パパとママなんて恥ずかしくて呼べないけど、
目が覚めた。
だけど俺はぎゅうっと目を閉じたまま寝たふりをした。
だってボスが泣いてたから。
ボスが、声を殺して静かに泣いてたから。
だから、俺はぎゅうっと目を閉じて、息を殺してみないふりをしたんだ。
「お前は寝る時に息もしねぇのか」
だけどすぐに呆れた声が落ちて来て、優しく頭を撫でられて、ゆっくりと目を開けるとボスの困ったような顔が映った。
「ねぇ、ボス」
「どうした?」
「俺、俺、まだガキだし、できることなんて少ないかもしんないけど、何でも言ってね。
いっぱいいっぱいお手伝いするから!だから、はやく姉ちゃんを迎えに行こうね!」
ボスが大好きな姉ちゃんが帰って来ないのは、自分で帰ってこれないからでしょう?
だったら俺たちが姉ちゃんをお迎えに行けばいいんだ!
この間の雨降りの日に姉ちゃんと傘を持ってボスのお迎えに行ったみたいに!
そうしたら姉ちゃんも笑って帰ってくるよね?
「……リヒト」
「姉ちゃん、泣き虫だもん!こないだ、俺とホラー映画みてマジ泣きしてたんだぜ!」
「なんだ、まだアイツはあんなもんが怖いのか」
「うん。俺もちょっと怖かった」
「クク、それで俺たちんとこに来たのか?」
「だって、ホントに怖かったんだもん!!ボスも見たら絶対怖くなるよ!」
「ねぇな。俺まで怖がったらお前らを守ってやれねェだろ?」
ニヤリと意地悪く笑ったボスはもういつものボスで俺はそれにとっても安心したはずなのに、なんだかちょっとだけ不安にもなって、それを何とかしてほしくてボスを呼ぶ。
「ボス、」
「どうした?」
「ボス、」
「大丈夫だ。寝るまで側にいてやる」
ただ呼んだだけなのに、俺の上手く言葉にできない気持ちまで汲み取ってくれるみたいに大丈夫って言ってくれて、俺は姉ちゃんとボスが実は魔法使いなんじゃないかって話したことを思いだした。
目を見るだけで、名前を呼ぶだけで、ボスは俺たちの言葉にならない気持ちまで見抜いたみたいに安心をくれるから。
俺にとっては姉ちゃんもそうだけど、姉ちゃんは時々ズレたことをするからやっぱりボスの方がすごいと思う。
ベッドの横に椅子を引っ張ってきてドカッと腰をおろしたボスに安心して俺は小さく笑った。
「姉ちゃん、絶対取り返そうね。俺、ママは姉ちゃんじゃなきゃいやだ」
「リヒト」
「もちろん、パパだってボスじゃなきゃ嫌だからね!!」
「あぁ、分かってる」
ちょっとだけまた泣きそうな顔をしたボスは俺の視界を塞ぐように大きな手で俺の目を覆っていつもは姉ちゃんがしてくれるみたいにお腹をリズムよく叩いてくれた。
どんどん重たくなる瞼に抗いながら手を伸ばしたら俺の目を覆っていた手をどけて優しく包んでくれる。
待っててね。姉ちゃん、すぐにボスと一緒に迎えに行くから。だから、あんまり泣いたらダメだよ。
うさぎの目になってたらボスと一緒に笑っちゃうからね。
パパとママなんて恥ずかしくて呼べないけど、だけど俺のパパとママはボスと姉ちゃんだけだから。
俺の居場所はボスと姉ちゃんの側だから。
だから、泣かずに待っててね!
絶対にボスと一緒に迎えに行くからね!