92.善人、マチルダに暖房機器の使い方を解説する【前編】
いつもお世話になってます!
子供たちがこたつの餌食になった1時間後。
俺はトイレ掃除をしに、孤児院2階へとやってきた。
孤児院のトイレは、基本女子トイレだ。
何せ孤児院の男1に対して、20数名、全員が女子なのだ。
必然的に女子トイレの割合が多くなる。
「さて……と」
俺はトイレ掃除をしようとした、そのときだ。
「きゃあああああああ!」
ばーん!
と、女子トイレの個室の1つの、ドアが開いたのだ。
「ちょっ、マチルダ!?」
出てきたのは元・受付嬢の少女、マチルダだ。
色素の薄い長い髪を、みつあみにしている。
着てるシャツとカーディガンが、ぱっつんぱっつになるほど、大きくて形のよい乳房が特徴的な少女だ。
その少女がトイレから出てきたのだ。
……ズボンとパンツを、膝のあたりまでズリ下げた状態で。
「ジロさん大変です! なんかっ、便座が、なんか大変です!」
マチルダはそのまま、俺に抱きついてくる。
一瞬ちらり……っと、髪の毛と同じ色の……いや、なんでもない。深く描写をするのはやめよう。
「ジロさん便座がなんかおかしいです! こわいです!」
ぎゅーっと、マチルダが俺に強く抱きついてくる。
ぐにょっ、と張りの良いおっぱいの感触が、俺の胸板にあたる。
「落ち着け。まずはその……下を履こうな」
「え?」
マチルダがポカン……と目を丸くする。
自分の状態に気付く。
ぽん……と手を打つと、
「すみません! すぐに履きますね」
まず彼女は、俺から離れると、後ろを向く。
ぷりんとした白いお尻を俺にむけながら、「よいしょー、よいしょー」と、ゆっくりとショーツをズリあげる。
「どうぞっ!」
「…………」
マチルダがショーツを履いた状態で、お尻をつん、と俺に向けてくる。
「どうぞ!」
「……マチルダ。何がどうぞなんだ?」
「どうぞおさわりください!」
「マチルダ……。仕事中」
俺は彼女の頭に、軽くチョップする。
「むぅ。ジロさんになら、セクハラされても良いのに。むしろ嬉しいのに~」
ぶつぶつ文句を言いながら、マチルダがチノパンをぐいっと着る。
「そう言ってくれるのは男として大変嬉しいが、時と場合を考えような」
「はーい……。でも、公私を混同しないジロさん、かっこよくって大好きです!」
ヒマワリのような明るい笑みを浮かべると、マチルダが俺の腕に抱きついてくる。
「それで、さっきはどうしたんだ? 急に飛び出してきて」
「あ、そうでした! トイレの便座が、何か変だったんです!」
俺はマチルダと一緒に、トイレの個室に入る。
「よいしょ」ガチャ。「ふぅ……」
入るなり、マチルダが個室の鍵を閉めた。
狭い部屋の中に、ふたりきりという状況である。
「マチルダ、なんで鍵を閉めたんだ?」
「万が一! 万が一の場合に備えて!」
……なんの場合を備えているのだろうか。
まあいい。
「ジロさん。この便座、前となんかちょっと違いますね。冷たくないというか」
「ああ。便座を交換したんだよ」
「ふむふむ。横のところにボタンがいっぱいついてますね」
ふーむ、とマチルダが俺に体を密着させながら言う。
部屋の中が狭いので、くっついてしまうのはしょうがないのだが。
「これは地球の製品で、特別な便座なんだ。中からシャワーが出たり、便座を暖める機能がついてるんだよ」
ようするにウォシュ○ットだ。
「便座が電気の力で温かくなるんだ」
「ジロさんがスキルで作ったんですね?」
俺は【複製】というスキルを持っている。
これは制限があるものの、あらゆる物体をコピーして再現することができる、という能力だ。
これを使えば、俺が前世で使っていた商品も、作ることができる。
ただし問題になってくるのは、たとえウォッシ○レットなどの電化製品を作ったとしても、家庭用電源がないと動かないということだ。
その問題の解決のため、俺は電化製品と、雷魔法とを【複製合成】する。
物体と魔法とを一緒に合成すると、物体に魔法が付与されるのだ。
結果、電化製品と雷魔法とを合成させることで、電源がなくとも動く家電ができた……という次第。
先ほどのこたつしかり、そしてエアコンしかり、こうして作ったのである。
「なるほど、だからお尻が温かかったんですね。では!」
「では?」
マチルダが喜々として、その場でズボンをズリ下げる。
「おいマチルダ」
「はい? あ、お気になさらず!」
「気にするって……」
俺は後ろを向いて、個室から出て行こうとする。
がしっ、とマチルダに腕を捕まれた。
「まだレクチャー終わってないです! このボタンとかってどう使うんですか?」
「……マチルダ。おまえわざとやってないか?」
「ハイ! わざとやってます! ジロさんにムラムラってしてもらいたいなー、と!」
……この子は無邪気にセクハラしてくるから、困ったものである。
一花と凄く気が合うんだよな、この子。
「便座を暖める機能は自動で発動するからボタンを押す必要は無い。そのシャワーのボタンを押すと、温水が出るんだ」
「なるほどなるほど……。どのボタンですかっ?」
……こ、この子は。
「右のところにあるだろ?」
「えー? わっかないです。どのボタンですか? こっち見て教えてください!」
きっと凄い笑顔なんだろうな。
俺は振り返って、なるべく彼女の下半身を見ないようにして、ボタンを指さす。
「これな」
「むぅ……。せっかくお手入れしてて、ジロさんに見せてもばっちりな状態なのに~」
……何の話なのかは、深く聞かないでおこう。
「マチルダ。ここを押すと便座の下からホースが伸びてきて、お尻に向かってお湯が出るんだ」
「こうですか。……ひゃっ、出ました! あったかいです!」
俺は素早く後ろを向く。
「なるほどこれ便利ですねっ! しかも冷たくなくて、気持ちいいです!」
「どういうシチュエーションで使うかは……まあ使っていけばわかるから口では言わないぞ」
「はいっ!」
俺は個室から出て行こうとする。
「あ、待ってジロさん待ってください!」
ガシッ……! と彼女が俺の腕をつかむ。
「どうした?」
「最近孤児院を冬用に改造したじゃないですか?」
「ああ。この国の冬は寒いからな。その対策としていくつか作ったぞ」
「それ、使い方わたし、何個かよくわからないのがあったので、教えてもらっても良いですか?」
職員たちには軽く、ウォシュレッ○をはじめとした地球製品の使い方は、教えた。
だが先日のコレットのように、現地人たちはその仕組みを良く理解してないようである。
「ああ、良いぞ」
「そうですか! えへへ、じゃあ少々お待ちください」
マチルダがそう言うと、手を……離してくれなかった。
「離して」「いやぁ、それはちょっと難しいですねぇ」「……聞かれちゃうんだけど」「むしろ聞いて欲しいんですけど!」
俺はマチルダの頭を軽くチョップ。
「おふざけはほどほどにな」
「えへへ。はいっ! わかりました!」
マチルダが手を離す。
俺は個室のドアを開けて、外に出た。
マチルダが用を足した後、俺は彼女と一緒にトイレ掃除をする。
床や便座を地球製品を使ってキレイにして、トイレ掃除終了。
「他のところ掃除しながらでもいいか?」
「どうぞ!」
こうして俺は、他のところを掃除しつつ、暖房機器について、レクチャーすることになったのだった。




