表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/14

クロの覚醒

 アシュラは、もがきながら水路を流されていった。

 幸運にも、水に浮いた木製のゴミに引っ掛かった。

 空っぽの木箱のようだ。

 何とかゴミにつかまり、ゴミの上に登った。

 そこから跳躍して、水路横の通路に這い上がった。

 フラフラになりながら、祭壇に向かった。


「畜生、変な奴らに襲われた。

 追撃部隊を出してくれ」

 ほうほうの体で現れたアシュラに、アンゴラは言う。

「アシュラ、まず何があったか報告しろ」


「だから、貢ぎ物を運んでいたら、変な奴らに襲われた」


「それで、貢ぎ物を届けられなかったのか?」


「だって、水路に落とされたんだぞ。

 生きて帰って来ただけで、奇跡だ」


「言い訳は聞きたくない。

 それで、貢ぎ物はどうしたんだ?

 クロはどうなった?」


「貢ぎ物は落とした。

 クロはどうなったか、分からねえ」

 アシュラは肩を落とした。


「アシュラ、お前には失望したよ。

 最強のねこだとかうそぶいていたが、そんな程度だったのか。

 私の後継者は、お前しかいないと思っていたんだがな」


「畜生!」

 アシュラは祭壇を飛び出した。


 あのトラねこを倒して、貢ぎ物を取り返す。

 アシュラは、通路にたむろしていた数匹の若いねこを連れて、再度出発した。






 クロ、シロ、リンプーの3匹は、通路を進んでいた。

 シロは普通に歩けるが、病気のせいで体が弱っている。

 走るのは無理みたいだ。


 アシュラが咥えて運んでいた時に比べても遅い上に、休憩も多かった。

 クロ達は知らなかったが、アシュラの追撃は速い。

 追いつかれるのは、時間の問題だった。


「それで、あんた達のコミュニティには、あのヒョウみたいなデカいのは、他にもいるのかい?」

 リンプーの質問に、クロは黙っている。


 クロは、リンプーを完全に信じ切ってはいない。

 コミュニティの戦力を気安く教えるわけにはいかない。

「フン、義理堅いんだね。

 でも、あんたのコミュニティは、そんな値打ちは無いように思うよ。

 病気の白ねこを生贄にするようなやつが、上にいるんだからね」




 所々通路上に、小さな排水溝からの水を流す溝がある。

 その一つを、リンプーが飛び越えた時だった。

 何かが疾風はやてのように、走ってきた。

 一瞬でリンプーははじき飛ばされ、水路に落ちる。


 追いかけてきたアシュラだ。

「おいクロ。

 何で、俺を水路に落としたトラねこと、一緒にいるんだ?

 裏切りやがったのか?」


「違うよ。裏切る気なんかない。

 でも、僕たちが運んでいたあの袋。

 中身は、この白ねこ、シロだったんだ。

 生きた仲間を生贄にして、自分たちは助かるなんて、あり得ない」


「で、どうするんだ?

 一緒にワニの所に行って、仲良く喰われるのか?」


「シロは病気なんだ。

 外に出て、人間の治療を受けさせてあげたい。

 せめて、空を見せてあげたい!

 アシュラも、一緒に行こうよ」


 アシュラは一瞬考えた様子だったが、顔を上げて答えた。

「何を甘えたことを、言ってやがる。

 俺は、お前を信じていたんだ。

 俺をなめた行動をしたこと。

 許さねえ!」


 アシュラは跳躍してクロの前に立つと、首筋に噛みついた。

 殺す気で噛んでいる。

 牙が肉に食い込む。

 そのまま持ち上げて、ブンと首を一振りした。

 首の骨が折れる。


 クロは、通路の壁にたたきつけられた。


「お前は、俺に従って生きてりゃ良かったんだよ。

 勝手なことをするなら、生きてる価値なんか無い」

 アシュラの言葉を聞きながら、クロは気が遠くなっていく。

(ああ、僕は死ぬんだな。

 もっと強ければ、シロにも空を見せてやれたのにな)

 そう思った時だった。


 ドクン


 クロの中で何かが活動を始めた。

「小さきものよ。

 その思い、かなえてやろうか?」


 頭の中に流れる言葉に強く答えた。

「僕は、強くなりたい!」


「その願い、しかと聞き受けた」


 クロは、いやクロの中に侵入したものが、覚醒した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ