これにて一件落着?
ボスと姉ちゃんがはじめて向き合った。
俺は邪魔にならないように空気をよんでジオの側にいる。
というか俺までなんだか緊張してしまってジオの足にしがみついている。
ジオから呆れた視線を向けられている気がするけど、俺はそれどころじゃない。
「……帰るぞ」
ボスはそう言っただけだった。
姉ちゃんは緊張した顔のままどうしていいのか視線を彷徨わせる。
だけどボスがスッと手を差し出した瞬間ぶわっと泣きだした。
俺もジオもボスもギョッとして姉ちゃんを凝視する。
え?ええええ!?なんで?なんで泣くの!?
あ、ボスの手血まみれだから怖かったの!?ねぇ、ジオ!どうするのコレ!?姉ちゃん今更帰ってくるのイヤなんて言わないよね!?ボスのこと怖いとか言わないよね!?大丈夫だよね!?
知るかあぁあああ!!管轄外だ!!なんでも俺に頼ってんじゃねぇ!!!
つーかボスは大丈夫なのか!?ショックでフリーズしちまったりしてねぇだろうな!?
うっ、胃が……!!
ジオ!?ちょ、こんな時に胃抑えてぐったりしないでよ!?だれか胃薬―――!!
「泣くな」
困ったようなボスの低い声が混乱している俺たちの耳にスッととけこんだ。
慌ててジオからボスたちに視線を向けるとボスの指がまるで壊れものに触れるみたいに優しく姉ちゃんの涙を拭ってた。
姉ちゃんは大きく目を見開いてしばらく呆然としていたけど、すぐにまたポロリと涙を零して今度は自分からボスに手を伸ばした。
「ごめ、なさい。―――」
小さく、俺たちには聞きとれない声で何かを囁いた姉ちゃんにボスはピタリと動きを止めた。
「……ただいま」
泣き笑いの表情で笑った姉ちゃんはすぐにボスに抱きしめられて俺たちから隠された。
俺はパチパチと目を瞬いてジオを見上げる。
ジオもまた展開に付いていけずに呆然とそれを見ていた。
「つーことは、だ」
「姉ちゃん、俺たちのこと思い出した……?」
え?本当に?
あれだけキレイさっぱり忘れられてたのに?
キョトンとした顔で「どちらさまですか?」なんて言ってたのに?
ボスが姉ちゃんの涙を拭っただけで思い出したの??
「どこまでもハタ迷惑っつーかなんつーか。……やってらんねぇ」
「こういうのってキスとかで思い出すのが王道なんじゃないの?
あんなささやかなことで簡単に思い出しちゃっていいの?」
「そりゃ物語の中だけだろ。お前はアイツらに何を求めてんだ。」
ジオは心底うんざりした顔で俺を見た。
だって物語のお姫様は王子様のキスで目を覚ますお話ばっかりだもん。
そう言ったらジオはあからさまに顔を顰めてうちのはオヒメサマの前にじゃじゃ馬がつくんだよ。
んでボスは王子様じゃなくて暴君だ。もしくは野獣だな。化けモンでもいい。
なんてボスが聞いてたら間違いなくぶん殴られて山のように仕事を押し付けられるようなことを言った。
「んなことよりもう帰ってもいいか?つーか帰るぞ。俺は」
「俺も帰る。存在忘れられてるっぽいし。姉ちゃんが帰ってくるならもう何でもいいや」
とゆーか、今はもうボスと姉ちゃんがいちゃいちゃしてるのを見る余裕もあそこに入り込んでいく元気もない。
疲れた。なんかものすごく疲れた。姉ちゃんに甘えられないならもう帰りたい。
「ついでにどっかで朝飯食って帰るか?好きなモン奢ってやる」
「ホント!?じゃあ俺ホットケーキがいい!!」
「じゃあ俺たちは先に帰るぞ、馬鹿夫婦。テメェらも適当に帰って来いよ」
「ボス、姉ちゃん、午後のお茶は一緒にしようね」
俺とジオはボスたちの返事を聞く前にさっさとその場を後にした。
だって馬には蹴られたくない。
「ねぇ、ジオ。俺、パフェも食べたい!!」
「そりゃメシじゃねぇだろ。つーか、んなことしたらそっちがメインになっちまうだろ」
「えぇえーー!?じゃあ、ホットケーキやめてガトーショコラとパフェにする!!」
「完全にドルチェじゃねぇか!!アイツらは一体どういう教育してやがんだ!!!」




