DON’T CRY B BOYS
DON’T CRY B BOYS
「ドク、俺はあとどれくらい生きられるんだ?」
「持って一年だろうな」
「破傷風ってのはそんなにおそろしい病気なのか?」
「四つのプロセスがある。一期は全身的な倦怠感。君が今いるそれだ。二期は部分的な筋肉のけいれん、発語障害が起きる。三期は全身的な筋肉のけいれん。自発的な呼吸ができなくなる。死亡率は50%だ。四期、快復期。体から毒素が抜けて軽快していく」
ロンリーは傷口を見た。
「あのなまくら」
「君の免疫が弱っていたんだろう」Drはカルテに何かを書き込んだ。
「口が乾いて仕方が無いんだけれどよお」
「口渇だな。合併症だよ」
「保険にも入ってないんじゃあな」
「肺を病むのが先だと思ったよ」
「COPD・・。もうコップのお世話になるのはご免だな」
もうロンリーの手には振戦が出ていた。
「ツケにしといてくれよ」
月は夜にしか住めない。
ダブルライダースにスウェットパンツ。
「何だよ、ロンリー、笑ってんのかよ」
ロンリーにはもう痙笑が始まっていた。
ドライとクールは心配する素振りも見せないで、ただ笑っていた。
突っ張る。
「ジンジャーの味がしないか」
「煙草がか?」
ロンリーは目が据わっている。
「金ねーか」
クールがカツアゲをしている。
「やめろ!」
呂律が回らないロンリーが叫んだ。
「ざまあねえ」
カモが逃げていった。
「なんだよ、ロンリーか。おどかすなよ」
ロンリーの傷は瘡蓋にならずに壊死した。
チック症のように瞬きを繰り返している。
不随意運動がもう起こり始めていた。
口がこわばり舌打ちを繰り返した。
ロンリーの顔が赤く、冷や汗をかいている。
「熱があるんじゃないか?」
「気にするな」
ロンリーは煙草のヤニでピアノの鍵盤みたいな歯を見せて笑った。
「どういう吸い方してたらそうなるの!?」
それでもカッコいいのだった。
「キツいか?」
ロンリーはヤンキー座りから立てなくなった。
助け起こしてもらうとふらついた。
荒く息をつくと、ペイヴメントに仰向けに倒れた。
口から泡を吹き、足をバタバタと痙攣を起こした。
ドライはシンナーを持つ手を緩めた。
チェーンを振り回して奴らが来る。
ドライとクールは青くなった。
ロンリーは貧血で腹が空いたみたいに顔面が蒼白だった。
足は硬直したままだ。
「ガタガタだ」
「スマート達が来るぜ」
「ロンリー」
うんともすんとも言わない。
「すん」ドライは鼻をすする。
アル中の手を握る。
頻脈だった。
「俺、カッコいいか?」
喘鳴の声でロンリーは言った。
クールは肯いた。
「また、馬鹿やろうぜ」
「言う事ない」ロンリーは静かに目を閉じた。
味も素っ気もない世界。
予備知識も先入観もない怖い物知らずたち。
街のゴロツキ。
月もない夜。
バイクの音が聞こえた。
こっちに近付いて来る。
「夜露死苦」ロンリーが呟いた。
ロンリーは歯をくいしばって、弓なりに体を反らせた。
顎が砕けた。
スマート達はバイクから下りない。
マフラーをフカすだけだ。
「見せモンじゃねえぞ!」ドライが怒鳴った。
「覚えとけよ」クールがガンをつけた。
バイクは走り去っていった。
呼吸困難で瀕死のロンリーは横を向いた。
目を見せないで泣いている。
「I CAN’T CRY」ドライは壁に落書きをした。
呼吸を止めて。
バックコーラスが終わるまで。
音楽が雑音に変わるまで。
「ロンリーゴーズ」
「CRYSTAL」
スプレーアートが残っている街だった。