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プロローグ2~走馬灯にみる過去~

走馬灯の内容。長いです。読まなくてもその後の話は通じるので、ネガティブになっている話を読みたくない方は回れ右をしてください(笑) 現実世界で、主人公が小説を書くようになるまでの社会人生活のお話。

これが走馬灯というものだろうか。

想像していたのは頭に光景が浮かぶといったものだったけれど、

実際は自分の過去を、俯瞰して見ているような感じだ。

残念だった頃の自分を客観的にみると、

恐ろしい程つらいものだなと思った。



大学を卒業して入社したのは、大手スーパーを抱える大企業だった。


昔から大好きだった調理をアピールして就活戦争に勝ち残ったからか、配属先の仕事は季節のお惣菜のメニューを考えるというものだった。


仕事はとても楽しくて、生きがいだと感じた。

最初のうちは。

いや、時間がたっても仕事自体は楽しかったのだ。

ただ少しずつどんどん苦しくなっていっただけ。



自分の同期には、調理関係の短大や専門学校卒の人が多かった。栄養について熟知しており、食べ合わせの良い食材については勿論、盛り付けの形、色合いについても学ぶらしい。


大学で文系の学科にいた自分とはスタートラインが違い過ぎると感じた。


なんとか自分の案を通したくて試行錯誤したけれど、

いつも何かが足りなく。

その何かは、あと一歩な気がするのに。

具体的に何なのか、そして打開にはどうしたらいいのかわからない。



いつの間にか、内容は通らないのに、

そのプレゼンだけが上手になっていき、

気づけば1年後、営業職に異動になったのだ。


プレゼン能力が買われたのだと

上司は言っていたけれど、

お仕事の花形じゃないかと

同期は言っていたけれど、

お前はここには不要だと

その目が語っているように見えてしまう。



なんとか新しい部署で、

気持ちを立てなおしたいと思った。

けれど、今までいた開発チームの考えた物を宣伝するために立ち回るのって、

なんだか自分だけみんなの使いっぱしりをしているみたいだ。


あちこちまわって棒のようになって浮腫んだ脚は、その心を溜め込んだみたいに重い。

そんなこんなで1ヶ月がたった頃、とうとう自炊する気力を失ってしまった。

調理をして楽しい気持ちも、一緒にどこかにいってしまったようだった。



しばらくはコンビニ弁当で過ごした。

お昼も、夜も。

最初のうちは「こんなのもあるんだ」なんて楽しめたけど。

2週間もしないうちに、どれも同じような味に感じて飽きてしまった。

じゃあ外食でもと思っても、心身ともに疲れきってしまって早く家に帰りたい。

帰宅したって入浴して寝るだけなのだけれど。



今日も終電近くでの帰宅だ。

遅い時間になって人も少なくなった帰り道で、

それならば果物でも買って帰って食べようと思いついた。

さっぱりしたもので、喉にも入っていきやすいだろうし。



ところが、その瞬間、まずいことに気づく。


この時間に開いていて帰路にあるスーパーは、自社のものだけだと。

もうわざわざ行きたくないと、ここ最近足が遠のいていたスーパーだ。

なんなら、この通りを通りたくなくて

時々遠回りまでしてまで避けていたいたスーパー。

少しずつ少しずつ入り口の明かりが近づいてくる。


そうして店の前について、やっぱりやめようと急いで通り過ぎようとした瞬間。

グーっとお腹が鳴った。

誰が見ていたわけでもないのに、酷く恥ずかしい。



なんだか、これで今お店に入らないのって逃げているみたいだ。

急にそう感じて、むりやり店内に入る。


果物売場は入ってすぐにある。

出始めだからか少しお値段は張ったけど旬のびわと、

つやっとした赤さが美味しそうだった林檎をカゴに入れてレジへ進む。


あと少しといったときだ。


小さな男の子が後ろから通路を凄い勢いでバタバタ走ってきた。

何事かと、つい目で追って、後悔した。

途中にあるお惣菜売場だけは、

逃げでもいいから目線に入れないようにしていたのに。

その子はお菓子売場でもなんでもなく、そこへ走って行ったのだ。


「ママー! 早くっ。あと2つしかないよー!!」


視線の先の母親を目に入れて、ついまゆをしかめる。

こんな深夜にスーパーに子どもをつれて来るなんて。

早く寝かせてあげなさいよなんて思いながら、

自分より随分若く見える母親を、こっそりと見た。


「よしっ、1個持っといでー!」

「えーっ、2つー!」

「そこのお姉さんが買うかもしれないでしょー!?」


そこのお姉さん……?


「そっかー…」


男の子は少しだけ残念な顔をしてから、

2つのお惣菜パックを両手で抱えて走り出した。

正しくは、走って、きた。


「はい!」

「え?」


目の前に差し出された、1つのお惣菜パック。


「これね、うまうまなんだよー!」


それは、私が営業していた季節のお惣菜パックだった。


「あのね、ぼくおやさいいやだけど

 これはうまうま!」

「こらっ、うまうまじゃわからないでしょ! 

 もうっ、すみませ~ん」



母親が早足で近寄ってきた。



「うまうま…。美味しいってことですよね。

 晩御飯ですか?」


男の子が、そうだよと言いながら

改めてお惣菜パックを差し出してくる。


「いちばんおいしいのは、からあげ!

 でもたまごもあまくて、うまうま!!」

「そっか。お姉さんは買わないから2つどうぞ?」

「え、いいの!?」


すると、嬉しそうにする男の子からお惣菜パックを奪った母親が、頭に軽くげんこつを落とした。


「いたっ」

「いつも1個までって言ってるでしょー!」

「いたかったから、もういっこ!」


そのやりとりがなんだか微笑ましくて、つい少し笑ってしまった。


「あ、やだ、本当にすみません。ほら、1個返して」


母親は男の子をうながしながら、行動を見守りつつ口にした。


「シングルマザーでやりくりしているから、こんな時間にお惣菜の晩御飯に頼っちゃうことがあって。恥ずかしいな」



そう頭をぽりぽりしながら話す彼女は、よく見れば若いながらもお母さんの強さと優しさがにじんでいるように見える。

そうか、自分のように仕事に疲れきった後にも、こうして子どもを守って生活しているんだ。

最初、勝手にまゆをしかめた自分の方こそ恥ずかしかった。


「でも、本当にここのお惣菜美味しいんですよ。食べたことありますか?」

「ええ、まあ」



自分で営業するのだし試食はするし、なにより前の部署に居た頃最後に担当した惣菜セットだ。


「栄養ばっちりで…」


知ってる。


「彩りも良くって…」


それも知ってる。

メニューやレシピには私の案は一つも入っていない、それ。


「でも、なによりやっぱりホッとするんです」

「え?」



冷め切った冷たいお惣菜に?

出来立てのタイミングで買わなければ、手作りのぬくもりなど感じられないだろうに。



「家族が用意してくれるお弁当のイメージに近いのかなって。

 素朴な味なんだけど、それぞれ味付けが違っていて。

 こっち食べたら、こっちも食べたくなって。

 こう、気づいたら全部うまうまだなーって」



うまうまーっ、とお母さんの横に来た子が繰り返す。

それじゃぁ、と頭を下げて去っていくおかあさんと、

バイバイと手を振る男の子をその場で見送りながら

しばらく動き出せない自分がいた。



――いつの間にか、所詮お惣菜だと思ってはいなかったか。

売れるにはキャッチーさが必要でしょうと、

今流行っている食材や調味料を提案してみた。

とにかく、売れることが全てだって。

それが間違っているわけじゃないけれど。

私は。

お惣菜を買ってくれる人のことじゃなくて。

いかに買ってもらうかということだけを考えていた。


料理の楽しみって、

それを食べた人の笑顔をみるためじゃなかっただろうか。



ふらりと、何故だか1つだけ残っているお惣菜パックを手に取り買い物カゴに入れた。

そのあと、お会計してから家につくまで、なんだか考えるのを拒否しているのか頭が空っぽになってしまって。

いつ部屋に電気をつけたか、覚えていない。

一人暮らしのテーブルの上には電子レンジの音に従って出したあたたかいお惣菜パックから、あたたかくて優しい香りがたちのぼってきている。

卵焼きをひとつ口にはこんだ。



ぽろり。

涙がこぼれた。


「あまくてうまうまー…」



優しい味に男の子の笑顔がうかんできて、涙が滝のように落ち始める。



同期の子達とスタート位置が違うと思ったなら、もっと勉強したらよかった。

栄養も、食べ合わせも、盛り付けも。

食べる人の笑顔のために、もっともっとやれることはあったはずなのに。


努力はしていたかもしれないけれど、もしかすると勝手に自分だけ悲劇ぶっていたかもしれない。

心が貧しくなっていたのだろう。


じゃあ、今の自分に出来ることは何か。

みんなを笑顔にするこのお惣菜を沢山並べてもらえるように宣伝することだ。

そのためには、心が豊かな人間でなくっちゃいけないと感じた。



それからは、営業への意識が変わった。

面倒なことでも、使いっぱしりでもなく、食べたいと思ってもらえる人に届けるのが自分の仕事だ。


このお惣菜に込められた想いを伝えるには、言葉は勿論だけれどつくり笑顔じゃだめだと思って、根本的に魅力的な笑顔になるためにと自分磨きをしようと決めた。

お惣菜の美味しさを思い出せば自然な笑顔になれるけど、でもここ最近はりついてしまった表情筋はわずかに言うことをきいていない気がするから。


といっても、若い女性の自分磨きといえばといった、エステとか習い事ってことじゃなくて。

まずは自分のために料理をすること。

それから、ひとつ、なんでもいいから自分の好きなことを最後までやりきる。

お惣菜開発で成し遂げられなかった、最後まで全力でやりきること。

ただの意地かもしれないけど、それは自分の自信につながる気がした。



でも、じゃあ、達成がわかりやすいことで、自分が好きなこととはなんだろうか。

お昼に営業先で手づくりのお握りと宣伝用のお惣菜を食べながら考える。



そうだ、小説だ!

読むのも好きだけど、ストーリーはいくつもあったまっているんだから!!



そうして、私の小説書きは始まったのだ。



……まあ、その小説もあと一歩というところで倒れてしまって書ききれていないわけだ。

またしても、最後までやりきれなかったのか。

少し残念な気持ちで、これで終えたらしい走馬灯を見下ろす。

周囲は少しずつ暗くなって、その奥に向かって自分の映像が小さく遠ざかっていく。



それでも、前向きになってからこの状態になれたのだから少しは良かったのかもしれない。

何も見えなくなって、とうとうこれで終焉かと思ったら、

最後にあの卵焼きが浮かんで。

軽く目をつぶって最後に呟いた。


「あまいたまご、うまうまー…。

 だけど。本当はしょうゆをかけるのが好み」

なんとなく触れておきたかったこと。こんなことがあったから、これからのストーリーで主人公はこう考えるんだなっていう。次話から、やっと異世界です(笑)

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