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4.もう一人の自分

目を覚ませば、妙な眩しさと地面のない真っ白な空間の中を漂っていた。

 周りを見渡せば、先は永遠と続いていそうな真っ白い空間。

 普通なら気が変になりそうに思えるが気持ちは驚くほど落ち着いていて、まるで何かに守られているかのような安心感があった。


「やっとキミと話ができるようになったよ。俺はアシル。キミをこっちの世界に呼んだ張本人だ」


 どこからか、声が直接脳裏に語ってきた。


「誰だ!?」


 声を出しながら周囲を注意深く見渡すが、人の姿は全く見えない。


「今はキミの夢の中に直接語りかけているから俺の姿は見えないよ」

「夢の中?」

「夢の中に入って意識を探らせてもらった。キミと話すためにね」

「俺と話す? こっちの世界?」

「それを話すためにキミの意識に入り込んだ。少しは落ち着いて聞いてくれないか?」


 幾らか興奮してきた俺に対し、アシルと名乗る声の主は落ち着いた口調だった。


「突然のことですまないと思っているよ。だが事情があって別世界からキミを呼んだ」

「事情? 別世界?」

「あぁ、俺の命と言うか魂が欠けてしまってね、その魂を補うためにキミの魂を半分こっちの世界に召喚した」

「補うために俺を召還?」

「そうだな…… 何て言えば分かってもらえるかな……」


 少し間がくと再びアシルと名乗った声が脳裏に聞こえた。


「実は、こっちの世界とキミのいた世界では同じ魂が存在していてね。魂だけじゃない。顔も体型も同じと言っても間違えないな。簡単に言うと魂の双子ってところか?」

「はぁっ? 魂の双子?」

「キミが自分の世界で死んでしまえば俺もこっちの世界で同時に死んでしまう。俺はこっちの世界で死にそうになってね。それを防ぐために急遽きゅうきょキミの魂を召喚して俺の体に取り込んだ」

「はぁー、勝手に召喚して取り込んだ?」

「あぁ、そうもしなかったら俺たちは二人そろって死ぬ所だったからね」

「勝手過ぎないか?」

「勝手過ぎると思うが、そうでもしなかったらキミも向こうの世界で死んでいたぞ!」

「そう言われても……」


 俺は返す言葉が詰まってしまった。


「俺も突然のことですまないとは思っている。だが、こっちの世界に呼んだ理由はあるんだ」

「何だよ、理由って?」

「ロンドの封印、又は破壊だ」

「ロンド?」

「そうだ、今はわからないと思うが、目が覚めれば俺の記憶が一気にキミの記憶に流れ込んで思い出すさ」

「何だよ、知らないことなんか思い出せるわけがないだろう!」


 また勝手なことを言っていると思ったが、アシルは落ち着いたまま話を進めた。


「大丈夫だ。今は一つの体に二つの魂が宿っている。元は俺の体だが魂が欠けた分、キミの魂が俺の体と柔軟に対応するだろう。俺の今までの経験と知識もキミの魂に対応してくる。そうなれば日々、こっちの世界で普通に生活するにも困ることはないだろう」

「何だよそれ? やけに他人任せだな?」


 いい加減な対応に俺はムッとしまがら返事をした。


「仕方ないさ、俺は魂が欠けた為、回復するまで暫く眠るから、後はキミに任せるつもりだ」

「本当に勝手だな!!」

「すまない。勝手ついでに後は任せたよ。これからはアシルとしてこっちの世界で生きてくれ、それにキミが元の世界に帰る方法もあるきっとあるさ、俺の魂が回復するか、それとも俺の目的を果たせたら帰ることも出来ると思うぞ」

「心配以前に不明確すぎないか!?」


 笑い口調で言ってくるが、俺は不安だらけだ。


「お前は俺で、俺はお前だからな。そんなに心配はしていないよ。それから、キミの魂は全部持ってきていないから元の世界のキミは普通に生活をしていると思うぞ」

「思うぞって、えらくハッキリとしていないな」

「それともう一つ、万が一のことも考えてキミと一緒にいた連れの魂も召喚できた。できればこっちの世界でも会ってほしい」


「連れって誰だよ! 部屋にいた全員か?」


 俺の問いにアシルは答えない。


「それよりも、そろそろ目を覚ました方がいいかもしれないな、お前の目覚めを待っている人がいる」

「ちょっと待て! こっちの質問にも答えろ!」


 俺の言葉を最後に白い空間は消え去り、いきなり体に激痛が走った。


「イテッ!」


 あまりの痛みで目が覚め、起き上がろうとすると目眩めまいに襲われ体は言うことをきかない。ただ、何処どこかの部屋のベッドで寝ているのだとわかるまでに時間はかからなかった。


「ここは?」


 頭を動かし部屋の中を見渡そうとすると、ベッドの横で中腰になって俺を見ている人がいた。


「良かった。目が覚めたのね」


 目の前には髪の長い金髪の女性が笑顔で俺を見ている。俺は傷のことなど忘れて再び起き上がろうとしたが。


「イタッ!」


 いきなりの激痛に耐えきれず、そのまま体はベットへと倒れ込んでしまった。しかも激痛は和らぐことはなく、額からは汗がにじみ出てきた。

 荒々しい呼吸で激痛に堪えている俺に、女性は優しく話し掛けてきた。


「まだ無理しちゃダメよ。体の傷はまだ治ってないのだから」

「ここは? 俺は川辺にいたはずなんだけど……」


 息を絶え絶えにしながら話すと、女性は優しく笑みを見せながら、水を絞った布で俺の額の汗を拭き取っていった。それはぬくもりがあり安らぎさえ感じた。


「ここは私の住んでいる家。あなたは怪我でここに運ばれて治療を受けているよ。だから安心してゆっくり休んでいいのよ」


 痛みも徐々に和らぎ気持ちも落ち着ついてベッドに横たわっていっているのを感じとったのか、女性はベットの横に置いてあった椅子に座るとこっちを見つめた。


「まずは自己紹介をするね。私はフィアナ、フィアナ・アリオ・クレスタ。それでアナタの名前は? だいぶ寝ていたけど自分の名前は言えるよね?」


 優しい笑顔で訊いているがフィアナの目は真剣な眼差しだった。


「あっ、俺は…… ア、アシル、アシルって言うんだ」

「そう、アシルね、姓は?」


「姓…… えっとー、姓ない、ただのアシルだよ」


 夢の中で語りかけたアシルは、アシルとしか名乗っていなかった。だがアシルの姓はわかっていた。答えようとしたとき、何故なぜか言ってはいけない警告みたいなのが頭に過ぎり思わず誤魔化ごまかしてしまった。


「……そう、アシルか、アシルね。それじゃぁ、まずはこれをゆっくりと飲んで、喉が渇いているはずだから」


 フィアナが手に持ったのは水の入ったコップだった。それを手にしようとしたが、フィアナは渡そうとしなかった。


「私が飲ませてあげるからゆっくり飲んで、わかった!? ゆっくりと飲むのよ」

「えっ! 自分で飲めるけど……」

「いいから言うことを聞きなさい」


 俺は照れながらも、フィアナは飲ませた。

 喉に水が通ると、今までにない喉の渇きに気づき一気に飲み干そうとコップを手に持った。


「ゴホッ」

「もう、だから言ったでしょ。ゆっくりと飲んでって、水はまだあるから慌てないの」


 むせ返った返った俺にフィアナは笑いを抑えながら注意をした。コップに水を注ぎ足し今度はコップを手に渡してくれた。


「今度はゆっくりと飲んでね」

「ありがとう」


 両手でコップを持ちゆっくりと水を飲み始めると、表情を変えない俺に雰囲気を変えようとしているのか、フィアナは明るく話し出しだした。


「今からこれまでの経緯いきさつを話すから聞いてくれるかな?」


 フィアナの満面の笑みに俺もまた笑みを浮かべた。


「ここはオルシアン王国にある私の住んでいる家で、あなたはこの国の国境の川辺で倒れていた所を私の姉のシェーン姉さんがここまで運び込んだのよ。そして私が治療と看病をしてたの、それで三日たった今、あなたがようやく目を覚ましたってとこ」

「みっ、三日も寝ていた!?」

「そうよ、もう目が覚めなかったらどうしようかと思ったけど、今は意識もハッキリしているみたいだし安心したわ」


 経緯を聞かされた俺は驚いたが、フィアナもまた俺が目を覚ましたことにホッとしたのか胸を撫で下ろしている感じだった。


「助けてくれてくれたことはお礼を言うよ。ありがとう。それで助けてくれてこんなことを言うのは悪いとわかっているけど、迷惑を掛けることになるから直ぐにでも出て行くよ」


 ベットから降りようと普通に動こうとしたら全身に激痛が走った。


「起きたらダメッ!! さっきも言ったでしょ、傷はまだ治っていないのよ! それに、その体でどこへ行こうとしているの?」


 激痛に耐えているとフィアナは俺の両肩を押さえてベットに再び寝かせた。


「行く当てはない…… けど、ここにいても迷惑を掛けるだけだと思う。だから早く出て行った方が、そっちのためにもなる」


 何故、そう思ったかわからないが、口から出た言葉は間違えではないと思った。


「絶対ダメ! 迷惑だろうが何だろうが今のあなたを外に出すわけにはいかないわ。傷が治るまではここに居なさい! それに心配しなくても良いのよ。私はアナタに何かをさせようとは思っていないわ、だから今はゆっくり傷を治すことに専念しなさい」


 フィアナの真剣な顔に俺は諦め、ベットから起き上がるのを止めた。


「それにあなたを助けた姉さんにも会って話しをしてほしいのよ、色々と訊きたいことがあるみたいだから、今からでも会って少しは話せる?」


 心配そうな顔で見つめてくるフィアナに反論する理由もないと思い、素直に聞き入れることにした。


「あぁ、大丈夫だよ。話しは出来る…… でも、訊きたいことがあっても多分、答えられないと思うよ。ここ最近のことは覚えていない所もあるんだ」


 その返答にフィアナは驚いていた。


「ホントに覚えていないの? 姉さんの顔も覚えていないのかしら? 今から連れてくるから少し待っていて」


 椅子から立ち上がると急いで部屋から出ていった。

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