乗ります!
駅のホームには、普通この時間にはあってはならないものが停まっていた。六両編成、先頭車両はちょうど丸みを帯びた特急列車のようであった。
そのちょうど三両目あたりの車両入り口がホーム出入り口の正面にある。その扉が開き、そこから一人の人間が出てくる。その人は車掌服を身につけたざっと40代ぐらいの男だった。
「おや、ここへは物資補給のつもりでしたが。もしや、ご乗車になりますか?」
宇憧はそれに、まるで貧乏人の亡霊に取憑かれたかのような顔で、こう答えた。
「はい! 乗車券まだ買ってないし料金も確認してないですけど、乗ります!」
そうして、宇憧はその列車に乗り込んだ。扉を入ってすぐ左に内装を見ることが出来た。
そこは寝台列車特有の片側に寄った通路とベッドや洗面台が備え付けられている客室で構成されており、長旅のための車両である事は見て取れた。
と、そこに先ほどの車掌とおぼしき人がやってくる。
「申し訳ありません。補給と準備のためこれから10分ここで停車することになりました。そこでなのですが、この列車の乗車について私から説明させていただきます。」
「ああ、ありがとうございます。えっと、さっき行ったとおり、俺、運賃とか何も確認してないんすよ。そもそも列車が止まるとか知らないし。」
「ああ、お代は結構です。」
「まじすっか!!!」
「ええ、ついで言うとこの車両はこの星で運行されている通常の鉄道ではございません。」
「ん? それってどういう……。」
車掌は列車を見るよう宇憧へ手招きをする。それに答えて宇憧は車両から降りた。
「この車両は、星間特急はてなし。最高速度は光を凌駕し、時空を超えて星々を巡るために運行する観光寝台特急列車です。じつは個人営業でして、私どもはお客様に幸せを提供し、それによって発生するエネルギーを糧に生きております。」
「え、人間じゃないのかよ。こわ。」
「まあ、そうなりますね。見た目はあなた方と同じでしょうが。あ、安心してください。あくまでエネルギーだけですから。幸福感まではいただきません。」
車掌はニッコリと笑顔で宇憧を見る。宇憧は無理矢理納得し、車掌に問いただす。
「それで、え、いいんすか? タダでぶらり電車の旅しちゃって。」
「おや? 私てっきり星間旅行が目的のお客様かと。身なりが完全に旅の服装でしたから。」
「ああ、これ。俺、もともと異世界に行こうとか考えてて、そんでいろいろやり方探してこの時間のこの場所ならいけるぞって掲示板で聞いてここにいるんすよ。この服とかはまぁ、何があるかわかんないしなぁって。」
「ふむ、もともと別の世界に行こうと……、それならちょうど良かったですね。どうします? ご乗車、いたしますか?」
ビュッと風が吹く。宇憧は決意をかためて。
「はい。」
「では、車内に参りましょう。そこで、乗車けんの手続きと車内の説明を行います。」