Buon Natale!!ーおまけー
ジオは小さな小箱を片手にしんと寝静まった屋敷の廊下を歩いていた。
今年のやつもたぶんジュエリーケースの中で眠ることになるんだろうな。
そんなことを思いながらも買ってしまったそれは、毎年ギリギリまで悩むジオがひと目見た瞬間にコレだと思ったものだった。
三日月がモチーフのネックレスはシンプルかつ可愛らしく女性的でニナに良く似合うと思った。
なによりもアクセントで輝くタンザナイトの紫がかったブルーがどことなくニナを思わせて気がつけば購入していた。
「どうせ、俺の自己満足だしな。」
身につけている姿をみたいと思わない訳でもないが、それでもニナが宝物のように大切に保管しているだけでジオは満足だった。
ぬるくなったホットミルクとクッキーに添えられた小さなメッセージカード。
小さな感謝がくすぐったく、素直な好意が嬉しかった。
なによりもまだ10代だった少女にささやかな幸福を与えられるのであればそれは十分意味のあることのように思った。
それがいつからか意味を変えて彼女が成人を迎えた今でもこうしてサンタのまねごとをしている自分がいる。
はじめは姫と同じ妹みたいなモンだと思ってたのに、クソ生意気で可愛くない後輩はいつの間にか妹ポジションから大きく順位を繰り上げていたようだ。
「なにひとりでニヤケてんですか?」
暗闇の中から突然落ちてきた声にジオはギョッとして視線を彷徨わせる。
声を追いかけるように視線を下に下げると毛布にくるまったニナがちょこんと自室の前に座り込んでじっとジオを見上げていた。
「……。待て、なんでまだ起きてやがる。
というかこんな寒いとこでなにしてやがる」
ピシリと固まって自分を凝視するジオにニナは何とも言えない顔をした。
この現実が導き出す答えが今まで頭をよぎらなかった訳じゃなかった。
いや、ホントは気付かないふりをしていただけでずっと知っていた。
毎年この時期になるとセンパイがこそこそ何か買っているのも、クリスマスの朝、扉の前に置かれたプレゼントから微かにセンパイの香水の匂いがするのも、全部、気付かないふりをしてただけで本当は、もっとずっと前から知っていた。
認めるのが、認めてしまってそれを否定されるのが怖かっただけで。
「……風邪ひきてぇのか。さっさと部屋に入って寝ろ」
「……待ってるんです。私のサンタさんを」
「サンタ?本気でまだ信じてたのかよ」
「トナカイ連れたお爺さんは信じてませんけど、毎年枕元じゃなくてドアの前にプレゼントを残して行く私だけのサンタクロースは信じてます」
「……」
「毎年、私が見つける前に帰っちゃうんですけどね」
「だから、このクソ寒い中、そうやって待ってんのか?」
「今年は、センパイに渡したおかげでお礼のクッキー用意できてませんから」
「……で?」
「なんですか?」
「「……」」
「だから、テメェはそのサンタを見つけたらどうする気なんだよ」
「とりあえず、ボコす??」
「なんでだよ!?今の流れでそれはねぇだろっ!?」
「じゃあどうして欲しいんですか?」
ニナの静かな瞳がジオを見つめた。
もう全て分かっているくせに何かを求めるようなその瞳にジオはぐっと眉を寄せた。
なにを求めているのか、分からない訳じゃない。
だが、それを自分から口にするのはなんというか、ものすごく憚れた。
「……テメェ」
「どうして、ですか?妹みたいだからですか?姫様のついでですか?」
凄んだジオに泣きそうな顔をするニナの口から零れた言葉にジオはたまらず叫んだ。
前言撤回。この馬鹿はなにひとつわかっちゃいねぇ!!
「アホか!姫のついでだったらあんなに悩まねぇし後に残るモンなんか贈るか!!
姫にクリスマスプレゼントなんてもう何年も前から渡してねぇよ!!」
「じゃあどうして、」
「考えりゃわかるだろ!!」
「わかんないから聞いてるんでしょ!バカなんですか!!」
「馬鹿はテメェだろ!分かれ!!」
「なに無茶言って」
逆ギレしはじめたニナにジオは年下の小娘しかも後輩に溺れてしまった不甲斐なさだとか、そんな男のちんけなプライドなんてどうでもよくなった。
というか本気で1ミリもジオが毎年頭を悩ませてプレゼントを贈り続けた理由に辿りつけていないニナに体裁を取り繕う余裕がなくなった。
「いい加減、気付けよ」
興奮して声を荒げる小さな身体を無理やり抱きすくめて黙らせて耳元で低く囁く。
切なさにかすれた声はニナの抵抗を奪う役目は十分に果たしたようだった。
ピクリと肩を跳ねさせて身体の力を抜いたニナにひとまず安堵の息を零す。
ジオの手より小さく繊細な手がギュッとジオの服を握った。
「……知りませんよ、そんなの」
小さく紡がれた、最後の抵抗にジオは呆れたように息を吐いた。
強情な女だ。こうして抱きしめられている意味なんてもう理解しているくせに。
真っ赤に染まった耳を見下ろしながらジオはようやく腕の中に収まったニナを離さないために言葉を紡いだ。
「好きだ。女としてお前を愛してる」
(ようやく逢えた私のサンタは)
(どうやら私を二度とこの腕から逃がす気はないらしい)




