白夜夢幻ー1ー
幸福論の姉ちゃん(ルナ)視点のお話。
膝に乗せたケーキの箱を見つめては何度も笑みを零す。
あの子は喜んでくれるかしら。
ひとりきりでお留守番させて拗ねてないかしら。
『姉ちゃん!』そう元気に笑って飛びついてくる可愛い子を思い出しては口元をほころばせる私に、呆れた声が落ちてきた。
「なにひとりでニヤニヤしてやがる」
意地悪なノクトは自分だって楽しそうにリヒトへのお土産を選んでいた癖にそんなことを言う。
子どもっぽいことを承知の上でプクリとほっぺたを膨らませる。
そしたらとっても優しい呆れ顔が返ってくるの。
どうしてもゆるむ表情をとめられないのは私もノクトも一緒。
こうしてふたりで寄り添っていられるだけで十分に幸せなのに、家でお留守番してくれているおチビさんは私たちにもっと大きな幸せをくれる。
リヒトが笑うだけで優しくて温かい気持ちが屋敷中に伝染する。
“夜の闇”なんて形容される物騒な人でさえあの子の前ではとても柔らかな顔で笑う。
早く帰りたいな。早くぎゅってして、寂しい思いをさせてごめんねって言ってほっぺにキスして、それを見て拗ねるノクトにもリヒトと一緒にキスして、ふたりいっぺんに大きな腕に抱きしめてもらって、たくさんたくさん笑うの。
「ルナ!」
「っ、」
心はもうリヒトのところに帰っているのに急に大きく揺れた車に、守るように包みこまれた体に頭が真っ白になる。
早くかえらなきゃいけないの。私もノクトも、あの子が待ってるもの。
こんなところで襲撃なんてされてる場合じゃないの。怪我する訳にはいかないの。
何事もなかったように笑顔で帰らなきゃ、リヒトが心配しちゃうわ。
「ルナ、大丈夫だ。俺がいる」
焦りと不安にパニック寸前の耳に落ち着いた声が入り込んできた。
うん、そうね。ノクトが一緒だもの。
大丈夫。もう、怖くないわ。
すぅっと大きく深呼吸してから車の外に出て戦闘態勢を整えるノクトに守られながら恐る恐る周囲を見渡す。
ちょうどノクトの死角になる場所で何かがキラリと光った。
「ノクト!!」
背中が、熱い。
私を抱きとめたノクトの顔がぼやける。
そんな、かお、しないで。
私、だいじょうぶよ。ちょっと、チクっとしただけだもの。
背中が熱いのもきっと気のせいよ。だから、そんな顔をしないで。
はやく、かえらなきゃ、リヒトがまってるもの。
わたしたちが、かえってくるのを、まってるもの。きょうはジオもニナも仕事でいないからきっと退屈してるわ。
「かえら、なきゃ。ね?」
「あぁ。そうだな。すぐに片付けるから、待ってろ。」
まるで壊れものに触るみたいに優しく優しく横たえられる。
ぼんやりとした視界の先にアクマの姿を見たのを最後に私の意識は途絶えた。




