87.善人、エルフ嫁と宿で一泊する【前編】
いつもお世話になってます!
俺とコレットは、非番で、カミィーナの町へデートに来ていた。
オープンカフェでランチを食ったあと、色々と店を見て回る。
昔の知り合いと顔を合わせたりしていると、夕方になった。
今日予約している宿へと向かう。
一泊して明日の朝帰る予定なのだ。
「ほほう、よさげな宿屋さんですね」
「俺が冒険者時代によく使った宿なんだ」
「なるほど。思い出の地なんだね」
コレットが宿屋を、ぱしゃぱしゃ、とスマホで写メ撮っていた。
さっそく共有パソコンに写真を送っている。
「活用しているなー」
「みんなジロくんのこと、知りたがってるからね」
「そういうもんかね」
宿にチェックイン。
もちろん夫婦なので同じ部屋を取った。
久しぶりに会う宿屋の店主にあいさつする。
無愛想な親父だが、俺のことを覚えていてくれた。
少しばかり近況を話し合い、俺たちは取った部屋へと向かう。
部屋に入ると、ダブルベッドだった。「おい」「あら、良いじゃないっ」
宿屋の親父……。
気を利かせたのかなんなのか、でかいフカフカのベッドを用意していた。
「こっちの方が広く使えるじゃない? ね、ジロくんっ」
コレットがベッドに乗っかり、子供のようにぽすんぽすん、とジャンプする。
「使えるって何だ?」
「む、ジロくんや。せっかくふたりきりでお泊まりするんだよ。じっくりお楽しみしようぜい」
ああ、そういう……。
「それとも嫌?」
ベッドに腰掛けて、コレットが不安げに、俺を見上げてくる。
「まさか。そんなわけないだろ?」
俺は彼女の隣に座る。
彼女の肩を抱いて、唇を交わす。
「ご飯前にしちゃう?」
「ご飯食ってからな」
「先生! 待ちきれないときはどうすればいいでしょうかっ」
「我慢してくれ」
「なるほど。それでは自分の手で」「やめてね」「はーい」
荷物を置いて、俺たちは宿の食堂へと向かった。
食堂には結構な人がいる。
だが、コレットは平気そうだ。
町へ来た当初は、びくびくとしていたのだが。
町を歩いたことで、人になれたのだろう。 良い傾向だ。
俺たちは端っこの席に座る。
テーブルの上には、シチューやパンといった、オーソドックスな料理が並ぶ。
「わぁっ、美味しそう!」
「ああ。美味いんだぞ」
ぱしゃぱしゃ、とコレットがスマホで写真を撮っている。
なんか現代日本にいる気分がするな。
「写真撮り終えたか?」
「ちょっとまって! いま撮った写真アップロードするからっ」
「本当に地球にいるみたいだ」
コレットが写真を、指でしゅしゅっ、と
弾く。
孤児院の共有パソコンに、写真が送られているのだろう。
ピコンッ♪
と俺のスマホが鳴る。
見やると、マチルダからのメールだった
【ジロさんいいなぁ。今度はわたしとデートしてくださいね!】
その後も子供たちや、他の恋人たちからメールが来る。
その全てに返事を書き終えて、吐息をつく。
「メール書き終えた?」
「ああ。待たせてスマン。じゃ、食べるか」
「うんっ!」
俺たちは食事を取ることにした。
まずはシチューから食べる。
こってりと濃厚なスープ。チーズの酸味と甘みが口の中に広がる。
よく煮込んだとろとろの鶏肉と野菜。
「美味いな、このシチュー」
「うん……。美味い……」
コレットが真剣な表情で、シチューを凝視する。
ポケットからスマホを取り出す。
「むむむ……美味しすぎる。これはコンソメをベースにしてるのかしら。あ、鶏肉の方はあらかじめボイルしてるのかも……」
「何してるんだ?」
「静かに! いま分析してるの」
「分析?」
どうやらこのシチューの味を、孤児院でも再現しようと、分析の最中らしかった。
スマホのメモ帳アプリを使って、分析した結果を書き込んでいるのだそうだ。
「なるほど……。勉強熱心だなコレットは」
「んー、勉強ってほどじゃないわ。好きでやってることだし」
子供たちが喜んでくれるから、頑張ると。
そしてその努力を、努力と思ってないみたいだ、この子は。
「やっぱ凄いよ、コレットは」
「やだそんな、ジロくんってばもうっ。お褒め上手なんだからっ」
コレットのエルフ耳が、ぴこぴこと動き出す。
実に可愛らしい。
「いやいや本心だって。心から俺はコレットが俺の嫁さんでよかったって思っているよ」
ぴこぴこぴこっ。
「優しくて料理上手できれいでかわいい。うん、俺には本当にもったいないくらいの、良い嫁さんだ」
ぴこぴこぱたたたたたたっ!!
コレットの機嫌に同期するように、エルフ耳が動く。
それがとても愛らしく、そしてちょっと面白かった。
「じ、ジロくんってばもう……やだもうっ! 恥ずかしいからそれ以上先生をほめないでっ!」
コレットは顔の前で手をクロスさせる。
耳は先っぽまで真っ赤だった。
耳はさっきからせわしなく動いている。
「コレットはかわいいな」
「むぅ~……。ジロくんもしかしてからかっていた?」
「いや、そんなことないよ。さっきのセリフは本心な」
「そ、そっか」
「まあちょっとからかってたのは否めないがな」
「やっぱり! もうっ、もうっ、ジロくんいじわるっ」
そんなふうに和やかに食事を楽しむ。
食後。
ワインが運ばれてきた。
グラスになみなみと注がれる、葡萄酒。
「そう言えばコレットって、酒はどうなんだ?」
この子が酒を飲んでいるところを、おれは見たことがなかった。
「あんまり……というか、ほとんど飲まないわね。ジロくんが来るまで経済状況かつかつで」
「そっか。余計なことに金を使えなかったのか」
「うん。だからお酒はあんまり。というか初めてかも」
コレットはグラスを手にとって、興味深そうに、小さな鼻をすんすん動かす。
「初めてならやめておくか?」
「ううん。何ごともチャレンジだよっ!」
そう言って、コレットはグラスワインを持ち上げる。
「ジロくんジロくん。あれやりたい。チン……ってやつ!」
「ああ、良いぞ」
俺は自分のグラスを持ち上げる。
彼女のグラスと、グラスとを付き合わせる。
チン……っと、ガラス同士が、小さく衝突する。
「なんだかセレブみたい」
「そうか?」
「そうだよそうだよっ。では一口……」
コレットはグラスを口につける。
コクコク……と小さなのどが動く。
「ぷはぁ……。え、すごい。美味しい!」
コレットが頬を赤らめながら言う。
「お酒って初めて飲んだんだけど、とっても美味しいのねっ」
嬉しそうに、コレットがワインをこくこく飲んでいく。
だいぶペースが速かった。
俺が飲み終える前に、すでにグラスは空になっていた。
「すみませんっ! おかわりくださーい」
「コレット。あんまり飲み過ぎるなよ」
「わかってるわ。もう、ジロくんは心配性ですな」
その後コレットは、2杯目もすぐにからにしてしまう。
「うふ、うふふふふ……おいしいわねぇ、これぇ……」
顔が真っ赤で、目が潤んでいる。
首がくわんくわんと動いていて、定まってなかった。
「コレット……言わんこっちゃない」
俺は水を注文。
ややあって、ウェイターさんが水を持ってくる。
「ほらコレット。水だ。飲んどけ」
「ん? んー……。ジロくんお水もってきてくれたんだぁ……。えらいわねぇー……」
蕩けた表情で、コレットが微笑む。
酔ってるなこの子。
「ほら、コレット飲めるか?」
俺はコレットにグラスを差し出す。
「飲めるよぉー……」
コレットはグラスを受け取って、口に運ぶ。
だばぁー……。
と、胸元に水を全部こぼしていた。
「コレット……。もう、大丈夫か?」
俺は立ち上がり、彼女の側に近づく。
ハンカチでコレットの胸元を拭いてやる。
「あらジロくん。ハンカチなんてもってたの? えらいえらい……」
酔ったコレットが、俺の頭をよしよしと撫でてくる。
「水こぼしたから拭いてくれてるね。偉いわジロくん。偉い子偉い子。うふふふふ」
どうやら酔って、昔を思い出してるみたいだ。
俺が子供で、これっとが先生だった頃を思い出してるのだろう。
胸元をふいて、俺はコレットに肩を貸し立ち上がる。
「ほら、部屋に戻るぞ」
「ジロくん。大丈夫よ。先生はひとりで歩けますから……」
とは言うものの、コレットは、ふらふら、と足下が定まってなかった。
「全然大丈夫じゃないだろ。ほら、行こうか」
「ジロくんは女の子のエスコートができて、えらいわねぇー……」
うふふ、うふふ……っと先生モードのまま微笑んでいる。
俺は会計を済ませて、食堂を出た。
階段を上って自分たちの部屋に戻る。
コレットをベッドに横たわらせる。
「ふぅ……。ふぅ……。はふ……。ん……」
コレットは蕩けた表情で、視線をきょろきょろとさせている。
「ジロくぅ~ん……」
「コレット。ほら、部屋着に着替えような。服濡れてるぞ」
「んー……? んー……」
すでに眠たいのか、コレットが生返事をする。
「ほら、コレット」
俺はコレットの隣に座る。
「服置いておくぞ。着替えられるか?」
「んぅー……。無理ぃー……。先生もうねむいぃ~……」
「風邪引くってば」
俺はコレットの体を起こす。
そして肩を揺する。
「ほら、起きてくれって」
「んー……。んっ」
と、そのときだ。
コレットが俺の肩に手をかけて、そのまま押し倒してきたのだ。
「コレット?」
「じーろくんっ」
潤んだ目で、コレットが俺を見下ろしてくる。
「せっかくお着替えするんだもん。なら……その前に……ね?」
コレットがのそのそ……とニットのセーターを脱ぐ。
ぷるん、とその大きな、そして白い乳房がまろびでる。
そして俺の体に、覆い被さるようにして、唇を重ねてくる。
「んっ……」
赤ワインの、苦い味が口の中に広がる。
だがその次に、彼女の甘い唾液が、そこに混じってくる。
俺はコレットの柔らかい体を抱きしめる。
そしてお互いに服を脱いだのだった。




