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プロローグ~現実世界から~

決して誰も近寄らない大陸の端に位置する、仄暗い森。

その中心部にぽっかり開いた大きな地面の亀裂からは、

悲鳴にも似た、か細い風の音が絶えず漏れ聴こえている。

一体誰が降りていくというのか、そこに用意された階段は木で出来た不安定なもので、

一段踏み出すたびに、古びた歯車が軋むような音が響く。

永遠に続くような絶望にも似た闇の中、ギィギィ、ガタリ、ガタリ…。



「……え。古びた歯車って、ガタリって音する?」



PCに打ち込まれた文章を見直していた彼女は、ふとスクロールする指を止めた。

これだからその場の流れで書いた内容はダメなのだと、ため息とともに、珈琲を一口。

それから机にひじをつき、顎に親指と人差し指を軽くあて思う。

――これはもう、全体的に書き直した方が良いのではないだろうか。



ここ最近、仕事から帰ってきて寝るまでの間に、

少しずつ少しずつ書き進めた小説だ。

物語を読むのは子どもの頃から大好きで、

自分でも色々とストーリーを考えたりもしていた。

しかし、実際に書いてみようと思ったのは

今回が初めてだった。

「自分が大好きなことを1つでもいいから

最後までやりきってみたい」

社会人2年目にして、そんなことを考えるようになったきっかけがあったのだ。



自分が大好きなファンタジーの世界をいざ文章化しようとすると、

思っていたよりずっと大変だった。

明確なイメージはあるはずなのに、

それを表現することが難しく悪戦苦闘。

けれど、そんななかでも、主人公や登場人物達は、

どんどん勝手に動いていってくれる。


気づけば終盤にまでストーリーは進んで、さあ、もうすぐ完成だという時になり、

なんだかこの小説を自分だけで楽しむのは勿体無いと感じるようになってきた。

人様にお見せするような文章では無いと思っていたけれど、

生まれたキャラクター達やストーリーを、一緒に楽しんでもらえたらと思った。



そんな中、たまたまSNSで流れてきた小説大賞のアイコンを見つけてしまったのだ。

ファンタジー作品の多い、自分が大好きな出版社のものだった。

ほんの少しだけ、そこまでは考えなくてもと思いもしたが、

「最後までやりきる」の区切りにもなるのではないかと思い立つ。



しかし、ここで問題が1つ。



今まで書き進めてきた小説は、

年齢制限が必要な内容だった。

例えば、負けん気の強い主人公が住む村が襲われて壊滅状態になるシーンでは、

かなりの残虐表現が入っている。


世界を平和にするためにと旅立った先で、仲間になるメンバーを含め

色々な人間や魔族と出会うのだが、そこに発生する恋愛内では

性に関するものが、きわどいどころか赤裸々に表現されていた。


魔王の周囲なんて、それはもう好みの見た目の少女をはべらして、色々ヤらせた。

もともと恋愛要素を強く入れた作品だからという言い訳のもと、

結局はエロだってなきゃねっていう、自分の好みの問題かもしれない。

間違いなくR18に分類されると思われる内容。



ところが、今回募集されていた小説は

R15までの作品だったのだ。



正直に言えば、かなり悩んだ。

この作品からエロや残虐表現を薄れさせたら、

自分の書きたい世界観からずれてしまわないかと。

けれど、いざ考え直すと

おおまかなストーリーや伝えたかった世界観には影響がないことに気づく。

ただただ、自分のお楽しみ要素がちょいと消えるだけだ。

むしろエロだけでもたせようとするページ数の多さにすら気づいてしまった。

自分が欲求不満だったのかとも思い、ずんと落ち込む。



というわけで、数日かけてかなりの部分をゆるめの表現に変えた。

そして、改めて最初から読み直し、

ラスト部分を完成させようとしているのが、

まさに今夜だった。

まぁ、完成させようにも冒頭部分の表現が気に入らなくて

手が止まったわけだけれども。



仕事で駆使してきた体はもうぼろぼろだったけれど、

明日は久しぶりの休日だ。

せっかく手直ししたい部分も見つけたし、

あと少しいじってから寝ようか。

そう思って、気になる部分を少しずつなおしていく。


すると、物語の中盤少し前あたり、

主人公が向かう魔族の領地で

魔王の新しい妾を探すパーティーが開かれる少し前のシーンに誤植を見つけた。


脇役だけれど、個人的に力を入れたキャラクターがパーティーの準備をしているシーン。

光の当たり方によって輝きが変わる白銀の髪を持つ、

冷めた表情をした魔族の少女が口にする台詞の中に、

誤植というか、その世界に存在しないであろう

日本の食品名が書かれていたのだ。

これはいけないと、なおそうとした、その時だった。



ズキン!!



急に激しい頭痛がきて、机にうずくまる。

体中にぐわんぐわんと不快感が渦巻いて、

吐き気もする気がするけど、感覚がつかめずどうしたら良いのかわからない。

右腕のどこかを何かにぶつけたと気づいたのは、

机上についた左ほほのすぐ横で珈琲がこぼれて机を伝うのが見えたからだ。



これは、ダメだ。

救急車をと思い、奥に置いて充電していたスマホになんとか腕を伸ばす。

しかし、指先がそこに到達することはなく、

キーボードの上にくずれ落ちた。



少しずつ擦れていく視線の先では、

落ちた指先がキーボードのDeleteボタンを押している。

――まって、どんどん文章が消えちゃう。



最後の力をふりしぼって指をずらした。

その間、どれくらいの文章が消えてしまったかはわからないけれど。

一周まわって冷静になったらしい頭は、

保存してあるデータを開きなおせば問題は無いことに気づく。



明日の朝、このまま目覚められるのだろうか。

もはや光を感じられなくなりただただ身体が重くなった頃。

家族のことや、社会人になってからの思い出が

ただただ思い出され始めた。



こういうの、走馬灯がっていうんだな。

そこで、プツリと彼女の意識は途絶えた。




初めまして、藤川結々(ふじかわゆゆ)と申します。三十路の主婦です。

主人公のモデルは自分ではありませんが、こうして小説サイトに小説を載せるのは初めてで、ドキドキしております。うおー。

読みにくさや長さなど、投稿ごとに確認しつつ、これから少しずつ調整していけたらと思っています。慣れるまで駄目だめなことも多いかもしれませんが、なまあたたかく見守っていただけますと嬉しいです。これから宜しくお願いいたします。

(あらすじで、これから4話分くらいのネタバレが起こっているのは内緒。笑

 恋愛内容に入るまでもう少々おまちください)

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