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生贄の運搬

 アシュラとクロは、地下水路の最深部の祭壇に着いた。


 そこに地下水路のねこ達のコミュニティの長、アンゴラがいる。

「アシュラ、適当に護衛を選んで連れて来いといったが……

 なんだ、クロを連れてきたのか?」


「俺は、最強のねこだぜ。

 本来、護衛なんか必要ない」


 力強く答えるアシュラに、アンゴラが言う。

「まあいい。

 境界の怪物を知っているか?」


「聞いたことは、あるな。

 人間に飼われていた子ワニが、下水の中で育って大きくなったとか。

 ここから結構離れたところに、いるらしいな。

 そいつがいるから、その向こうには行けない。

 だから、そこが境界なんだろ」


「奴は何故、このコミュニティの方にやって来ないか知っているか?」


「いや、聞いたこともない」


「それは、定期的に貢ぎ物を渡しているからだ」


「なんだ、ワニ様に媚びへつらって、生かしてもらっているのか?」

 馬鹿にしたように言うアシュラを、アンゴラは強くたしなめる。

「奴は、デカくて強い。

 ねこ達が束になってかかっても、無力な位にな」


「ふっ、俺様が本気で戦えば、ワニごときイチコロだぜ」


「お前も奴を目の当たりにすれば、そんな軽口は叩けないだろうさ」


「アンゴラ、貴様ホントにジジイになっちまったんだな。

 倒すとか何とか、しようと考えないのか?」


「アシュラ、お前がリーダーになったらそうするんだな。

 今は、私がリーダーだ。

 お前たちに頼みたいのは、貢ぎ物の運搬だ。

 今回のはちょっと重いから、体の大きいアシュラを呼んだんだ」




 アシュラとクロは、祭壇から出て、5分ほど歩いた。


「何だ、アンゴラの野郎。

 ホントに意気地なしだな。

 ワニに貢ぎ物だなんて、信じられないぜ」

 アシュラは、不満げだ。


 地下水路の保安のために、人間の駐在所がある。

 時々、そこに人間が出入りしている。

 ねこ達は、危険を冒して駐在所の棚から物資を盗み出している。


 盗んだ物資は、ねこ達の倉庫にストックしている。

 アシュラとクロの最初の目的地は、その倉庫だった。


 倉庫番に、アンゴラから貢ぎ物を受け取るよう言われたことを伝える。

 大きな紙袋を指さされた。


「本当にでかいな。

 ねこ1匹くらい、入りそうだ」

 アシュラは、その袋をくわえて歩き出す。


 境界までは、かなりの距離がある。

 2匹は、休み休み、少しずつ進んでいった。


 何度目かの休憩でアシュラが言った。

「俺は、もうすぐコミュニティの長になる。

 俺ほどのデカいねこは、他にいないからな。

 俺がリーダーになったら、クロ、俺の手下になれ。

 お前は一番の友達として、大事にしてやるからな」


 クロは何も答えない。

 クロにとってコミュニティでの地位は、どうでもいいものの一つだった。

 だが、アシュラなりの友情の表現なのだろう。

 断るのも、気が引けた。


「まあいい。

 考えといてくれよ」


 そう言って、アシュラはまた紙袋を咥えて歩き出した。

 下水路の横の通路を2匹並んで歩いている。




 数匹のねこ達が後をつけてくる。

 段々距離を詰めてきて、ついにアシュラとクロは囲まれた。


 アシュラは、ねこ達を振り切ろうと走り出した。

 ねこ達も走り出し、アシュラを取り囲む。


 突然、石つぶてが飛んでくる。

 アシュラの顔に直撃し、アシュラはたまらず、袋を落とす。


 ドサッ

「ニーニー」

 落ちた紙袋から、ねこの声がしたような気がする。


「お前ら、誰に喧嘩売っているのか分かっているのか?」

 そう言うとアシュラは、近くのねこに体当たりして、水路に落とした。

 ねこは泳げない。

 落とされたねこは、溺れて流されていく。


 そのまま勢いに乗って、他のねこも次々と水路に落としていく。

 ピュン

 また、石つぶてが飛んでくる。

 今度は、アシュラが際々で避けた。

「飛び道具は卑怯だぞ。

 出てこい!」


 水路脇の通路が一段高くなったところ、その柱の陰からトラねこが現れた。

 段差から飛び降りたトラねこに向かって、アシュラは走る。

 体当たりをしようとしたが、トラねこは体をひねって避けた。


「なかなか、やるじゃねえか」

 アシュラは、トラねこと追いかけっこを始めた。

 狭い通路に差し掛かったところで、トラねこは横に跳ねた。

 コンクリートの壁に足を着くと、三角跳びの要領でアシュラを水路に蹴り落した。


 バッシャーン

 体の大きなアシュラは、さっきまでのねこより大きな音を立てて流されていく。

「ち、畜生、ゴフッ」

 アシュラも泳げない。

 泡立つ水面で、もがきながら流されていく。

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