お迎え大作戦に参加を希望します!!
「本当に大丈夫なのか?」
誰かの声がする。
「……。くだらねぇこと言ってねぇで報告しろ」
「あぁ、ボスの車を襲撃して姫さんを攫ったのは最近問題になってる新勢力だ。
王国との繋がりが深いらしくて好き勝手してやがる」
さっきまでの姉ちゃんとボスと一緒にお土産のケーキを食べてた楽しい夢とは正反対でちょっとだけ息が苦しくなった。
「……ガキが粋がりやがって」
また低くて怖い声がした。
地を這うような、飢えた獣が唸るような、すごく怖い声だった。
「おっ!ついでに表の奴らも潰すのか!!」
「はしゃぐな。力関係を正すだけだ。これ以上放置したらどっちの政治も混乱する」
「ちぇっ、もうボスがどっちも牛耳っちまえばいいのによ。継承権は持ってんだし」
「誰がんなクソ面倒なことするか。準備は?」
「アンタがその重たい腰をあげりゃあ直ぐにでも」
だけど、俺が良く知っている声だった。
怒りを孕んだ俺や姉ちゃんには向けられることのない声も。楽しげに跳ね上がった声も。
どっちも俺が良く知っている声だった。
「リヒトが寝てる間に片付けるぞ」
俺が寝てる間に何するの?
「了解だ。だが、アンタの仕事は救出と奪還だけだぜ?」
ボス、俺が寝てる間にお仕事に行っちゃうの?
姉ちゃんは?姉ちゃんはどうするの?
迎えに行かないの?
「なんだと?」
「怪我人はすっこんでろ!」
怪我?ボス、怪我なんてして……赤かった。俺の手、ボスに抱きついた時、赤く濡れた。
あったかい赤で濡れた。
夢だと思ったけど、姉ちゃんがいないってことはきっとあれも夢なんかじゃない。
そうだ、ボス、お腹から血が出てた。
ダメだよ。ボス、そんなの危ないよ。痛いよ。俺、転んでもお腹なんて怪我したことないよ。
姉ちゃんだってドジだけど、料理してたら包丁で指まで切っちゃうこともあるけど、お腹を怪我したことなんてないよ。
あんなに血が出てたら痛いよ。俺も姉ちゃんもちょっと血が出たら痛いって泣いちゃうもん。
消毒の時だってすっごく痛いから嫌でジオたちから全力で逃げるもん。結局つかまって、ぐりぐりと消毒されちゃうけど。
ボス、行ったら嫌だよ。痛いのガマンしてたらもっと痛くなるって姉ちゃん言ってたよ。
それに大きな怪我はアンセイにしてないと直らないってセンセイが言ってたよ。
「アンタの邪魔するやつは右腕の俺が全部凪ぎ払ってやる。
だからアンタは姫の奪還だけに専念しとけ!」
姫?ジオが姫って呼ぶのは姉ちゃんだけだ!
じゃあ、俺が寝てる間にボスたちだけで姉ちゃんのこと迎えに行くの?
起きなきゃ!起きて俺も連れて行って貰わなきゃ!
「……テメェは暴れたいだけだろうが」
「んなっ!?そそそっそんなことねぇぞ!
別に、姫とリヒトの悪戯で溜めこんだストレスを発散させようとか思ってねぇからな!俺は!!」
呆れたボスの声に慌てたジオの大きな声に助けられて俺はちゃんと起きられた。
はやく、ボスのところに行かなくちゃ!大きなボスのベッドから這い出てボスたちのいる執務室につながるドアまで走る。
「ボス!俺も!俺も姉ちゃん迎えに行くの連れて行って!!」
ぎょっとしたジオとぎゅっと眉間にしわを寄せたボスに向かって叫んだ。
「俺はボスと姉ちゃんの子どもだもん!」
「だからママのお迎えに俺も連れて行って!!」