1章⑥
これ、病気で薬を飲みたくない子供たちにも薬草入りで食べさせてあげられないかな?
「もっといる?」
レオン様にそう問われ、無意識にうんっ!と笑顔でこたえた。
「くっ……。エリィは僕の天使だ……。」
「レオン様!早く下さいっ!」
手を離せばいいだけのことなのに美味しさともっと薬草に入れるためには味の研究をしたく、我を忘れてねだってしまった。
「はあ〜美味しかったです〜!」
ご満悦、と言ったところで立ち上がると。
「エリィ。花をかたどったランタンを湖にうかべるそうだよ。」
「願い事を書くやつですか?やりましょう…!」
――レオン様とランベールが幸せになりますように。
チューリップ型のランタンに書いた。もちろん書いてるところは見られないようにした。
レオン様も書き終わったようで2人で湖に浮べる。
そういえば、ルーヌ川にもこんなイベントがあって主催のコルネイユ家はもちろんシャルダン家とみんなで流したなあ…。
「昔、ルーヌ川でもやったよね。」
「! 覚えてたんですか…。」
「当たり前だよ。この5年間思い出に縋って生きてきたんだから。」
切なげな表情で流れていくランタンを見つめているレオン様は続ける。
「ナディアから手紙を受け取った瞬間、追いかけたんだけどどこに行ったかも分からなくて闇雲に探したけどさ。どこにもいないし、国境を越えていたらどうしてくれるかと王子にも八つ当たりしてしまったしね。」
王子に八つ当たり……?そ、それはまずすぎるのでは。
「ナディアが居ない日々は本当に色が無くなったモノクロの世界みたいだったんだ……。このまま感情が動くことなく死んでいくんだと思っていた」
「そ、そんな……っ!」
「そんな時にランベールに出会ってさ、エリィに再会できて。本当に嬉しかったんだ。」
泣きそうな笑顔で私を見るのでギュッと心臓が掴まれたように苦しくなる。
「……もう二度と僕を置いていかないで、エリィ…。」
「……っ。」
思わず抱きしめてしまう。
「申し訳ございません!そんな思いをしていたとは気づかず…。
あの頃いつ追っ手が来て捕まっても、正直…おかしくないと思ったのです。
売られたらもう終わりだと思い必死で、レオン様の事など考える余地もなかったのです。」
「……うん、わかっているよ。そんなエリィを1人にしたこと本当に後悔しているんだ。何回自分を殺したか。」
私たちはそのあと暫くお互いを思いやりながら抱きしめあっていた。
ーーーーーー
もうすぐ祭りも終わりにさしかかった頃、そろそろ帰るかと広場に戻るとピエロの仮面をつけた人に声をかけられる。
「はーい!そこの美男美女の夫婦さ〜ん!ラストフラワーダンスの始まりにピッタリです!!!」
ふ、夫婦!?
先程まで抱きしめあってレオン様の温もりがまだ体に残っていることもあり真っ赤になってしまう。
「さあさ、踊ってくださいな!」
あっという間に真ん中に連れていかれてしまう。
「僕と踊っていただけませんか?」
「……エスコートしてくださいね?久々なんですから。」
「もちろん。」
そうしてピエロの背後に控えていた楽団が奏でる音楽にのせ、久しぶりに踊ったのだった。
あまりの神々しさに周りのギャラリーは息を飲んでいた。
そんな人だかりの中で1人、「グロリア、様……?」と呟いている人物にも気が付かずに。