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前編

冬の童話祭2019参加作品です。

よろしくお願いします。

 昔昔、ある大きな森に立派な虹がかかりました。

 その虹はなんと逆さまで、珍しい虹がかかったその森はいつしか「逆さ虹の森」と呼ばれるようになりました。

 その逆さ虹の森の近くに木こりの家族が住んでいました。木こりの夫婦には男の子と女の子が一人ずつおり、男の子は兄でダムン、女の子は妹でケイティといいました。

 ケイティはいつも森の上にかかる逆さ虹にさわりたいと思っていました。

 逆さ虹は朝や夕方はお日さまよりも高いところにかかるので絶対にさわれません。でも昼間はお日さまより下、森のすぐ上にかかるので高い木のてっぺんまで登ればさわれそうに見えました。なのでケイティは毎日のように木登りをしていました。本当に毎日木登りをしているので兄のダムンよりも上手なぐらいでした。


「ケイティ、どんなに木に登れても虹にはさわれないよ」


 ケイティには兄の言葉が負け惜しみにしか聞こえませんでした。でも逆さ虹の円の部分がかかっているのは森の真ん中あたりで、そこまで一人で行くことはできません。お父さんもそこまで奥に入って木を切ることはありません。


「森にはいろんな動物がいるの。もしクマに遭ったら生きては帰れないよ」


 お母さんは毎日そう二人に言い聞かせるのでした。

 だからいくらケイティが虹にさわりたいと思っても付き合ってくれる人はいません。

 ケイティは毎日森の中で遊んではいますが、まだ怖いケモノに遭ったことがありませんでした。いたずら好きのリスが頭の上にどんぐりを落としてきたり、コマドリがキレイな声で歌っているところは見るのですが、その他の動物は森の奥にいるらしいので「クマ」がどんな生き物なのか知りませんでした。

 ケイティには知らないことばかりです。でもケイティは虹を伝って雲に乗ったらそこに天使がいることを知っていました。どうしてそれを知っているかって? 少し離れたところに住んでいるおばあちゃんにその話をしたら「うんうん、そうだね。ケイティは物知りだね」と言ってくれたからです。

 お父さんとお母さんは仕事が忙しくてあまりケイティの話は聞いてくれません。兄は「そんなわけないだろ」とケイティの話を否定するし、友だちも「そんな話聞いたことない」と言います。だから雲の上に天使が住んでいるのはおばあちゃんとケイティだけの秘密なのでした。でもおばあちゃんはけっこう年をとっていたのである年の冬、天に召されてしまいました。

 おばあちゃんはよくケイティに、人は死んだら天に昇って神さまや天使たちと一緒に暮らすのだと教えてくれていました。でもいっぱい悪いことをした人は反対に地の底へ行かなければならないそうです。おばあちゃんはとてもいい人だったのできっと天に昇ったに違いありません。

 ああもうおばあちゃんに会えないのねとケイティがはっきり自覚したのは、以前よりも高い木のてっぺんに上った時でした。木の幹に掴まって見えた逆さ虹はその日も鮮やかで、あれを伝って雲に上がったらおばあちゃんに会えるかもしれないとケイティは思いました。それからケイティはますます高い木に登るようになりました。

  とうとうケイティより木登りが上手な者は森の周辺の村ではいなくなってしまいました。でもケイティはそれを得意に思うわけでもなく、もっと高い木がないか探していました。お母さんはそんなケイティをとても心配していつもその姿を目で追っていました。

 ある時ケイティは友だちからこんな話を耳にしました。

 逆さ虹の森の奥深くによく澄んだキレイな池があり、その池にドングリを投げ込むとどんな願いでも叶うというのです。


「? 本当に誰か願いを叶えた人はいるのかな?」


 兄のダムンは首を傾げましたが、ケイティは目を輝かせました。彼女は森の奥の高い木に登るつもりではいましたが、最近はもし一番高い木に登っても虹に手が届かなかったらどうしようかと考えていたのです。ケイティは池がどこにあるのか友だちに尋ねましたが知っている子はいません。


「ケイティ、たぶんただの噂だよ」


 ダムンは納得がいかない顔のケイティにそう言ってなだめましたが、彼女はそうは思えませんでした。


(願いが叶うっていうのは噂かもしれないけど、森の奥に池があるのは本当なんじゃないかしら)


 ケイティは毎日のように高い木に登っていましたから、森のあちこちに木がないところがあるのを知っていました。その木が生えていないところに何があるのかまではわかりませんでしたが、そのどこかに池などの水場があるかもしれないとは思っていたのです。

 とはいえあてずっぽうで森の中へ入るのは危険です。ケイティは両親の友人の木こり仲間などに森の中の様子などをいっそう熱心に聞くようになりました。

 昔木こりをしていたというおじいさんが森の奥にある池の話をしてくれました。うろ覚えではありましたが池への道を教えてくれたので、ケイティは探しにいくことにしました。もしかしたら池は虹の膨らんだ部分の近くにあるのかもしれません。池の近くの木に登って虹にさわることができたら一石二鳥です。

 ケイティは両親に知られないようにこっそり準備をしました。背負い袋に上着や食べ物、飲み物などを用意して森から少し入った木の上に隠したりしました。

 そうして、準備が整い決行の日がきました。

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