86.善人、エルフ嫁と町でデートする【後編】
休日、コレットと町にデートしに来た。
カミィーナの町はよく知ってる場所。
なので俺は、色々とコレットに案内しながら、町を見て回った。
カミィーナは辺境だが、近くにダンジョンが多いため、冒険者が多く集う。
人が集まれば物も集まる。
なのでここは、辺境であっても、人で賑わっているのである。
「人がたっくさんいるわねぇ」
手をつなぎながら、俺たちは歩く。
いくつか店を回りながら、町をぶらぶらと。
コレットが周りを見渡しながら、感心したように言う。
「休日の昼間だからな」
「ふむふむ。あ、ダメだよジロくん。迷子になっちゃうから、ちゃんと手をつないでないと。離ればなれになったら大変ですからね」
コレットが昔のクセで、先生口調で言う。
この人はもともと、医者をしていた。
俺の実家があるキソィナの町で、診療医だったのだ。
そこで俺は彼女とで会い、彼女から多くのことを学んだ。
教訓。スキルの使い方。などなど……。
今の俺があるのは、先生がいたからなんだよな、としみじみ思う。
「ジロくん? 聞いてる」
「ん。聞いてるよ」
「じゃあ先生はなんて言っていたでしょうか?」
「う……。すまん」
「やれやれ、上の空かー。孤児院に残してきた、かわいい嫁と恋人のことが気になるのかなっ? きになるんかっ?」
「違うよ。今はコレット、おまえのことしか考えてない」
「ふふっ。ありがとうっ。ジロくん大好きっ!」
ぎゅーっ、とコレットが俺に強くハグする。
「そろそろお昼ご飯の時間だな。どっか食堂でも入るか?」
「ん~。それより私、おーぷんかふぇ? ってのに行ってみたいかなっ」
コレットがバッグから、観光案内のかかれた羊皮紙を取り出す。
そこには町の地図が書いてある。
「良いよ。どの店だ?」
「ここ?」
「……ああ、ここな。ここなら場所わかるぞ」
「じゃあ案内よろしくっ!」
俺はコレットを連れて、人混みを歩く。
彼女が行きたがっていた店は、場所は知っていたが、入ったことのない店だった。
ややあって、店に到着。
真っ白な建物で、そとにウッドデッキがあって、そこにガラスのテーブルが並んでいる。
テーブルの上にはパラソルが置いてあって、実におしゃれだ。
「おしゃれだな」「おしゃれよねー」
コレットが喜々として、スマホを取り出す。
ぱしゃぱしゃ、とカフェの写真を撮る。
画面の写真を指で押して、しゅっ、とスライドさせる。
「さっそく写真を共有してるのか?」
「うんっ。子供たちやアムたちにも、見せてあげたいんだっ」
俺たちはテーブルの前に腰を下ろす。
ウェイターが注文を取りに来た。
俺はランチセットとコーヒー。
コレットはパンケーキに紅茶。
「パンケーキに紅茶って。それで足りるのか?」
「ジロくん……。わかってないなぁ」
彼女が首を振るう。
「ここはね、パンケーキが有名な喫茶店なの。だからパンケーキを食べる。おーけー?」
「そうなんだ。それはどこ情報なんだ?」
「クゥちゃんの発信しているめぇるまがじん? ってやつに載ってたの」
コレットはそう言うと、俺にスマホを見せてくる。
画面にはクゥ、というより、銀鳳商会から発信されているメールがあった。
そこには町の情報や、セールの情報などが書いてあった。
「なるほど。メールマガジンだな」
あいつメール機能、ちゃんと活用してるようだ。
こんなふうにメールにして情報発信すれば、雑誌などのコストを使わずとも、情報の発信ができる。
そこをあの子は、地球人が言わずとも、自分で思いついて、実行に移していた。
「いやはやたいしたやつだよ、あの子は」
ちなみにスマホは、銀鳳商会が今売りに出そうと準備してる。
メルマガも、これはお試しとして、俺をはじめとした、関係者に発信しているだけだ。
まだまだこの世界でスマホを売るには、必要となるハードルが多い。
だがあの敏腕商人のことだ。
きっとあっという間に、この世界にスマホを広めていくだろう。
ここでもまた、スマホが世界中に普及する未来が来る……かもしれない。
そうこうしていると、ウェイターが注文した物を持ってくる。
「お待たせしました。こちらランチと、パンケーキになっております」
俺の目の前には、クラブハウスサンドとポテト。サラダにスープ。ドリンクのコーヒー。
そしてコレットの前には、でっかいパンケーキが置いてあった。
「これねっ、山盛りパンケーキ!」
パンケーキが五段つんである。
ケーキとケーキの間には、クリームがたっぷりとかかっている。
そして上にはアイスクリームと、たっぷりの蜂蜜がかかっていた。
……おそらく銀鳳商会から買った品々だろうな、この原料。
「うわさどおりのすごいパンケーキねっ」
興奮気味にコレットがいう。
ぱしゃぱしゃ、とスマホで写真を撮りまくっていた。
「胸やけしそうだな、これ」
「そう? 普通じゃない?」
女子はスイーツ好きなんだな、と思った。
その後俺たちは、出された料理を食べていく。
コレットは喜々として、パンケーキを1段、2段……と腹に収めていく。
「ん~~~~~~~♪」
ケーキをほおばるたび、コレットの耳が、蜂のようにぱたたたたたっ、と羽ばたく。
「コレットさんや。美味そうですね」
「おっとジロさくんさんや。羨ましいのかな?」
ふふっ、とコレットが微笑む。
「ああ。うちの嫁が美味そうに食ってるからな。俺も食べたくなった。ひとくちくれないか?」
「ふふっ、良いわよ。もっちろん」
コレットが喜々として、ナイフでパンケーキを切り分ける。
「あー、すみません。とりわける用の皿を……」
ウェイターに頼もうと思った、そのときだ。
「ジロくん、必要ないわっ」
コレットが嬉しそうにそう言うと、フォークでケーキを刺す。
それを、俺に向けてくる。
「はいっ♪」
「…………」
「はいっ♪」
「いやあの、コレットさん?」
ニコニコしながら、コレットがフォークを向けている。
「なになにジロくん?」
「これってあれか? あーん、って食べさせようとしてるのか?」
「ほかにどう見えるとゆーのかね?」
「いやまあそうだな……」
しかし……と俺は周りを見渡す。
ここはオープンカフェだ。
昼時。かなり店内には、人がいる。
みんな俺たちを……というか、コレットを注目していた。
当然だよな。
美しいエルフの少女が、座っているのだから。
美人がいれば、つい目がいってしまうだろう。
そんな注目を浴びている状態で、あーん、をする……だと?
「ジロくん。羞恥心はゴミ箱へポイしなさいっ♪」
「……おっけー。わかったよ、コレット」
嫁がそうすることを望んでいるのだ。
それに答えるのが、夫という物だ。
なによりコレットが楽しそうにしている。 俺にとっては、それが最優先だ。
羞恥心? ゴミ箱に捨ててやるさ。
「あーんっ♪」
「あ、あーん……」
人に見られながら、俺はコレットから差し出された、パンケーキを食する。
甘い。
蜂蜜とクリーム、そしてアイスとがとけあって、すごい甘い。
しかもパンケーキが焼きたてなのだろう。
焼きたてでちょっと熱いパン生地に、アイスの冷たさはベストマッチしていた。
「どう?」
「めちゃくちゃ甘いな。けど……美味いな」
「♪」
コレットがまた、あーんしてくる。
それを数回繰り返した。
「ジロくんジロくん」
「なんだ?」
コレットがフォークを、手渡してくる。
にこーっと笑いながら、自分をちょんちょん、と指さす。
「あーんを、ご所望ですか……?」
「あーんをご所望ですな。あーんっ」
コレットが両手を組んで、目を閉じ、口を開けている。
ぴくんっ、ぴくんっ、と嬉しそうに、エルフ耳が動いていた。
「あーんっ」
「わかったわかった」
嫁のリクエストに、見事答えてしんぜよう。
俺はフォークにパンケーキをさして、コレットの小さな口に入れる。
もむもむ……と頬を動かして、咀嚼する。
「ジロくんっ。とってもおいしわねっ!」
「ああ。これで満足か?」
「まさかっ! もっともっと。残り全部お願いしますっ!」
「わ、わかったよ。喜んであーんさせてもらいます」
俺は今年でアラフォーだ。
そんなおっさんが、女子高生とオープンカフェであーんしている。
周りの目が結構気になり、恥ずかしいのだが。
それでも嫁が嬉しそうにしているのと、あと単純にコレットとこうして、一緒に何かをしているのは……楽しいし、嬉しい。
結局残りのパンケーキを、全部食い終わるまで、俺たちはあーんして、あーんされまくったのだった。
次回もデートして、次で11章終了。その次から新章へ突入していきます。
またいま新連載、やってます。
下にリンクを貼ってありますので、よろしければぜひ!
ではまた!




