白夜夢幻ー6ー
私との話に夢中になって状況をすっかり忘れていた男の子に雷が落ちるのをぼんやりと眺める。
正直なところ私もあまりの安心感に怖さとか危機感とか綺麗に忘れていた。
というか無条件な信頼みたいなものがあって、ふたりの背中に隠された瞬間もう大丈夫なんだと勝手に思っていた。
ほっと胸をなでおろしたものの、私、これからどうなるんだろう。
男の子は絶対に私を連れて帰るんだ!っていってたけど、でも、それに甘えてしまってもいいのかしら。
記憶を失くした私が側にいるということは彼をとても傷つけてしまうことじゃないかしら。
私を見る彼の目はとても悲しくて辛そうだもの。
今だって私を見る彼の目はとても複雑な色をしている。
「……帰るぞ」
どうすればいいのか分からなくて動けない私に焦れたように大きな手が差し出される。
知っている。
私、この手を知っている。
前にも途方に暮れて座り込んでいる私に同じように手が差し出された。
勝手に涙がポロポロと零れてくる。
みんながギョッとしているのが分かるのに、はやく止めなきゃって思うのにちっとも止まってくれない。
ギュッと胸が締め付けられるみたいに苦しくなって余計に涙が溢れてくる。
「泣くな」
ゴツゴツした指が優しく目元を撫でる。
低い声が困ったように囁く。
あの時と同じ温もりが優しさが私の心をふんわりと包みこんだ。
この人のこんな声を聞けるのは、きっと私だけ。
この人のこんなに熱い指を感じられるのも、私だけ。
「ごめ、なさい。ノクト」
掠れる声でそう囁きながら頬を包む大きな手に自分の手を重ねて引き寄せた。
忘れちゃってごめんなさい。
あんな顔をさせてしまってごめんなさい。
簡単につかまっちゃってごめんなさい。
だけど私が一番安心できるのも、私が還るべき場所も、あなたの腕の中だけだから。
私が生きたいのはあなたの側だから。
だから、忘れちゃっても、覚えていなくても、それでも私はあなたを選ぶわ。
あなたが私を迎えに来てくれるように。
記憶を失くしてても連れて帰ろうとしてくれたように。
私も、きっと何度でもあなたを選ぶ。
「……ただいま」
言葉なんてなくていい。
だから、もっと抱きしめて。
壊れるくらいに強く。
あなたの私があなたのもとに戻ったことを、あなたが、私が、分かるまで何度も何度も抱きしめて。
それから、甘く蕩けるようなキスをあなたにさせて。
たくさんたくさん、愛していると言って抱きしめさせて。
そして最後に呼吸を奪うような熱く激しいキスを私にちょうだい?
もう二度とあなたを忘れてしまわないように。
もう二度とあなたから離れられないように。
私にあなたを刻みこんで。
「……次は、ない」
ノクトの誓いをしっかりと受け取って私はにっこりと微笑んだ。
白い夜の悪夢はもうみない。
私の愛しい旦那様がそれを許さない。
だから私は安心して優しい闇夜に抱かれながら微笑むの。




