91.善人、暖房器具を導入する【前編】
いつもお世話になってます!
コレットたちと酒を飲んだ翌日。
その日は朝早くから、大人たち総出で、予め準備していたブツを色々と運んだり設置したりした。
ひとりでやると手間だし、時間がかかっただろう。
だが今は職員は俺を含めて5人。
臨時職員が4人。
そして作業を手伝ってくれる、銀鳳の槌(クゥのところの大工たち)がいる。
人手が十分すぎるほど足りているので、作業は実にスムーズに進んだ。
6時から初めて、今は9時。
3時間かけて、設置や調整が完了した。
まあ結構前から、念入りに打ち合わせと、デモンストレーションを行っていたので、本当にスムーズに作業が終わった。
ちなみに子供たちには朝食後、すぐに外で遊んでもらっていた。
マチルダとアムが対応してくれた。
「よし、完成。みんな協力ありがとう」
その場に集まっていたメンバーたちは解散。
俺は1階のホールにて、ふぅ……っと吐息をはく。
「お疲れジロくんっ」
コレットが近づいてきて、背後から俺に抱きついてきた。
ぐにょり、と柔らかな乳房が背中に当たる。
さっきまで作業をしていたからだろう、汗でしっとりと濡れていた。
髪の毛からとてつもなく甘い香りがただよってくる。
甘酸っぱいのは、汗のにおいだろうか。
「お風呂にする? それともご飯? それともわ・た・し? きゃっ」
「ああ、じゃあご飯にしようかな。軽くつまめるやつ作ってくれ」
「……ワカタヨ~」
はふん、とコレットが残念そうにため息をつくと、食堂へと歩き去って行った。
「シツテタ。仕事中。ジロクン。マジメ。シツテタ」
とかなんとか、ぶつぶつコレットがつぶやいていた。
すまん、今は仕事中なんだ。許してくれ。
俺はコレットが来るまで、ソファに座ってまとうと思った……そのときだ。
ガラッ……!
と孤児院の窓ガラスが開いた。
びょおぉおお……と木枯らしが室内に吹きすさぶ。
「さみー!」「さみしんぐえるすー」「あう……こごえちゃいそーなのです~」
孤児院の子供たちが、さむさむと肌をさすりながら、部屋の中に入ってきた。
「大丈夫か? 風邪引かないうちに、早く入りな」
「「「はーい!」」」
子供たちが元気よく部屋の中に入ってくる。
窓ガラスを俺が閉める。
「はえぇー……。なんだこれ……。めっちゃあったけーですぅ……」
犬娘キャニスが、部屋に入ってくるなり、そのしっぽをぺちょん、と垂らす。
「おそととちがってぽっかぽかなのです!」
「ここだけなつになってるみたいだー……ぁ。ふしぎだー……ぁね」
「な。へんだよなあねき」
ううーん、と子供たちが、部屋の中が温かいことに、疑問を思っている。
「ふふふ、みなのしゅー。まだきづいておらぬようだね」
きらん、とどや顔になるのは……キツネ娘のコンだ。
コンはソファにひょいっと乗っかる。
「でるのかっ!」「ものしりコンちゃんのでばんなのです!」
子供たちが、コンの元へと集まる。
「にぃ、みーがせつめーしてよい?」
銀髪のキツネ娘が、俺を見て聞いてくる。
「ああ。頼むよ。いつもありがとな」
「ふふ。みーはにぃのみぎうでですからね。てつだうのはとーぜんですよ」
どんっ、とコンが自分の胸を叩く。
任せろ、ということだろう。
なら俺は、余計な口を挟まない。
子供たちには、子供たちの世界があるからな。
「ではまずひとつずつ。みなのしゅー、うえをごらんください」
コンがピッ……! と右斜め上を、しっぽで指す。
「おいコン。ありゃクーラーです」
「クーラーさんがどうしたのです?」
犬娘とウサギ娘が、首をかしげる。
「たしかー……ぁ。熱いときにつかうやつだよー……ぉね」
「夏におおだすかりだったぜ」
赤鬼幼女の姉と妹がうなずく。
「クーラーくんは、ばんのーなのさ。さむいときにも、やくにたつのだよ」
「「「うそだぁー!」」」
子供たちが信じてないようだ。
「コン。おめーがおしえてくれたんだろ。あついときにつめてーかぜをだすのが、クーラーくんだって」
「まあまてまてキャニスくん。にぃ、りもこんぷりーず」
コンが俺に手を向けてくる。
壁に掛けてあったリモコンを取ってきて、コンに手渡す。
「ほら」
「てんきゅー」
コンがリモコンを両手でつかむと、ソファから降りて、クーラーの元へ行く。
子供たちがその後に続く。
「では代表として……ラビくん。まえへ」
「は、はいなのですっ!」
ちょこちょこ……とラビがコンの隣へやってくる。
「きみにクーラーくんの真の実力をおひろめする、スイッチおすかかりににんめーしよう」
「わわ、らびで良いのです?」
すると背後で、「がんばれラビ!」「らびちゃんがんばってー……ぇ」と他の子たちから応援されるラビ。
「なにごともけいけんさ。ボタンをぽちっとおすだけよ。いーじーいーじー」
ラビの持つリモコンを、コンがしっぽで指す。
「えっとえと……。てりゃー」
ラビが電源ボタンをオンにする。
すると……。
ぶぉおおおお…………。
と、さっきリモコンを取りに行くとき、電源を消しておいたのだが、電源がオンになって、また動き出す。
「!」
最初に反応したのは、キャニスだった。
茶色い犬耳が、ぴーんっ! と立つ。
「お、おいコン! な、なんかあったけー風が、ふいてやがるです!」
「ほ、ほんとなのです!」
獣人たちの耳が、暖房からの温風によってなびく。
「ぽかぽかだねー……ぇ」
「外寒かったから、めっちゃあったかくかんじるぜ……」
はぁー……と子供たちが、気持ちよさそうに吐息をはく。
「ふふ。これがクーラーくん、冬の姿。そのなも……ダンボーくん!」
「「「ダンボー!」」」
「ちなみにだんぼーるのろぼっととは、べつろぼっとだよ」
「「「?」」」
「わかるひとだけわかればよい」
ふっ……とコンがニヒルに笑う。
「おいコン。ダンボーすげえな! あったけーかぜでるんだな!」
「いえーす。これをつくったのは、みなのしゅー、わかってるね?」
コンに言われて、子供たちがいっせいに、俺を見やる。
「おいおいおにーちゃん! またとんでもねーもんつくってんじゃねーです!」
キャニスが勢いよくジャンプして、俺に抱きついてくる。
「これがあればねるときもーさむくねーです!」
にかーっと笑って、キャニスが俺の胸にほおずりしてくる。
ピンととがった犬耳が、顔に触れてくすぐったい。
「とくにふゆはさむさむだからね。きょねんのふゆは、どえりゃーさむかったよ」
にゅっ、といつの間にかコンが、俺の肩に乗っかっていた。
「にぃ、ふぁいんぷれー」
「ありがとな。みんなが心地よく眠れるように、色々まだ作ってあるぞ」
「ほほう、それはたのしみですね」
きらん、とコンが目を光らせて、俺の首筋に鼻をくっつける。
「すんすん。すんすこ。うーむ。にぃはきょうも良き香り。まんてん」
「ありがとな」
すると……。
「あらジロくん。今日もモテモテさんね」
コレットが食堂から帰ってくる。
その手にはお盆が載っていて、おにぎりと温かいお茶が載っていた。
「あー! おにーちゃんだけおにぎりずっりー!」
キャニスがぐぅううう……とお腹を鳴らして言う。
「ぼくにもよこせやです!」
「キャニス。ジロくんは朝から何も食べずにお仕事してたのよ。だからこれはジロくんの」
「あー、そっかぁー……」「あんちゃんせかせかうごいてたもんねー……ぇい」
いつの間にか鬼姉妹も、俺の足にしがみついている。ラビもいた。
「はらへったです~……」
「だと思って、みんなの分のおにぎりも作ってあるのよ。食べる人!」
「「「はーい!」」」
その場にいる全員が返事をしたのだった。




