳥の後は今のようになんでも変身出来る者になったのだ。

虫になろうと思えば虫になれるし、雨になろうと思えば雨になれる。過去には流れる家ではなく、地面に固定された家と変身した者もいた。天地が逆になった時に死んだけど。

私の隣にいた、レーザーに当たり蒸発した者を見る。


「馬鹿め。」


私はそう言う。

上手く避けないから、そうなるんだ。


「あー、死んじゃった。」


ポン酢がそう言う。レーザーはもう止み、ポン酢の水溜まりとなっていた。中に海だったり、湖だったり、池だったり大きさが様々な水溜まりが出来ていた。芋虫が無数に蠢く虫池だったり、鮫しか泳いでい無い海だったりと様々な水溜まりだ。


「死んだわね、馬鹿よ、馬鹿。」

「んね、馬鹿だ。あ、そう言えば向こうで人間の群れがあったよ。いつもの様にパンプキンマスターに食べられてた。」


どちらも知らないので、私はポン酢の言葉を無視する。


「え!?知らないの?パンプキンマスター。」


ポン酢が大袈裟に驚き、そう言う。


「知らないわ、飲むわよ。」

「飲まないでよ。パンプキンマスターはね、糸こんにゃくの習性を持ったキャッサバ喰らいのサボテンだよ。」

「じゃあ、サボテンじゃないの。」


頭のおかしな説明を要約すればパンプキンマスターはサボテンだという事だ。


「違うよ、パンプキンマスターだよ。」

「見た目はサボテンなんでしょ?じゃあ、サボテンよ。」

「違うってば。」

「もう、どうだっていいわよ。」


サボテンだろうと、なんだろうと興味がない。


「で、人間は何よ。」

「なんかね、門を潜ってやってくる空を泳げない可哀想な生き物だよ。」


外見は分からないけども、可哀想な生き物だというのは納得した。


「サボテンマスターの時とは違って、なんだか分かりやすい説明ね。サボテンマスターもそういう感じで説明しなさいな。」

「嫌だ。」

「その門って何処にあるのかしら?」

「さぁ?」

「知らないの?」

「だって、なんか、あ、そうこんな感じで光が一瞬、見えるだけだもん。」


それは門とは言わないわよ。

……ん?

あ、なんか空間に亀裂が入っている。何処が門なの?これ、亀裂じゃないの。


「これは門と呼ばないわよ、でこれに入ったらどうなるのかしら?」

「入れないよ。試してみな。」

「……死なないわよね。」

「死なないよ、たぶん。」


……大丈夫なのかしら?

まぁ、悩んでも仕方がないので亀裂に入ろうとすると、すんなりと入れてしまった。スポンジ山の穴を入る様な感覚で、ブリキのサンダルを壊した時の様な感触を味わう。

入った先には、まるで知らない世界が広がっていた。


「え?」


鳥が三匹、空を飛び、草原が広がり、空に青空が広がっている。吹き飛ばされる程の風ではなく、撫でる様な風が吹き、そこらかしらから生命が生きている音がする。そして何よりも、匂いがするのだ。気持ちのいい匂いだ。吐くほどに甘かったり、吸った瞬間に火を吹く様な辛さを感じる臭いじゃない。本当にただただ心地の良い匂いだ。

これほどまでに生きていると実感出来る空間を見るのは初めてだった。

視界に入る全てのものが決まった色をしているのだ。空の色だって、だいたい直ぐに変わるのに青空から変わる様子が見られない。

心が安らぐ、そんな空間だ。

なんともまぁ、気の抜ける。

私はもうこの空間を気に入っていた。

私はとりあえず、移動することにした。草原でぐうたらするのもいいのだけども、空間がまるっきり変わってしまう前にこの空間を焼き付けていたいのだ。

草原を心を弾ませながら歩く。

すると、目の前から見たことのない生き物がこちらに向かってくる。馬が二匹、何かを引っ張っているのだ。白い外見に、くるくると高速で回る木の輪っかが付いている。そして、先頭には鞭を持ち、馬を叩いている部分がある。いや、あれは別だな。鞭を叩いているのはまた違う生物だった。

私はとりあえず、そいつが近づいてくるのを待った。


「おい、そこの魔物!!どかんかっ!!危ないぞっ!!」


鞭を持った生き物が大声でそんなことを言う。


『ぶつかるっ!!』


片方の馬がそう言って、止まろうとする。ただ、まぁ、このままでは止まりきれずにぶつかるので私はとりあえずポン酢になる。そして、そのまま馬が止まりきれずに私を至るところにぶち撒ける。

私は急いで身体を再構築させる。このまま行かれたら、会話が出来ない。亀裂の事を聞きたいのだ。


「な、なんじゃ!?」


私を見た生物が驚く。

二頭の馬は唖然としている。


「ねぇ、私は亀裂を通って此処に来たんだけど、あの亀裂ってなんなの?」

「き、亀裂ってなんじゃ。というか、なんで喋っとるんじゃ!?丸っこいガラスが喋っとるじゃが!?」


おっと、なんだ?

訳が分からなくなってきたぞ?


「あー、え、あの、此処は何処ですか?」

「魔物に説明しても分からんじゃろうが、マルモ公国じゃが?というか、お主は魔物なのか?なんじゃ?ワシこそ、お主になんじゃ?と聞きたいんじゃが。」


……駄目だ、何を言っているのか分からない。

もういいや、なんか聞くだけ無駄の様な感じがしてきた。


「分かり易く教えていただきたいのですが?マルモ公国ってなんなのかしら?

「魔物に教えるのもなんだかよくわかんない状況なんじゃが、国はあれじゃ、人間がいっぱい住んでる集合体じゃ。」


人間?


「……お前は人間?」

「……人間じゃぞ?」


人間は首を傾げる。


「あっそ、で、次、天地がひっくり返るのはいつかしら?」

「……なんじゃ、詩的な表現じゃな。夜になるのはあれじゃ、あの太陽が沈む頃じゃ。」


そう言って、人間は太陽を指差す。

夜の事を聞いたんじゃないけど、というか、まさかだけど、この人間の反応からして天地がひっくり返ることは稀ってこと?いや、そんなまさかね。


「いや、そう言う事じゃないんだけども。まぁ、いいわ、で、その生き物はなんなの?お前が乗ってるの。ずっと黙っているけど。」


馬はさっきから草の話しかしていないので聞くのをシャットダウンしている。


「これか?これは馬車じゃ。」


当たり前にように言われ、もう、詳しく聞くのさえ面倒になる。つまり、あれね。私は全く常識が通じない世界に来たって事ね。もう、それでいいわ。考えるのが面倒よ。


「そ、じゃあ、もういいわ。ばいばい。」


私はそう言って、人間が来た方に向かう。


「ば、ばいばい。……な、なんじゃ?なんじゃったんじゃ?」


人間が困惑し、その場から動く事もなく私を見送っていた。

私は後ろを向く事なく、歩く。後ろから馬の声がしたので、もう人間は何処かへと行ったのだろう。

私は人間が来た、草原なのに土が見えている場所を進む。

……あ、これ、あれだ。道か。

道なんて、もう久しく見ていなかった。これの発生は途轍もなく稀なのだ。

私は道をワクワクしながら進む。

ずっと歩いていると夜になる。

一向に天地がひっくり返る様子がない。

私は、流石にもう気づく。

まるで違う世界に来た事を。


私はとりあえず自分に起きた事を、異世界転移と認識する事にした。









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