91.善人、暖房器具を導入する【後編】
コンが暖房を紹介したあと、みんなで軽食を取ることになった。
1階ホールにて。
ソファがいくつも並んでいるその場所に、ひとつ、背の低いテーブルが設置してある。
「にぃ……。これは……これはもしや……きんだんのあいてむか……?」
コンが俺を見上げて言う。
テーブルをピッ……としっぽで指しながら。
「ああ。おまえの想像通りだ」
テーブルには布団がかぶせてある。
その上に板をおいて、普遍的な【あれ】になっている。
「にぃ……。これはやばい。冬にこれをだすと……とんでもないことになるよ」
ごく……とコンが生唾を飲む。
「わかってるよ。けどみんなが温かい思いをしてくれた方が良いかなって思って」
「にぃ……ひどいおかた。みんなをとりこにして、駄目人間にするつもりだ。ひきこもりのひっきーにするつもりだ」
「冬くらいは良いじゃないか。動物はほら、寒いと冬眠するだろ」
「ま、そりゃそーか」
あっさり承諾するコン。
「おいコン! おにーちゃんとばかりはなすんじゃーねーです! ぼくもはなしてーだろ!」
「ら、ラビもにーさんとおしゃべりしたいのです……」
キャニスとラビが、コンを羨ましそうに見ていた。
「すまんね。にぃはみんなのものだった。ひとりじめしてめんご」
「あやまるひつよーはねーです。んで、コン。このテーブルはなんです?」
「おふとんかぶっているのです」
子供たちがそれを遠巻きにも見ている。
「ジロくんジロくん。これなーに?」
「ん。ああ……。コン、これが何だか、説明してあげなさい」
「いさいしょーち」
コンがててて、とテーブルの前に立つ。
「これは……【こたつ】!」
「「「こたつー?」」」
子供たちとコレットが、はて、と首をかしげる。
「とてもあたたかい。ましょーのアイテム」
コンが布団をぺろっとめくる。
「つかいかたはシンプル。なかにはいる。いじょー」
コンは布団をめくると、そのまま顔から、中へと入る。
にゅっ、と顔を出す。
「はふん。にぃ……だめぇ~……」
コンの顔が、とろんと蕩ける。
キツネ耳がぺちょっ、と垂れて、夢見心地の表情だ。
「ごくらく……。ここがでんごくだったか……」
「具合は?」
「よすぎてこわい」
どうやら上手く稼働しているようだ。
「お、おいコン! ぼくもはいっていいか、ですっ?」
こういうときに、物怖じしないで飛び込んでいくのが、うちの元気な犬娘だ。
「かもーん。てんごくまってるよ?」
「んじゃー……とうっ!」
キャニスは布団をめくると、頭からすっぽりと、中へと侵入した。
しばしの沈黙のあと。
「あったけぇ~……………………」
キャニスがスポッ……と顔だけ出す。
コン同様、犬耳がぺちょり、と垂れていた。
「これはとけるです……」
リーダーが気持ちよさそうにしているので、子供たちが次々と、こたつへと入ってく。
「はぅう……とけるのですぅ……」「とぉってもあったかいねー……ぇい」「あねきぃ~……。もうねむぃ~……」「ぐー……」
子供たちがくったり、と目を閉じて暖まっている。
「ジロくん。これとっても暖かいわね……」
コレットが俺の真横に座ると、こたつに足を入れる。
エルフ耳が、ぺちょ……っと、子供たち同様に垂れ下がっていた。
「足の方からじんわり温かくなる感じ……。これもジロくんの世界の便利アイテム?」
「ああ。暖房と並ぶ、日本の優秀な暖房機器だよ」
「はぁ~……。あったまるわぁー……。ジロくんに抱きしめられてるときみたい」
うふふふ、とコレットが幸せそうな顔で言う。
「光栄だ。かわいい嫁さんからそう言われて、すげえ嬉しいよ」
よしよし、とコレットの頭を撫でる。
彼女は目を細めて、ふにゃっと笑って、頭を肩に乗せてきた。
「って、おーいみんな。コレットが持ってきたお茶が冷めちゃうぞ」
テーブルの上には、湯飲みが人数分載っている。
だが子供たちは、亀のポーズのまま、こたつから出ようとしない。
「おにーちゃん……。あとでいいです……」
キャニスがそう言うと、子供たちが自分も自分も、と主張し出す。
「はいよ。了解だ」
俺はコレットの入れてくれたお茶で、軽食のおにぎりをつまむ。
炊きたてのあったかいご飯に、ぱりぱりとした味海苔が実にあう。
塩ふって梅干しが入ってるだけの、シンプルなおにぎりだが、労働の後ということもあり、実に上手い。
コレットの入れてくれた緑茶がまた、米に会う。
「おにーちゃん!」
ぺんぺん、とキャニスが自分の隣を叩く。
「どうした?」
「すわれや、です!」
「はいよ」
俺はキャニスの隣へと腰掛ける。
犬娘はもいったんこたつの中へ引っ込む。
にゅっ、と俺の膝の上から、顔出してきた。
そしてくるり、と向きを変えて、俺の膝の上にのっかる。
「ぼくにもおにぎりとってくれや、です!」
おにぎりの載ったお皿は、テーブル中央に置いてある。
幼女の手では届かない……わけではないが。
しかしキャニスは、自分から動こうとしない。
「こーらキャニス。自分で取れるでしょう?」
「なんだかとっても、うごきたくねーです……」
キャニスがお風呂に浸かっているような、幸せそうな表情で言う。
「キャニス。こたつのまのてにおちたな……」
コンが亀ポーズのママ、きらん、と訳知り顔で言う。
コレットがコンを見下ろして言う。
「コン。こたつの魔の手って?」
「まみーもこのたいせーをすればわかるよ。やってみそ」
コレットはもそもそ……とこたつの中へと入る。
その間、俺はキャニスにおにぎりを食べさせた。
俺の指についている米を、犬娘がぺろぺろとなめてきて、くすぐったい。
ややあって、コレットが子供たち同様、亀ポーズを取る。
布団から顔だけ出したたいせいとなるコレット。
「どうかね、まみー?」
「…………」
コレットが真剣な表情で、考え込む。
「ジロくん。大変です!」
「どうした、コレット?」
膝の上でキャニスがうとうとしている。
俺は犬娘の頭を撫でると、気持ちよさそうにほおずりして返してきた。
「こたつから……でれなくなりました!」
コレットの声が、テーブルの向こう側から聞こえてくる。
「たいへん! 仕事がまだたくさんあるのに! 動けないわ!」
「まみー。それだよ。それがこたつさんの、まりょくさ」
「くっ……! これは大変よ! みんな早くでないと! こたつから一生でれなくなるわ!」
しかし誰1人として、こたつからでようとしない。
「はぅう……。うごけないのですぅ~……」
「こたつあったかすぎてー……ぇ。ねむくなるねー……ぇい」
姉がそう言う。
妹はすでにウトウトしていた。
姉の肩に、アカネが頭をのっけている。姉は嫌がるそぶりをいっさいみせず、よしよしと頭を撫でていた。
「ジロくん助けて~。でれないの~」
「はいよ」
俺はキャニスを膝から下ろす。
「あー! いくなや、です!」
「すまん、コレットを救出しないと行けないんだ」
「ん。ならしかたねーです」
俺はこたつからでると、コレットの前に移動。
「ほら、コレット。仕事するぞー」
「あーん。ジロくん引っ張って~。でれないよ~」
「いやでれるだろ……」
「自分の力じゃ無理!」
俺はエルフ嫁の手をつかんで、よいしょと引っ張る。
「うう……寒い! 寒いわジロくん!」
こたつからでたコレットが、ぶるる……と体を震わせる。
「まみー。それよ。それがこたつのデメリット。そとがいっそうさむくかんじる。そしてこたつからでれなくなるのだ」
コンの解説を聞いて、コレットがごくり……と息をのむ。
「なんて恐ろしいアイテムなの……こたつ!」
コレットが目を剥いて言う。
「ほら、仕事行くぞ」
「あーん、寒いよジロくん。暖めて!」
コレットが両手を俺に伸ばしてくる。
「ワガママ言わない」
「風邪引いたら大変でしょ!」
「いやまあ……そうだな」
俺はコレットを正面からハグする。
胸板に乳房がつぶされて、ぐにゃりとひしゃげる。
「ひゅー、みせつけてくるね、ごりょうにん」
コンがはやし立ててくる。
「ほら、子供たちが見てるから。いくぞ」
ハグを解いて、俺はコレットの手を引く。
「あーん。こたつ~……。ジロくん~……」
涙目のコレットを連れて、その場を去る。
「みんな、寝ないようにな」
「「「はーい……」」」
しかし案の定、10分後には、みんな眠っていた。
風邪を引いちゃ困るので、子供たちをコレットと手分けして、子供部屋へと運んだのだった。
おつかれ様です。
今日から12章突入となります。
冬の日の様子を、いつも通り描いていこうと思います。
次回もよろしくお願いいたします!




