夜が明けたら失くした宝物を探しに行こう
ボスとジオは俺が頷いたことを確認することもなくただ真っ直ぐにあの男を見据えていた。
それが何だか二人に信頼されているようで嬉しくて、俺は涙を拭って顔をあげる。
姉ちゃんが俺たちのことを忘れちゃって一番悲しいのは、悔しいのはきっとボスだ。
俺も姉ちゃんのこと大好きだけど、ボスだって姉ちゃんのこと大好きだもん。
大好きなボスが、大好きな姉ちゃんを俺に預けてくれたんだ。
俺が、姉ちゃんを守らないと。
ボスとジオが俺たちを守ってくれるんだから、俺も姉ちゃんを守らないと。
「姉ちゃん、だいじょうぶだよ!ボスたちが絶対に守ってくれるから!
俺も絶対に姉ちゃんを守るから、だから、だから、もう怖くないよ!絶対に大丈夫!!」
ボスとジオの大きな背中に庇われながら俺は不安と恐怖に顔を歪める姉ちゃんに笑いかけた。
「どう、して……?」
「姉ちゃん?」
「どうしてそんなにしてくれるの?
わたし、私、君のこともあの人たちのこともなんにも覚えてないんだよ?」
それでもいいよ。
目の前にいる姉ちゃんは俺の知ってる姉ちゃんじゃないけど、だけど、やっぱり姉ちゃんだから。
「俺、姉ちゃんが俺やボスのこと忘れちゃったのすごく嫌だ。すっごく悲しいし苦しい。
でも、姉ちゃんが悲しい顔してたり怖い思いしてるのはもっとずっと嫌なんだ」
姉ちゃんは目を見開いて俺を凝視した後、今にも泣いちゃいそうなくらいに顔を歪めた。
綺麗な漆黒の瞳にはうっすらと涙の膜が張っている。
「俺もボスもジオも姉ちゃんが大好きだから迎えに来たんだ。
だから、姉ちゃんが嫌がっても絶対に連れて帰るんだ」
「へ?」
決意を込めて紡いだ言葉に姉ちゃんは表情を一転させてものすごく間抜けな顔をした。
自分でもちょっと可笑しなことを言ってる気がしないでもないけど、取り消す気はない。
だってきっと俺もボスもジオも姉ちゃんが泣いて嫌がっても無理やり連れて帰る。
それだけ姉ちゃんは俺たちにとってなくてはならない存在なんだ。
姉ちゃんの笑顔がないとダメなんだよ。俺たち。
「それに囚われのお姫様は王子様――ボスは王様だけど――に攫われて幸せになるものだって言ってたもん!!」
「ふふっ、わたし、お姫様なの?」
「そーだよ。姉ちゃんは俺たちのたったひとりのお姫様!!
だから、ちゃーんと俺たちに守られてずぅううっと笑っててね?」
ようやく笑った姉ちゃんに俺も嬉しくなってにっこりと笑った。
そしたら姉ちゃんは俺の大好きな優しい顔で笑って俺の頭を遠慮がちに撫でてくれた。
「じゃあ、ちゃんと攫ってね?
実はちょっと飽きちゃったところなの。」
悪戯っ子のように笑った姉ちゃんは俺たちのことを覚えていないこと以外俺の知ってる姉ちゃんだった。
それが嬉しくて、でも胸がきゅうと締めつけられるように痛んで、俺の浮かべた笑顔はちょっぴり変になった気がした。
だけど、姉ちゃんの言葉を背中越しに聞いていたボスとジオが俄然やる気になったおかげで俺と姉ちゃんが怖い音や匂いを気にしないといけない時間は物凄く短かった。
というか、姉ちゃんとの話に夢中になってたせいで気がついた時には全部終わってた。
それがバレてボスとジオに叱られたのはナイショのはなし。
おかえり、姉ちゃん!!




