はじまりの記憶ー1ー
ノクトとルナの出会い
静かな夜だった。
怖いくらいに、静かな夜だった。
物音なんてなにひとつしなかったのに、ルナを起こしに来た爺やの顔はすごく焦っていて、とても怖い顔をしていた。
「お嬢様、緊急事態です。爺の言うことをよく聞いてください」
「爺や?」
「あぁ、お嬢様」
眠気眼で目をこするルナを爺やは泣きそうな顔でぎゅうっと抱きしめた。
けれどそれもほんの少しのことですぐにルナをクローゼットの奥深くに押し込めてお気に入りのブランケットでその体を包むと固く扉を閉ざす。
ルナには真っ暗な世界でじっと息を殺すことしかできない。
ぎゅっと両足を抱え込んでただひたすらに祈った。
はやく。はやく迎えに来て。
父様、母様。はやく、はやく、もう大丈夫だよって抱きしめて。
爺や。はやく帰ってきて。やっぱり勘違いだったって。寝ぼけてただけだって。
お日様、お願いだからはやく昇ってよ。
『現在、侵入者と交戦中です。爺は旦那様と奥様のもとにすぐに戻らねばなりません。
いいですかお嬢様。必ずお迎えに参ります。それまでどうか耐えてください』
『なーに、心配はいりませんぞ!
旦那様がお強いのはもちろん、爺もまだまだ若いもんには負けませんからな!
ちゃっちゃーっと終わらせてお迎えにあがります』
神様。神様。神様。
どうかどうか連れて行かないで。
お忙しくても夜中になってしまっても必ず私の様子を見に来てくださる父様と母様を。
お忙しい父様と母様に変わって私の相手をしてくれた爺を。
私から取り上げないで。
いい子にするから。
もう、ワガママいって父様たちを困らせたりしないから、寂しくても我慢するからだから、だから連れて行かないで。
ニッコリ笑って私の頭を撫でた爺やを最後の記憶にしないで。
ルナはぎゅううっと自分の体を抱きしめながら飛び交う銃声と悲鳴に耐える。
怖い程の静寂はいつの間にか破られて、激しさを増すそれにどんどん不安が大きくなる。
『いいですか。どんな音がしても絶対に開けてはいけませんよ。
“ ”が聞こえるまでは絶対に出て来てはいけません』
不安になって扉に手をのばしては爺やの言いつけを思い出して引っ込める。
それを何度も何度も繰り返しているといつの間にかあれだけ激しかった音がピタリとやんでいた。
終わった?もう、出てもいい?父様と母様を、爺やを探しに行っても、大丈夫?
ゴクリと息を呑んで耳を澄ますとコツコツと誰かが歩いてくる音がした。
ルナの小さな胸が期待に高鳴る。
爺やかしら。それとも父様?もしかしたら母様が来たのかしら?
誰でもいい、もう誰でもいいから、ぎゅって抱きしめて。
もう大丈夫だよって頭を撫でて。
「……誰かいるのか?」
そう思ったのに、聞こえたのは知らない声だった。
ルナは零れそうになる涙をぐっと堪えてピリリとした空気に対抗するように弛んだ気持ちを引き締めて息を殺した。




