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6.ローブと創魔石

二人の向かった部屋は小部屋だった。

 その部屋に置かれている物の殆どは、フィアナの私物が主に置いてあり普段は使われていない物や子供の頃に使っていた思い出の品が整理整頓されていた。フィアナ以外は誰も入ろうとしないので、ここに安心して置いていたのだとシェーンは思った。


「姉さん、あそこに置いてあるのだけど」


 指を差した先には部屋の片隅に置いてあるフィアナが幼い頃に使っていた机だった。その机上にはローブと何かを包んだ真新しい白い布が置かれている。

 机に歩み寄り、ローブを掴むとそれを広げてシェーンに見せた。


「このローブ、彼が羽織っていたのよね?」

「間違いないな。川辺で会ったときに羽織っていたローブだが、それがどうかしたのか?」


 所々細かく切れてはいるが何ら普通と変わりないローブに、念を押させて訊かれたシェーンは不思議そうな顔をして返事をした。

 そして、フィアナが机の引き出しから小型ナイフを取り出すとシェーンに渡した。


「姉さん、このナイフでローブを切り裂いてみて」


 突然、何を言いだすんだとシェーンは思ったが、フィアナの目は真剣な目つきだった。


「おい、幾らボロボロになっているとはいえ、人の物を傷つけるのは良くない事は分かっているだろう?」

「そのくらい私もわかっているわよ。ただ、このローブは普通じゃないのよ」


そう言うとフィアナは机上にローブを広げて左手で押さえると、右手に持っていたナイフを頭上まで上げ一気に振り下ろした。


「おいっ!!」


声を張り上げ止めに入ろうとしたが、フィアナの振り下ろしたナイフはローブに刺さり、ナイフの切っ先を力一杯自分の手元まで持っていきローブを切り裂いた。

焦るシェーンに対してフィアナの表情は冷静だった。


「大丈夫よ、姉さん! これを見て」


フィアナはナイフを置いて切り裂いた部分を広げて見せた。


「切れているじゃないか! どこが大丈夫なんだ!」


確かにローブは切り裂かれている。しかし、裂かれていたのは表生地で内側に見える生地には全く損傷が見当たらない。下生地も表と同じ色の蒼色でちょっと見ただけでは下に生地があるとはシェーンは気づいていなかった。


「これは…… どういうことだ?」


  裂かれた部分を指先で確認しながらフィアナに訊いた。


「このローブ、ボロボロになっているのは表の生地だけで、内側の生地は無傷なのよ。それに見にくいけど、指先で触ると生地と同色で刺繍が施されているわ」

「本当だな、指で触るとよくわかる。それも刺繍が細かいな、もしかしてローブ全体に縫われているのか?」


シェーンは顔を近づけると物珍しそうに刺繍を指でなぞりながら熱心に見ていた。


「それも確認するために姉さんに見てもらおうとしたのよ」


するとローブの切り裂いた部分をフィアナはナイフで更に切り裂き、ボロボロのなった表生地を剝ぎ取った。その下からは現れたのは、傷一つ付いていない、もう一着の蒼色のローブ。


「汚れさえ取れば新品同様のローブじゃないのか? やっぱり刺繍もローブ全体に施されているな。しかし、何で同じ色の生地で隠す必要があったんだ?」

「それは私にもわからないし知りたいわ。それと他にもわかった事があったの、このローブ、魔法で調べてみたら防御魔法が施されているのよ。それも物理攻撃と魔法攻撃の両方の防御魔法が施されているの、まだ初歩段階の調べしか出来てないけど、どれ程の防御力があるのかもっと詳しく調べてみようと思ったけど、彼が目を覚ましたし直接色々と訊いてみようと思うわ。こんな凄いローブなんてそう簡単に作れるわけがないし、どんな術式の方法で作ったのか訊けばもしかして教えてくれるかもしれないしね?」


にこやかに話すフィアナにシェーンが止めに入った。


「ちょっと待て! 調べるは良いとして、話しをしても教えてもらえるかはわからないぞ! そもそも二つの防御魔法が一つのローブに施させている事じたい不思議と言うかおかしいじゃないか、もし製作方法を知っていたとしても教えてくれるとは思えない。それより重大なのはこのローブを他の魔道士たちに見せたら喉から手が出る程の魔法の物品じゃないのか? 有り金を叩いてでも欲しがる魔道士は幾らでもいると思うぞ!」


シェーンの言っている事はもっともだった。本来、一つの物に二つの魔法を施すのは不可能とされてた。

今まで有能と言われた王宮魔道士たちが何人も試みたが魔法が施された物に新たに魔法を施しても効力が出ないか、新たに魔法を施したせいで最初に施した魔法の効力が消えてしまう。他のも同時に二つの魔法を施す方法も試されたが、魔法同士が相殺し合い失敗に終わってしまう結果で成功した者はいなかった。

だが、目の前には不可能とされた魔法防具がある事は実際にはとんでもないことだった。


「いいのよ、別に教えてもらえなくても、私は彼と話せるキッカケが多くあれば良いのよ。そうすれば色々話せると思うし親しみやすくもなるしね。それより表の生地がダメにしてしまったから新しく生地を新調しないといけないわね。今までの蒼色でいいのかな? それとも別の色でも大丈夫…… かな? これも訊いてみようっと」

「おいおい、事の重大さがわかっているのか?」


両手を腰に当て、呆れて溜め息をつきながら妹を見るシェーンだが、フィアナは鼻歌を歌いながら嬉しそうにローブを畳んでいた。


「姉さん、これで驚いているようじゃダメよ。机の上にある包んだ布を開いてみて、もっと凄いモノがあるから」


フィアナの笑みに促され、シェーンはもう一つ置いてあった布を手に持った。 思っていたよりも重い包みに何かと思い開くと、中から形の整った色とりどりの水晶が包まれていた。


「これは創魔石じゃないのか? それも大きいのがこんなに!」


目の当たりにした創魔石にシェーンは目を見開いて驚いた。どれもが形は同じに加工されており、両端は尖って長さは一般の大人の広げた手の平より少し長く、太さは中指と同じくらいか若干太い六角形の形をしていた。それが金、銀、白、紅、蒼、緑、黄、茶、黒の九種類の水晶が布に包まれていた。

手に取り他の違う色の石と見比べていると、中に今まで見たことがない創魔石に目に入った。


「これも創魔石か?」


それは黒い水晶。しかも他の石は一本しかないのに対し黒は二本ある。シェーンが窓際で光を照らしながら見ても輝きは一切放たない。逆に光が吸い込まれているかの様にも見えた。黒さよりも暗黒に近い色を持っていた。


「それも創魔石だと思うわよ。私も見たことはないけど持ち主がいるから、やっぱり本人に訊くのが一番ね」


相変わらず笑顔で応えるフィアナにシェーンは溜め息をつき愕然がくぜんとした。


「でも、私もここまで純粋で大きな創魔石は初めて見たわ! 私の持っている白い創魔石でも大きさはそれの四分の一くらいだし、色も灰色かかっていて、ここまで白くないのよね」

「ここまで純粋だと、まるでドラゴンしょくだな! しかし何でまたこんな物まで持っているんだ?」

「内側のローブに大切そうにしまってあったのよ。これは彼に訊く事が沢山あるわね。それにこれだけあれば一個くらい貰えるかな?」


楽しそうな顔で、しまいには目まで輝かせながら喋るフィアナにシェーンは呆れるよりも諦めを感じていた。


「それも無理だろう。ここまで純粋な物は滅多にないぞ、それに創魔機乗りなら絶対に手放さないな」

「えーっ! ダメもとでも訊いてみるからいいもん」


フィアナは子供のように駄々をこねるように頬っぺたを膨らました。


「好きにしろ! だが困らせる事はするなよ、幾ら姓もなく身元がわからない相手といっても奪い取るような真似はするな」

「そんな事わかっているわよ!」


ツンとした表情を見せるフィアナにシェーンは改まって真剣な表情へと変わった。


「それで、この事は他の誰かに話したか?」

「話すわけないでしょ、姉さんだけよ」


真剣な顔になったシェーンにフィアナは何事かと思い応えた。


「そうか、この事はまだ誰にも言わないでほしい。明日、ディック隊長が彼に話を訊きに来るが、彼がこの事を隊長に話さなかったら私達も話す必要はない」

「いいけど、何でそんな事をするの?」

「おかしいだろう。これだけのローブを持ちながら彼を見つけたときは重傷だったんだぞ、やはり何か隠しているとしか思えない。それに以前、ダグが創魔石の事について話したのを思い出したのだが、何て言っていたか思い出せなくてな。それがこの事と繫がる話だと思ったのだが……?」

「そう…… 思い出せないのなら仕方ないわね。話しは姉さんに合わせるから心配しないで、思い出したら私にも教えてよね」

「わかった。頼んだぞ!」


額に手を当て思い出そうと悩んでいるシェーン。


「私はこれから彼の夕飯の支度をするけど姉さんはどうするの? まだここにある物を見て思い出してみる?」

「いや、もういいだろう。部屋に戻って書類をまとめるとするよ。夕飯になったら呼びに来てくれないか?」


ここで考えていても直ぐには思い出せないと感じたシェーンは、他の事を片付けてしまうのが先決だと思い部屋から出ようとした。


「そういえば今日は久しぶりに三人揃っての夕食ね。きっとサエラが喜ぶわ」

「そうだな。サエラの喜ぶ顔が目に浮かぶよ」


 二人は三女のサエラの話をネタに笑いながら部屋を後にした。その後、日も沈み姉妹たちの楽しい夕飯の団欒だんらんから早めに切り上げたフィアナは、俺のために夕飯を運んできた。

ドアをノックして部屋へと入ると、暗くなった部屋を魔法の光でキャンドルスタンドに灯す。そして俺が寝ているベットへと歩み寄ってきた。


「夕飯を持って来たけど食べられるかな?」


優しく話すフィアナの声に返事をしない俺は、ベッドで眠っていた。食事をテーブルに置き、枕元の横に置いてある椅子にフィアナが座ると、朧げの光の中で俺の顔を見つめながら呟いた。


「ねぇ、アシル。あなたはダロウィンにいたのね。あなたは私が幼いころに会ったアシルでしょ? 私のこと覚えていないかな? それとも、あのときの私のことなんて気にもしてなかったのかな?」


そんなフィアナの言葉は今の俺には届いていない。だが、フィアナは優しい笑顔で俺を見続けたのだった。


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