障害物の突破
「うおっ、こいつら。
障害物を突き破って来やがった」
守備していたねこ達は、パニックになった。
クロは、最初の戦いの後拾ったナイフを、咥えている。
障害物の向こうのねこ達を、切り裂いた。
黒い霧を纏ったクロは、速い。
周りのねこ達は、次々と倒されていく。
「この黒ねこ、普通じゃねえ」
クロを中心に、円形に空白地帯が出来た。
にらみ合いになる。
周りのねこ達は、飛び込めば殺られる。
待っていても、クロがそこに飛び込んでくれば殺られる。
完全に動きが止まった。
「ま、待ってくれ!
俺たちは、あんたらに敵対しない」
障害物を築いた一団のリーダーが、前に出てきた。
ゴロンと転がって、お腹を上に仰向けになった。
完全服従のポーズだ。
クロは、黒ヒョウ形態を解いた。
ナイフを咥えたまま、転がったリーダーを睨みつける。
「扉を開ける交渉に応えなかったのは、悪かった。
しかし、いきなり殺す気で来るなんて、そりゃ無いぜ。
クレイトスといい、あんたといい、最深部の奴らは普通じゃねえ。
ここは通すから、もう止めてくれ」
リーダーが懇願した横から、さっきの偵察部隊の一匹が口をはさむ。
「おい、クレイトス様がもうすぐここを通るんだぞ。
クレイトス様は、貴様を見逃さないぞ。
ここを凌いでも、時間稼ぎにしかならんぞ」
リーダーは寝ころんだまま叫ぶ。
「へっ、クレイトスが来る時期が分かっているのに、待たねーよ。
こいつも、こんなに強いって知ってりゃ、さっさと逃げてたさ。
俺たちゃ、生き残ることが最優先なんだ」
「それで、あんただけは忠誠の印に、ここで死んどくんだね」
リンプーに言われて、偵察部隊の一匹は、他のねこの陰に隠れた。
リンプーは失望した。
(チッ、こいつも虎の威を借る狐かい。
見事な偵察に、見どころがあるかと思ったんだけどね)
「時間が惜しい。
通れるんなら、さっさと行こう」
クロは、シロとリンプーを促して歩き始めた。
追ってくるものは、いなかった。
障害物の騒ぎから十分な距離を離れた所で、クロがよろけた。
クロもシロも、何も言わないが限界の様だ。
休憩を取ることにした。
ちょっと休憩までの間隔が長すぎたかもしれない。
シロがぐったりしている。
シロから離れて、クロはリンプーに言う。
「何とか平気そうに見せてたけど、正直しんどい。
首の傷が痛むし、化け物化のダメージがデカい。
さっきも、気付いたら何匹も倒していた。
何度も、意識を持って行かれそうになった」
「普通のねこの体に、あんな戦い方は無理なんだよ。
そのうち乗っ取られて、死ぬまで戦うことになるさ」
「僕は、別に死んでも構わない。
でも、シロには生きて空を見て欲しいんだ」
「何でそんな風に思うんだい。
あの娘に惚れたのかい?
あたいは、あんたに死んで欲しくないけどね」
リンプーは、珍しく優しい目でクロを見る。
「僕は、昔病気で死にそうになったことがある。
その時、横にいて体を温めてくれた、ねこがいる。
どんなねこだったかは、覚えていない。
でも、死にそうで心細かった時に、心が温もったんだ」
一息置いて、クロが続ける。
「希望ができたから、生きることが出来たと思う。
シロは、死にそうになったら生贄にされかけたんだ。
シロの心も、温めてあげたいんだ。
僕を助けてくれた、ねこへの恩返しは、シロを助けることだ」
リンプーは、しばらく考え込んだ。
「あたいは、レジスタンスに属しているって言ってたかな?
ここからそう遠くないところに、本拠地がある。
そこへ行く気は無いかい?
食事もとって休憩して、食べ物も補給しよう。
飲まず食わずじゃ持たないよ」
「でも、多分偵察部隊が離れて付いてきているよ。
レジスタンスの本拠地の場所が、バレちゃうんじゃない?」
「構わないさ。
本来レジスタンスは、ああいう奴らと戦うためのモンだ。
少なくとも、あたいはあんた達を歓迎するよ。
追っ手もレジスタンスと一緒に、撃退できるかもしれないよ」
3匹は、レジスタンスの本拠地に向かうことにした。