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5.アシルの記憶

 一人になった俺は、枕を背もたれにして窓の外を見ていた。空は晴れ渡っていて、開いている窓から差し込む日差しは、気持ちの良い風を運んでいる。

 二階からは青々とした木の枝からは鳥のさえずりが聞こえ、日本の季節で言えば春が訪れている感じだ。

 普通なら清々(すがすが)しい気持ちにもなるだろが、頭を悩ますことばかりだ。

 アシルと名乗ったはいいが、本当に別名で生活をしていくのかと思うと気が重くなる。記憶は目が覚めたら一気にアシルの記憶が流れ込んできた。しかし、記憶の量が多いせいなか、ぼんやりとしか思い出せない。しかも最近のアシルの記憶と言うか自分記憶で、川辺で脅されていたときぐらいだ。その少し先の記憶は思い出せそうもなかった。

 しばらくするとドアにノックがあり、二人の女性が入ってきた。一人はさっきまでフィアナと、もう一人は青い瞳と長い銀髪が特徴の女性だった。部屋に入り俺を見るなり笑顔で声を掛けてきた。


「やっと目が覚めたか! 話しが出来ると聞いたが気分はどうだ? 大丈夫か?」


 声を掛けてきたシェーンはベットの横に置いてあった椅子に座る。フィアナはその後ろに立ち笑みを見せていた。俺は返事をしないまま黙ってシェーンの顔を見ているだけだった。


「うん、どうした? 私の顔を覚えていないのか?」


 笑いながら呆れたように聞いてくるが、俺はハッキリと話した。


「川辺にいた…… そうかアンタが俺を助けてくれたのか、ありがとう助けてくれて、迷惑をかけて申し訳なかった」


 謝ると今度はシェーンが黙ったまま俺を見ていた。


「何か…… 変なことでも言ったか?」

「いや、あのときの行動から素直に謝るとは思ってなかったから驚いただけだ」

「そいつは悪かったな! 頭の中が混乱して周りがみんな敵に見えて…… 助けてられるとは思ってもみなかったんだ」


 慌てながら言い訳っぽく言うと、二人は確認するかのようにお互いの顔を見合わせ真剣な顔つきでこっちを向いた。


「そのことなんだが…… キミは襲撃を受けたダロウィン王国の国民じゃないのか? もしそうなら向こうで何が起きたか話してもらえないか? いったい何があったのか? オルシアン王国に届く情報が余りにも少なすぎて騎士団の中には神経が逆立ってきた者も出てきている。どんな小さなことでもいい、教えてもらえないか? こっちとしても何とか騎士団をまとめるキッカケが欲しいんだ」


 ダロウィン王国と聞かされた瞬間、脳裏からは、ぼんやりとした記憶がハッキリと浮かび上がってきた。頭を抱え込むと二人は慌てだし声を掛けてきた。


「おぃっ! 大丈夫か?」

「大丈夫、アシル? 無理しなくていいのよ」


 記憶が戻り戸惑ったが、落ち着いて二人に笑みを浮かべた。


「大丈夫だ。アンタたちは命の恩人だ。話せることは話すよ。それで、何から訊きたいんだい?」


 その言葉にシェーンは少し考え込み口を開いた。


「それなら…… 襲撃があったときから話してほしい」


 目を閉じ大きく深呼吸して、過ぎった記憶をたどりながら、俺はゆっくりと語りだした。

「襲撃のあった日、俺は城の城下街にいた。街は普段と変わらず活気に満ち溢れ何ら変わりがなかった。けど、晴れ渡った空の一部が曇り出してから異変が起きたんだ。少しずつ暗い雲に覆われたと思ったら、その雲の中から巨大な飛空艇が数隻と数匹の黒竜ブラックドラゴンが現れた。その飛空艇からは五十は超える黒い創魔機そうまきが現れて城を中心に攻撃を仕掛けてきたんだ。城はドラゴンたちの集中攻撃で直ぐに落城したよ。そして」

「ちょっと待て……」


 話しているとシェーンが突然話を止めた。


「今、ドラゴンと言ったよな…… 本当にドラゴンだったのか? それも数体も現れたと言ったが本当なのか?」


 シェーンは信じられないという目つきで俺を見た。しかし、シェーンが疑うのも無理もなかった。こっちの世界ではドラゴン自体、存在は確認されてはいたが主に単体で動き、見られるのは希少。人が一生でも一度、見られたら運の良い方だと言われていたくらいだ。

 そのドラゴンが数体の集まった状態で見たと言う俺の言葉に疑問すら思ったのだろ。


「間違いないあれはドラゴンだった。特徴からも黒竜だ。それにブレスの威力は間違えなくドラゴンが持つ破壊力だと思う」


 その言葉にシェーンは直ぐに信じることは出来ない様子だ。


「ドラゴンが存在するとは聞いてはいるが、私はまだドラゴンを見たことがない。もし言い伝え通りならドラゴンは倒せないはずだ…… ドラゴンを目の当たりにしたと言ったが、どうやって襲いかかって来るドラゴンから逃げてこられたんだ?」


 シェーンは疑問を投げつけると俺は両手で薄手の毛布を強く握りしめた。


「助けられたんだよ…… ダロウィン騎士団に…… 各師団長クラスは前線を押さえていた。最初は敵の創魔機の数を減らしていて、その隙に他の騎士たちは国民を避難させていたんだ。城が落ちたとはいえ騎士団は国民を守ろうと交戦していた。戦況は前線を守っていた師団長たちが有利に立つと思った。だけど、敵の創魔機にドラゴンが加わると、あっという間に戦況は一変して前線は総崩れになった…… その後は収拾がつかないまま国民は混乱の中を逃げ惑うだけだった。それでも生き残った騎士団は創魔機がボロボロになっても国民の盾になって戦った。 俺は知り合い師団長のダグと副長のキースに助けられたんだ。俺は…… 逃げるだけが精一杯で、盾となったダグとキースを見捨てたかのように逃げ出した。二人は友人だった。なのに…… こんな俺を逃がすために盾になってドラゴンに向かってやられたんだ」


 俺は後悔と悔しさから最後の方は涙を流しながら話した。シェーンは無言のまま話しを聞き、フィアナは両手で口を押さえながら聞いていた。


「わかった! 話すのはここまででいい。悪かった…… つらいことを思い出させてしまって、最後にどうしても聞きたいことがあるのだがいいかな?」

「あぁ、わかることなら答えるよ」


 涙を拭いながらシェーンに顔を向けた。


「ダロウィン騎士団のダグとキースとは、ダグ・フリーセルとキース・イミルの二人のことか?」


 シェーンの質問に俺は驚いた。


「二人を知っているのか?」

「二人とも私の知り合いだよ。私が所属する騎士団と何回か交流があってね。そのときに私はダグと同色の翼がキッカケで話すようになりって知り合いになったのだが、そうか、もう会えないのか……」


 シェーンは思い出にふけるかのように悲しい顔で話した。


「ダグと同じならアンタも銀の翼の持ち主なのか?」

「そうだよ。翼の枚数も同じだ」

「なら…… 八枚か」


 そうつぶやくとシェーンは慌てた口調で話し出した。


「そう言えば自己紹介がまだ済んでいなかったな。すっかり忘れていたよ。『アンタ』呼ばわりも私も困るからな。私はこの家主で名前はシェーン、シェーン・アリオ・クレスタと言う。シェーンと呼んでくれ。 キミの名前はここにいるフィアナから聞いたよ。アシルと言ったな、行く場所は決まってないのだろ? それなら暫くはこの家に居座ると良い。体も治さないとダメだしな。その後のことは後々考えると良いさ、因みに私の部隊長もキミに会って話しをしたいと言っていた。明日にでも会って話すことは出来るかな?」


 軽く頷くとシェーンが満足そうに微笑んだ。


「そうか、ありがとう。それと私にして欲しいことはあるか? 私もできる限りのことはするつもりなのだが」

「それなら知り合いを探してほしい」

「わかった。名前と特徴は後でフィアナに教えといてくれ、私は自分の部屋に戻るが暫くは家にいる。何かあったらフィアナに遠慮なく訊くといい。キミが運ばれたときから治療や看病のほとんどはフィアナがしていたからな、どうやらキミが気になっているらしいからね?」

「もう、姉さんったら変なこと言わないの」


 シェーンが後ろを向いて茶化すがフィアナはまんざら嫌な顔をせず赤くなった顔を両手で隠した。


「おっとりそうに見えるが、この国でも五本の指に入る治療魔法の使い手だ! 面倒見もいいし何でも頼るがいい」


 俺はどう答えていいかわからず苦笑いをした。


「また明日、顔を出す」

「それなら私も一度部屋に戻るわね」


 そう言ってシェーンは立ち上がり軽く手を振り挨拶をすると部屋から出て行った。フィアナも俺に笑顔を見せると、一緒に部屋を後にした。

 二人が廊下を歩き出すと後ろにいたフィアナが難しそうな顔でシェーンに話しかけた。


「姉さんを呼びにいったとき、彼が賊の生き残りかもしれないって話を訊いたけど、私は違うと思うの、逃げるにも理由は色々あると思うけど、彼の言う通り、どうしようも出来なくて避難したんじゃないかと思うのよ?」


 シェーンは歩みを止めると後ろを向いた。


「そのことか、私も今は賊の残党とは思っていないよ。だから彼はこの家で保護しようと思っている」


 シェーンの言葉にフィアナは驚いた。


「姉さんにしては簡単に考えを変えたわね。それも保護するなんて言うとは思わなかったわ」


 普段から簡単に考えを変えないシェーンだったが、何かわかったのか余裕の顔付きになっていた。


「フィアナは私たちの会話を聞いていたのだろ!?」

「えぇ……」


 頷くフィアナに続けて話し出した。


「理由は簡単さ、ダグとキースの話になったとき、彼は私の翼の色と枚数を当てた! ダグのことを知らないと答えられない内容だよ。だから賊じゃないと判断した。それで十分だろ? 因みにキースの翼は緑の十枚持ちだよ。試しに訊いてみたらどうだ? 間違ったことは言わないと思うぞ。それと保護する理由は他のもある。嘘はついていないと思うが隠し事をしている様子がある。今は無理に訊こうとはしないが、何かあるかもしれないからな。当面は治療を名目に家に居てもらうことにするよ」


 呆れた顔で聞いていたフィアナだったが、最後の話を聞いたときにフィアナは難しそうな顔つきになった。


「それなら姉さんに見てもらいたい物があるの、彼が持っていた物だけど姉さんに率直の意見も聞きたいから」

「何だ、珍しい物か?」

「そうね、希少度のかなり高い物と、見たこともない物があるわ」

「それなら今から見せてくれ!」


 難しそうな顔をしているフィアナに対してシェーンは興味津々の顔つきになっていた。 そんなシェーンをフィアナは別室へと連れていった。

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