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1章②

今後は8時・18時投稿したいと思います。



 5年前のそあの日は晴天だったのに。

 執事長であるマルクスと飼い犬のペールと弟ランベールが庭で駆け回っているのを微笑ましく思いながら学園の薬学の宿題をしていた。


 父と母は王宮に謁見のため行っており、帰ってきたら皆で庭でガーデンパーティをしようと準備をしているところだった。

 

「……エリアーヌお嬢様っ!!!」


 顔を真っ青にした騎士が駆け寄ってくる。一大事だと察したマルクスは私と、私専属の侍女ナディア、騎士の4人で別室に移動した。


「実は、その……当主様と奥様が乗る馬車が……ルーヌ川の橋から落ちたとのことで、お2人は……亡くなりました。」

 「……っ!!」


 その場に崩れ落ちる私をナディアが支える。

 嘘だ、嘘だ、嘘だ。


 4日前には行ってきますと2人は言っていたのに。

 いつも通り帰ってくると思ったのに。

 

 2人の遺体が目の前に現れるまで信じられなかった。

 うちの領地と王都を隔てるルーヌ川の橋は定期的に点検をしているし、何よりここ最近の天気も落ち着いており当日も晴天で橋が崩れる?


 葬式もまだ終わっていないのに翌日には父の弟、つまり叔父であるモーリス一家が屋敷にやってきた。まだ喪中なのにも関わらずズケズケと父様の匂いが残る執務室に入り当主の椅子に座りふんぞり返る。

 

 この叔父は私が産まれるよりも前に縁を切っていたはずだ。父は中々子宝に恵まれないコルネイユ家に遠い親戚から養子として引き取られた。その後祖父母はモーリスを授かったが、当主としての才は父様がめきめきと伸ばし、モーリスはやっと生まれた子供として可愛がられたこともあり傲慢に育ってしまう。


 ようやくできた息子だ。可愛くて仕方なかったが、祖父は領民のことを考え、才能がある父ディルクを後継者に選んだ。

 その事を知ったモーリスは激昂し、出ていってしまう。祖父はそんな息子を哀れんで自分の全財産は息子に譲ると遺言書に記した。ディルクは才能もあり領民からの信頼も厚いためすぐに稼げるだろう、最後のわがままを聞いてくれと。


 執事長によると、祖父が亡くなると父は出ていったきりのモーリスを探し出し、遺言書通りにお金を渡したという。その頃のモーリスは妻子がいるにも関わらず伯爵だった頃のプライドも捨てきれず、平民として働くこともせずギャンブルにハマっていたそうだ。

 そのお金もギャンブルに費やすだろう、と家に来ても取り次がないよう使用人に言っていたそうだ。


「…………ここはまだ父様の席です。どうかお引き取りください。」

「ハッ。うるせえよ、ガキが。

 この席はそもそも俺のものだったんだ。今日から俺の部屋にする。」


 有無を言わさず私とマルクスを追い出した。その日の夜、自分が連れてきたという胡散臭い友人を執事にする、使用人も総入れ替えすると宣言された。

 

 翌日の葬式には婚約者であるシャルダン家も来てくれ、レオン様は私を支えてくれた。その時期も騎士昇格試験があると手紙で教えてくれていたのに駆けつけてくれて何も言わずに抱きしめてくれた。


 両親の棺が土に埋もれていく中、手を繋いでくれたレオン様は「ディルク伯爵、エリィとランベールは僕が守ります。」と呟いていた。


 式の後恐る恐るレオン様に今回の事故は不自然ではないかと話すとたしかに、と頷いてくれどうにか調査は打ち切られたがエリィが納得するまで調べるべきだ、と後押ししてくれた。この国では調査が打ち切られても遺族の要請があれば再調査をしてくれる制度がある。

 まだ成人もしていない私たちだけでは不安だったためあんな叔父でも話してみるべきか、という結論に至った。


 叔父に疑問点を話し再調査をお願いするべきだと伝えたところ、

「黙れっ!調査は終わったんだ!

 ガキは黙ってろ!!!今すぐ黙らないとお前も殺すぞ!」

 と、顔を真っ赤にして今にも飛びかかってきそうな勢いで暴れたためそばに控えていたマルクスと共に自室に戻った。


 ――その日の夜、あまりにも衝撃的な出来事により怖くなった私はなかなか寝付けずにいた。

ランベールがわたしのベッドでぐっすり眠っていることを確認し、恋しくなった私は父様と母様の絵姿を見にへやをでた。

 すると、ある一室から光が漏れており話し声が聞こえてくる。


「パパァ。

 わたし今日見たレオン様を好きになったのぉ!」


 暖炉の前で葉巻を吸いながらソファでふんぞり返るモーリスに寄りかかるように娘ラウラの頭を撫でる。

 

「確かになあ。シャルダン家は公爵家だしあの生意気なガキよりラウラの方がよっぽど可愛いしお似合いだなぁ」

「やったぁ!じゃあ、レオン様は私のモノってことね?」

「あなた。でもあの小娘はどうするのよ。」

「なぁに。あいつは義姉さんに似て美人だ。売ったら金になるだろう?売ればいいのさ。」

「じゃあ、邪魔だからさっさと売っちゃおう!」

「そうだな、あいつは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

――――明日にでも売り飛ばそう。」


 最後の一言を聞いた瞬間血の気が引いた。ああ、神様なんてこの世に居ないのか。両親の葬式の日にこんな会話を聞かせるなんて。


 光の先ではラウラが嬉しそうに両手を挙げてはね回っている。レオン様に最後の言葉を伝えなくては。

 ――そして、この屋敷から早急にランベールと共に出ていかなくては。


 絶対にバレたらいけないと自室に戻り、バレないようにロウソクに火をつけ手紙をしたためる。

 『レオン様へ


 突然手紙を送る形となり申し訳ございません。

 昼間に話していたことを覚えておりますか?

 私は調べる術をなくしてしまいました。これは全て幼いが故です。またいつか、いつか必ず両親の事故は明かします。

 

 私はレオン様と短い間でしたが婚約者で居られてすごく幸せでした。私はこれから平民になることになりそうです。迷惑をおかけしたくないので誰も私たちを知らない所へ行こうと思います。遠く離れた地でもレオン様のご活躍を願っております。


 レオン様が別の誰かと婚姻を結ぶことになっても私のことをどうか頭の片隅に置いてくれたらとても幸せです。

 今までお世話になったこと、シャルダン家の皆様にもお伝えください。


 エリアーヌ・コルネイユ』


 悔しい。私がもう少し大人であればこんな思いをしなくていいし、何より正式な跡継ぎのランベールにもこれからさせる思いをさせなくて済むのに。

 でももうどうしようもない。涙を拭いながら、窓から登りかけている朝日を見ながら決意を固めた。


 ランベールを起こし、着の身着のままでマントを被せ、私自身もマントを羽織る。手紙と母から貰ったネックレスだけを持ち、まだ半分寝たままのランベールを背中におぶって使用人が使う裏口から出、使用人が寝泊まりをする別邸へと向かう。

 ノックをすると寝ぼけ眼のナディアが出てくる。


「――んぁ?エリアーヌお嬢様どうしましたか?まだ朝焼け前ですよぉ」

「時間が無いから簡単に伝えるわ。レオン様…レオン・シャルダン様にこの手紙を渡して欲しいの。それとこれは使用人の皆にあてた手紙よ。必ず渡して。お願い、ね?」

「えっ、お嬢様どこか行ってしまわれるのですか?」

「……どうやら今日にも売られそうなの。その前にランベールを連れて逃げるわ。ごめんなさい、守れなくて。」

「そんなっ!公爵様にお伝えしたらどうにかしてくれるのでは?!」

「ううん。レオン様の足枷になりたくないの。バレたら連れていかれるからもう行くわ。皆も達者にとお伝えして。

 それから皆は新しくなったコルネイユ家に従事しないほうがいいわ、ろくでもないんだから。」


 まだ何か言いたげなナディアを尻目にわたしは太陽が昇る前に大好きなコルネイユ家を離れ、どうにかして魔獣の住む森の麓の村、メルス村に到着したのだ。


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