姉ちゃんを奪還せよ!!
ビリビリを通り越してズキズキする空気の中、男は笑顔を張りつけたまま愉しそうに話を始めた。
聞き慣れない単語がたくさん出て来て俺にはちっとも分からなかったけど、ボスとジオから発せられる空気がどんどん冷たく鋭くなるのが分かった。
「世代交代だよ。簡単な話だろ?」
そう笑った男にジオが嘲笑を零す。
「思い上がりも甚だしいな。
テメェみたいなのがこの世界の頂点に立ったらこの国はすぐにでも終わるだろうよ」
男が不愉快そうに眉をひそめた。
だけど俺もそう思う。ボスはボスだから、みんなが付いてくるんだ。
国がどうとかっていうのは知らないけど、俺、ボスはボスがいいもん。
「たかが王族の血を引いているってだけだろ?僕と何が違う」
「ぜんぶ」
小難しい話に頭を悩ませていたらそんな言葉が零れていた。
自分でもしまったと思ったけど、見事に張り詰めた空気が壊れていく。
部屋が可笑しな沈黙が包まれる中、俺の頭にもジオの拳骨が落ちてきた。
ボスにも睨まれたし、あの男も射殺しそうなくらいに怖い目で俺を見ている。
「だってボスのんが強いしカッコイイもん」
痛みに悶えながら小さく反論するとジオに溜息を吐かれた。
ボスはもう俺のことなんか完全に無視して男を睨みつけている。
その目は小さな憎しみに囚われることなく、いつだって自信と威厳に満ちていた。
いまだって姉ちゃんを傷つけられた怒りに燃えてはいるけど、アイツの目みたいに濁ってなんかない。
ほらみろ。あんな小物なんかよりボスのほうがずっとずっと強くて誇り高くてカッコイイんだ。
だってボスは俺の自慢のパパだもん!
「お前が威張ってどうすんだ」
呆れたジオの声を丸っと無視して姉ちゃんを見ると、姉ちゃんはポカーンとした顔をしていて、俺と目があったことに気付くと姉ちゃんはぎこちなく笑った。
とっても怖い思いをしてるはずなのに、俺みたいにボスとジオがずっと側にいてくれたわけじゃないのに、それでも姉ちゃんは、俺に笑ってくれた。
「ジオ、俺、姉ちゃんのトコ行く」
「リヒト?」
「姉ちゃん、こっちに連れてくる」
「何バカ言ってやがる。大人しくしてろ」
「姉ちゃんがあっちにいるからボスはあいつをやっつけられないんでしょ?」
「それでも駄目だ」
「ジオ!」
「大丈夫だ。ボスが姫を傷つけるわけねぇし、姫に手をだしたやつを許す訳ねぇ。
だから大人しくしてろ」
「やだ」
「……テメェのいう世代交代とやらにどうしてソイツまで巻き込まれなきゃならねぇ」
今まで黙って睨みあっていたボスが突然口を開いた。
それがボスのくれたチャンスで合図だった。
俺はボスの意図を理解して顔を引きつらせるジオを無視して一度大きくゆっくり息を吐いて息を殺す。
大丈夫。
ボスの右腕でボスの次に強いジオに悪戯をしかけられるくらいに俺は気配を殺せる。
だから、大丈夫。姉ちゃんとジオに膝かっくんする時を思い出せばいいんだ。
ターゲットはジオじゃなくて姉ちゃんだけど、ボスが注意を引きつけてくれてるんだから大丈夫。できる。俺だって姉ちゃんを助けるんだ!!
ボスからのはじめての指令。
ママのためにパパからまかされたはじめての仕事。




