大好きな姉ちゃんまであと少し!
ボスとジオと一緒に闇を駆ける。
俺は子どもだからもっぱらボスに抱えられての移動だけど、そのおかげで冷え切った夜の空気も月が顔を隠してしまった真っ暗闇もへっちゃらだった。
ボスが怖いことから俺を隠してその間にジオが悪いやつらをやっつける。
何度かそんなことを繰り返した時、ボスが苛立ったように舌を打つと同時に大きく身体が揺れた。
―ズカン―
すぐ側で誰かの命を奪う音を聞いた。
今までへっちゃらだった気配が急に怖くて仕方なくなった。
むせかえる血と硝煙の匂いも大きな銃声も誰かが地面に倒れる音も全部が全部怖かった。
だけど、これがボスたちが今まで俺に見せないように隠してきたボスたちの生きる世界で、俺がボスたちの側にいるためにはいつか必ず知らなければならない世界なんだ。
いつか知るはずだったそれが予定よりちょっとだけ早まっただけ。
俺はボスの身体に押し付けていた顔をゆっくりあげた。
ぐっと眉間にしわを寄せて俺を抱えていない方の手で銃を構えるボスは今まで見たどんな時のボスより怖くてカッコよかった。
なによりもお腹に怪我をしてることなんて忘れちゃうくらいに圧倒的に強くて、なんだかすごく安心した。
少し離れたところでジオがニヤリと笑う。
「誰のモンに手ェだしたのか、誰に喧嘩売ったのか、後悔しながら死にやがれ」
キラリと白刃が闇に滑る。
怖いはずなのに、その光景はとても綺麗だった。
「リヒト」
「だいじょうぶ!」
静かなボスの声に元気いっぱいに答える。怖くない。怖いけど、怖くないよ。
だってボスたちはいつだって俺を守ってくれるヒーローだもん。
それにコイツらは姉ちゃんを攫った悪いやつでしょう?
だから、大丈夫。
「無理はすんな。怖かったら目をつぶって耳を塞いでろ」
「ほんとに大丈夫だよ。ボスとジオが一緒だもん。
それに俺、姉ちゃんほど泣き虫でも怖がりでもないし!!」
俺の精一杯の強がりにボスはきょとんとしてジオは盛大に吹きだした。
「ぶはっ!!この前姫と一緒に談話室でビービー泣いてたのは誰だ?」
「あ、あれは違うもん!!べつにゾンビが怖かったんじゃないもん……!!」
「ふぅん?ゾンビねぇ?」
「ジオのばかーーーー!!」
ニヤニヤするジオに俺はなんだかすごく恥ずかしくなって叫んだ。
だって俺まだ6つだもん、怖くて何が悪い!怖かったけど、怖かったけど、ホントはがまんできたもん。
でも姉ちゃんがわんわん泣くから俺もつられちゃっただけだもん!!
そ、そりゃ、ひとりで寝るのが怖くてボスのベッドに潜り込んだけど、それは姉ちゃんも一緒だもん!!
「耳元で喚くな。テメェも喋ってねぇでキリキリ働け。次が来たぞ」
悠然とジオに命令するボスは姉ちゃんがお話してくれた物語の王様みたいだった。
だから、ジオは姉ちゃんのことを姫って呼ぶのかなぁ?
そんなどうでもいいことを考えながら俺はボスたちと一緒に闇の世界を突き進む。
血と硝煙の臭いが濃くなる程に、身体を揺する振動が大きくなるほどに、姉ちゃんに近づいている気がして俺は興奮を抑えつけるようにボスにしがみついた。
もうちょっと、もうちょっとで会えるよ!
すぐに迎えに行くから早くぎゅってして!!