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【完結】善人のおっさん、冒険者を引退して孤児院の先生になる 〜 エルフの嫁と獣人幼女たちと楽しく暮らしてます  作者: 茨木野


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86.善人、エルフ嫁と町でデートする【前編】

いつもお世話になってます!



 子供たちと、写真共有作業をした、1週間後。


 その日、俺は非番だった。

 エルフ嫁コレットともに、カミィーナの町へ、デートしに来た。


「ジロくん……」


 カミィーナを守る外壁。

 そこで町に入る手続きをして、すぐでた場所。


 俺の隣に、コレットが立っている。


 その肩は緊張しているのか、震えている。

 表情もこわばっていた。


「コレット。大丈夫か?」

「う、うん。大丈夫だよっ! ……と、思う」


 コレットは自分の耳を触る。


 そこにはいつもの、エルフと人間の中間くらいの、エルフ耳。

 ……ではなく。


 長い、本物のエルフの耳をしていた。


「ジロくん。お薬、ちゃんと効いてるかな」

「……ああ、ばっちりだよ。ちゃんとエルフに見えるよ」


 不安げだったコレットの表情。

 晴れやかになり、ほっ……と安堵の吐息をつく。


「……やっぱり、すごいな。その外見詐称薬」


 コレットの耳は、薬の効果で、短くなっている。


 外見詐称薬とは、飲むと自分の体を自由にできるのだ。


 コレットの母親がもともと薬学に精通しており、母直伝でこの薬の製法を学んだ。


 以後、コレットは孤児院の外に出るときは、こうして薬を飲んで、見た目を完全なエルフに変えている。


 コレットは、ハーフエルフである自分自身のことに、コンプレックスを抱えているのだ。


 孤児院のメンバー以外から、ハーフエルフであるとみられることを、彼女は極端に忌避している。


 だからこそ、この薬を、彼女は外出時に手放せないのだ。


「……コレット。まだ、無理か」

「……うん。ちょっと、無理ね」


 この間の夏、海からの帰り道。


 俺はコレットに、いつか薬を飲まないで、外の世界へ行けるようなって欲しいと願った。


 このデートは、そのいっかんだ。

 だが……彼女はやっぱり、まだ薬を手放せない。エルフであると偽らないと、町を出歩けない。


「ごめんね、ジロくん」

「いや、俺の方こそ、無理に外へ連れ出してスマン。辛いんだったら、帰ろうか?」


 コレットは微笑むと、ふるふる、と首を振るった。


「大丈夫よジロくん。心配してくれてありがとう」


 彼女は俺に近づくと、背伸びして、俺の口に、軽くキスする。


「せっかくジロくんがデートにお誘いしてくれたんだもの。来たばっかりで帰るなんて、もったいないわっ!」


 コレットはそう言うと、ポケットからスマホを取り出す。

 

 メールボックスを開く。


 そこには俺からのメールが表示されていた。


 今度の休み、ふたりでデートしませんか……と。


「ふふっ。うれしかったなぁ、このめぇる。永久保存版だねっ」


 スマホをポケットにしまって、コレットが微笑む。


「ジロくん。いこ」

「……本当に大丈夫なんだな? 気分が悪くなったらすぐに言えよ」


「わかってるって。もうっ、ジロくんは心配性だね。でもそんな優しいところ……とっても好きよ」


 コレットが俺の腕をつかむ、とぎゅっとハグしてくる。


 腕にとてつもなく柔らかな感触。

 大きくて、蕩けるように柔らかい。

 そして花のような甘い香りが鼻腔をくすぐる。


「ではジロくん。行きましょう」

「そうだな」


 俺はコレットの耳をチラッと見て、思う。

 最初から薬無しで外出なんて、無理だ。

 だから、徐々に慣れていってもらおう。


 それはさておき。


 俺はコレットともに、カミィーナの町を出歩く。


「ここって元々、ジロくんが冒険者としてやってたときの町なんだよね?」


「ああ。長くここにいたな」


「そうなると知り合いも多い?」


「まあそれなりに。あとでちょっと後輩にはあいさつしておこうと思うんだが、いいか?」


「うんっ! そのときはぜひとも、こんなにもかわいいお嫁さんをもらったんだぜ。嬉しいんだぜ。って紹介してくれたまえ」


「ああ。もちろんだ。自慢のかわいいお嫁さんだって言うよ」


 すると隣を歩いているコレット。

 その耳が、先まで赤くなる。

 ぴこぴこぴこっ、とせわしなく動く。


「も、もうっ! ジロくんってばいつの間にそんな女ったらしみたいなセリフを覚えたのっ! 先生そんなこと教えたつもり無いんですけどっ!」


 コレットが照れていた。

 ぺちぺち、と俺の腕を叩いてくる。

 だが怒ってないのは明白だ。

 口元がふにゃっとしている。


 それに耳がチョウチョみたいに、ぱたぱたと動いていた。


「どこで覚えたのジロくん。正直に白状せい」


「いや別に誰からも教わってないよ」


「ほほー……ぅ」


 コレットがジトっと、俺を見やる。


「どうした?」


「ふーん。お嫁さんがふたりになって、恋人が3人にもなれば、そういう台詞も吐けるようになるってことかね?」


 あかん。

 これ、またヤキモチ焼いてる。


「そうかねそうかね。そりゃそうか。何せ若い女の子4人と親密な関係なんだもん。若い! 女の子と親密なんだもん!」


 若いを強調するコレット。


 彼女の年齢は180歳。

 人間に治すと18歳なのだが、どうにもこの子、自分の歳をかなり気にするのだ。


「いやあのなコレット。いつも言ってるけどおまえは十分若い。こんな若くてきれいな嫁さんがもらえて、俺は幸せなんだよ」


「フーン」


 コレットがジト目を向けてくる。


 くっ……! 

 だめだっ!


 まだこの子のヤキモチが直ってない。


「デモ、マチルダ、ワカイヨネ。アムモ、モットワカイヨネ」


「だからコレット。気にする必要ないって。人間で言うと18。まだまだこれから」


「ソウカネ? ソウカナ」


「そうだよそうだよ。若い若い」


「コレカラ? コレカラ?」

「これからこれから」


 するとコレットが……笑顔になる。


「そっかっ。うん、私まだまだこれからだよねっ!」


 お日様のような、明るい笑みに戻る。

 良かった、機嫌を直してくれたみたいだ。

 町を歩きながら、コレットがにこやかに言う。


「ジロくんジロくん。あのね、どうかな今日のこの格好?」


 コレットが腕を放して、俺の前に来る。

 

 今日のコレットの出で立ちは、ニットのセーターに赤色のフレアスカート。


 肩から黒い鞄を提げてり、実に若々しい。


「とっても似合ってるよ」

「ほんと? それどれくらいお世辞は言ってる?」

「入ってないよ。本音100%」  


「ふふっ、ふふふっ。そっかっ」


 コレットが最高の笑顔を浮かべる。

 俺に近づいてきて、また腕に抱きつく。


「でもジロくん優しいからなぁ。お世辞じゃないっていっても、お世辞入ってるかもなー」


「いや本当に入ってないって。こんなかわいい奥さんが、かわいい服着て歩いているなんて。俺は心配だよ」


「心配?」


「ああ。他の男に軟派されるんじゃないかって」

「へ、へぇ……」


 コレットの耳が、嬉しそうにぴくん……ぴくん……と大きく動く。


「そ、そんなにきれい?」

「ああ。だから本当心配だ。特にコレットは若くて美しいからな。軟派されまくるんじゃないかってさ」


 9割本音だった。1割機嫌取り入っているけど。


 けど、それくらい、今のコレットは魅力的で、かわいいのである。


「もうっ、もうっ。ジロくんってば! 嬉しいこと……言っちゃってさ!」


 コレットが蕩けた表情になる。


「大丈夫。私はジロくん一筋だよ。私の身も心もジロくんのもの。だから安心してね」


 コレットが背伸びして、目を閉じ、唇を向けてくる。


 かわいい奥さんの唇に、白昼堂々、キスをする。


 唇を離すと、コレットがむすっ、とすねていた。


「ど、どうした?」


 また俺、地雷踏んだか……? 


「ジロくんが、町中でキスしても平然としている。これはやっぱり……女の子とたくさん付き合っている弊害か……」


「…………ちがうよ」


 何をしたってヤキモチを焼く、コレットであった。

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