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09.善人、塩を複製してみせ、社長に就任する

いつもお世話になってます!!

すみません、今回また分量が長いです。ご承知ください。




 獣人幼女とエルフ妻と一緒に、孤児院の裏でバーベキューをした、翌朝のことだ。


 俺は孤児院の運営資金を確保するため、今から来る商人に、塩を売ろうとしていた。


 この世界では塩が貴重品なのだ。


 なぜ塩が貴重なのか?


 以下はその説明である。長いので興味ないなら次節(☆マーク)まで飛ばしてくれ。

 俺たちの住む世界は、ひとつの大きな大陸が、海の上にでーんと浮かんでいる。


 海があるので塩は取れる。


 しかしこの世界は、さっきも言ったが巨大な大陸がひとつしかない。


 となると、どういう問題が生じるか?


 簡単に言うなら、輸送の問題である。


 海に面した街ならいいけど、俺の住んでいる土地は、この大陸の中央付近にある。


 そこからしたら、海は遠すぎる。


 さらに加えて言うのなら、この大陸の外周は、四方に4つの大きな大森林に囲まれているのだ。


 北に北の森とかいて【北森ほくしん】。東に【東森とうしん】。南に【南森なんしん】。


 そして西側には【白馬ユニコーンの森】という、神聖な森が広がっている。


 なぜ西の森は西森せいしんと言わないかというと、俺たちの住んでいる大陸の形に由来がある。


 俺たちの住む大陸は、【ト】の字をしているのだ。


 北と東、南に土地でっぱりはあるけど、西のでっぱりはない。西側はあるけど。

 だから西の森じゃなくて、西側の森であり、なら西森じゃなくね、というわけである。


 さておき。


 四方を大森林に囲まれているこの大陸では、人の住む場所は、必然的に大陸中央部に寄る。


 となると、先ほど言った輸送問題が出てくるのだ。


 海沿いから街が遠くなると、輸送に時間も労力もかかる。


 大陸中央でも取れる果実や肉ならまだしも、塩だけは、原料となる海水が、大陸辺縁部にしかない。


 手間暇をかけて、海から大森林を越えて、さらに長い距離かけて、人の住む街へと運ばないといけない。


 だからこそ、塩は貴重なのだ。


 取れる場所が限られている上に、コストがかかり、なにより需要があるからだ。


 この科学技術も、そして化学知識も未発達な世界において、調味料というのは非常に貴重なのだ。


 ハッキリ言ってこの世界の食事は美味しくない。


 調味料は充実してないし、調理環境も未熟。オーブンも電子レンジもないので、調理方法は限定される。


 地球人から見れば、粗食としかいいようがないのだ、この世界の、食事というものは。


 だからこそ、あじけない料理に【味】をあたえる調味料は、大変貴重で、


 作るのにすさまじい手間暇のかかる塩は、大変の大変の大変に、貴重なのである。


 だからこそ……塩は、高く売れるのだ。


 同じ量の砂金と交換できるというのは、誇張でも何でもなく、事実なのである。


 以上が塩が貴重であることの説明だ。


 長くなって悪かった。



    ☆



 商人が孤児院へやってきたのは、9時頃の話しだった。


 俺とコレットは、孤児院のリビングにいる。


 リビングにある大きめのテーブル。


 俺とコレットは同じ側に座り、そしてテーブルを挟んで向こう側に、例の商人が座っていた。


「ひさしぶりね、【クゥちゃん】」


 コレットが正面に座る少女に向かって、にこやかに話しかける。


 そう、少女だ。


 黒髪の、ともすれば日本人に見える顔立ちの少女。


 だがこの子も獣人である。


 なぜならば、彼女の腰のあたりから、1対の翼が生えているからだ。


「はいー。おひさしぶりですー。コレットせんせぇー」


 その子はかなり小柄な、ぱっと見で人間の女の子だった。


 アムよりも一回りくらい小柄で、ともすれば幼女と見間違えてしまうほど。


 たださすがにうちの獣人幼女たちよりは背は高い。


 かなりの小柄。腰から生える羽。そして目を引くのはーーーーその巨大すぎる乳房だった。


 見た目の幼さにまったくといって釣り合ってないほど、胸がでかい。


 さすがに爆乳コレットほどではないにしろ、十分に巨乳だった。


 ロリ巨乳の羽を生やした少女、名前を【クゥ】は、コレットを見て言う。


「ここを出て15年。せんせぇは15年経ってもずっときれいでうらやましー」


「もうっ、昔から口が上手いんだから」


 ぱたぱたぱた、とコレットが嬉しそうに耳をピクピクさせる。


 コレットと話していたクゥが、すっ……と俺に視線を合わせる。


 そしてうなずいて言う。


「なるほどー。あなたがウワサに聞いてた、コレットせんせぇーの旦那さまですねー」


 クゥがのんびりとした口調で言う。コレットが【ま、まだ結婚してないわっ!】と真っ赤な顔で言い返す。


「あれぇー? おかしーなー。ウワサだともう性行為は済ませたーって、聞いたんですけどねー」


「「ごほごほっ!!」」


 俺とコレットがふたりそろって咳き込む。

「ど、どうして知ってるんだよ。てか、どこからそんなウワサ流れてるんだよ!?」


 流したやつとっちめてやろう、絶対。


 クゥはにぃ……っと笑うと、


「それはー、有料、ですー」


「有料? 金取るのかよ」


「はいー。ウチ商人ですからー。情報も商品なのでー。知りたいのなら対価を頂かないとー」


 鳥人間のクゥはニコニコ笑顔を崩さないままで、そう言う。


 だがよく見ると、目だけが笑っていた。


 口は口角があがっているだけで、微動だにしない。


「どうしますー?」


 細めた目で俺を見ながら、クゥが尋ねてくる。


「……。…………。買う、っていいたいが、今はあいにくと手持ちがない」


「あれー、そうなんですかー?」


 貯金は借金返済に使ってしまったからな。

 いちおう昔使っていた武器防具を売った金はある。


 けどそれを使ってしまうと、本当に一文無しになってしまう。


 コレットに借りるのは……無理だ。セックスのウワサを誰が流したのか。


 ……なんて情報を買うために金を借りるとか、恥ずかしすぎる。


「しかたないですねー。じゃあ今回は特別に、タダで教えてあげますよ-。あれですよー。初回特典的なあれですよー」


 どうやらタダで教えてくれるらしい。


「さっきのはー。ウソですー」


「は? ウソ?」


「ええー♡ ウソですよー。ウソというかーブラフですねー」


 クゥが笑顔のまま続ける。


「あなたとコレットせんせえが付き合ってることも、実は知りませんでしたー。ただまー、雰囲気を観察してればそうじゃないいかなーとわかりましたー」


 なんと付き合っていることも知らなかったのか、こいつ。


「ということはー、まあ絶対じゃなくてもー、性行為はしてるはずじゃないですかー。だからああして、揺さぶりかけたんですよー。したのかってー。そしたら見事に引っかかってくれましたねー」


 だから、と区切ってクゥが続ける。


「あなたたちがー、もう済ましてるって情報はー、誰も知りませんよー。ここにいるひとたち以外ー、ですけどねー」


 ……なるほど。


 俺の反応を見る以前は、俺とコレットがまぐわったかどうかは、クゥは知らなかった。


 だがしたかどうかを聞いて、俺たちが反応を見せた。


 そこから確信を得て、ああして【第三者から情報を聞いた】みたいなふりをした。


 その情報を買わせて、金を得るために。


「詐欺じゃねえか」


「詐欺じゃないですよー。だってあなたはー。情報に対してー。お金払ってないじゃないですかー。損してないでしょー?」


 にこにこにこーっと笑顔を崩さずに、クゥが言う。


「いやまあそうだけど……」


 それでも、自分の知らないことを、さも知ってるかのように振る舞うことで、こいつは金を払わせようとした。


「それって未遂とは言え詐欺じゃないか?」


「未遂であって詐欺じゃないですよー。ねー?」


 正論なんだが、けど金を持っていたら、絶対にこいつに金を取られていた。


 そんで金返せと言ったら、たぶん、情報に対する正当なる代金だから返せない、とか言ってきたに違いない。


「クゥちゃん、ジロくんをあんまりいじめちゃダメよ?」


 コレットがたしなめるように言う。その顔には不快感の感情が見られない。


 昔なじみのいたずらっ子を注意する、先生みたいな、苦笑の混じった口調だった。


「あれー? バレちゃいましたー?」


 てへー♡ っとクゥが自分の頭を叩く。


「ジロくん、この子ちょっと変だけど、悪い子じゃないから」


「そーですよー。悪い子じゃないですよー」


 良い子は自分を悪い子じゃない、って言わないと思うが……。


 まあこのクゥという少女は、この孤児院の出身と言っていた。


 つまりコレットに育てられたということであり、すなわち悪人ではないということだろう。


 まあ、100%信用していいかは不明だが……。


「では改めてー。初めましてー」


 クゥは背中の翼を、ばぁっと広げる。


 その翼は……鳥のそれであった。


 何の鳥かは、羽の色を見ればわかった。


 黒い。夜の空よりも、暗い、黒をしていた。


北森ほくしん地域・最大手の商業ギルド。【銀鳳商会ぎんおうしょうかい】でギルドマスターをやってますー」


 クゥが頭を下げる。ふぁさっ、と腰から生える羽も一緒に下がる。


鴉天狗からすてんぐのクゥと申しますー。以後ー、おみしりおきをー」


 その腹の中のように真っ黒な色の羽を、ぴこぴこ動かしながら、クゥがにこりと笑って、あいさつしたのだった。



    ☆



 自分を商業ギルドのギルドマスターであると名乗ったクゥ。


「マジかよ……」


「えぇー♡ マジですー♡」


 そう言ってクゥは懐から名刺を取り出して、俺に手渡してくる。


 そこには【銀鳳ぎんおう商会ギルドマスター】という職業とともに、クゥの名前が書いてあった。


 というかこの少女、孤児院を卒業して15年ちょっとで、ギルドマスターになったのか。


 ギルドマスターって、地球で言うなら会社の社長だろう?


 大出世じゃないか。


 それだけこのクゥという少女が、傑物ということか。


 あるいは、こんなこと思いたくないけど、

「身分詐称とかしてない……よな?」


 俺がそう尋ねる。ぴくっ、とクゥの腰の翼が少しだけ動いた。


 表情は相変わらず笑顔のまま、


「面白いこと言いますねー♡ ギルドマスターと今この場でウソをついてー、ウチになんのメリットがあるんですかー? それに仮にウチがギルマスじゃなかったとして、ここでウソついたことがバレたら、くびになってしまいますよー」 


 確かに。そう言われるとウソをつくメリットはない。


「せんせぇーの旦那さまに-、あんまりこういうこと言いたくないですけどー。もうちょっと考えてから発言しましょうよー。ねー♡」


 口調は穏やかだが、そこにはどこか、俺を下に見ている感が滲み出ていた。


 いやまあ、確かにちょっと考えればわかることだった。


 バカにされてもしょうがない。


「すまないな、疑ったりして」


「…………。いえー、気にしてないのでー」


 一瞬なんか変な間はあったものの、クゥが普通に続ける。



「……ふーん。なるほどなるほどそういう性格の人ですか」


 素早くクゥが、何事かをつぶやく。細まっている目が少しだけ開いていた気がする


「え、なんだって?」


「あー、いえー、なんでもないですよー」


 と思ったら、クゥはいつも通りのニコニコ笑顔に戻っていた。


「さてではウチがギルドのギルドマスターであることをー、承知してもらったところでー、商談と行きましょうかー」


 人の良さそうな笑顔を崩すことなく、クゥが本題へ切り込んでくる。


「そうだな。えっと……どこまで話しが通ってるんだっけ?」


「そうですねー、せんせぇの旦那さまがー、塩を我が商会に売りたいー、って話しですよねー?」


 コレットを通して、クゥにはあらかじめ意思を伝えてもらっている。


「塩ー、あるんですかー?」


 すっ……と細められていた目が見開く。

 

 クゥの目は……きれいな金色をしていた。


 てっきり目も、髪と同じで黒色をしてると思ったんだが。


 まあ獣人だしな。人間基準でものを語ってはいけない。


 さておき。


 俺は足下に置いてあった段ボールの中から、袋詰めされた塩を取りだし、テーブルの上に乗せる。


 純日本製の塩だ。


 と言っても新品のそれじゃない。


 開封済みだ。


 昨日バーベキューの時に使って大量に余ったやつがあったので、それを革袋に詰め替えておいたのだ。


 まあ未開封の新品を見せても良かったんだけど、あれ1kg入りで、そこそこの重さがする。


 見本として見せるなら、1kgまるまる見せなくて良いだろ?


 だから昨日の余った塩を、少量、革袋に移して持ってきた、という次第である。


「拝見ー、してもー?」


 テーブルの上に置かれた、この世界では一般的に使われてる、何の変哲もない革袋。


 それをいぶかしげに見つめながら、クゥが俺に問うてくる。


「ああ、どうぞ」


「ではー、失礼してー」


 クゥが革袋を手に取り、すっ……と目を少しだけ見開く。


 またあの、黄金の瞳がちらりと見えた。

 

 不思議な色の目をしていた。模様があるようにも見える。


「月みたいな目してるな」


 軽い気持ちで、俺は感想を漏らす。そのときだった。


「へっ……!?!?」


 と、クゥが大きな声を張り上げたのだ。目をギョッ……! と見開く。


 月のような目が開帳された。


「ど、どうしてそれを……?」


 目を開いた状態で、クゥが俺に聞いてくる。視線はきょろきょろとせわしなかった。

 動揺が見て取れた。動揺? 何にだ?


「いや、別に深い意味はないぞ。単に感想を述べただけだ。月みたいだなって」


「あ、あー、そー、ですかー。そうですよねー。あはー。ごめんなさいー。へんなこといってー」


 またクゥの目が、もとのニコニコ笑顔に戻っていた。


 気にはなった。なんか変だった。


 だが、じゃあどこが変なのか指摘できそうになかったので、結局何も言わなかった。



    ☆



 クゥの鑑定が終わった。


「これはー、すごいですねー」


 リビングのテーブルには、コレットの出したお茶が乗っている。


 俺は一口それを飲む。これも地球の物品だ。複製で紅茶のパックを出したのである。


 すっ……と、クゥが革袋をテーブルの上に乗せる。


「とてもー、とてつもなくー、高純度な塩ですー。夾雑物……ああ、余計なものがいっさいまじってなくて、しかもこの塩の味、ウチら商会が扱う最高級の塩より、遙かに優れてますー」


 よしっ。感触は悪くない。クゥはニコーっと笑いながら、


「ぜひー、うちに売ってくださいー。高く買わせていただきますよー」


「高くって……具体的にはどのくらいだ?」


 そうですねー、と言って、クゥが足下に置いてあったカバンの中から、小さな革袋を取り出す。


 クゥが口を開けて、テーブルの上に中身を出す。


 それは……砂金だった。


 砂、という冠がついてはいるけど、石みたいだ。小石っていうのかな。


 砂では決してない。


「これ砂金なんですけどー、はじめてみましたー?」


「ああ」


「そうですかー。まー、ウチらみたいな商人じゃないとー、縁のない品物ですしねー」


 さて、とクゥが続ける。


「ご存じかとは思いますがー、塩は重さと同じ量の砂金とで取引できますー。塩10gならー、砂金10gー、みたいなー」


 クゥがテーブルに散らばった砂金を、革袋の中に入れる。


 今彼女が言った内容は、俺も知っていることだ。


「ですがー、塩のランクによってはー、換金する砂金の重さが変わってきますー。より質の良いものなら、塩10gに対して砂金20、30の価値がありますー」


 それは知らなかった。

 

 塩のグレードによって換金金額が代わるなんてな。


「じゃあ、俺の出した塩には、どれくらいの価値があるんだ?」


「………………」


 俺の質問に、クゥが自分の口元に手をやる。


「……かも。……ねぎ。……今後。……美味い。……エサ」


 と、断片的になんか聞こえてくる。


 鴨? ネギ? 美味い、エサ? なんだ釣りのことでも考えてるのか?


 鴨のいる池に釣りへ行こうとか?


 でもならネギってなんだ?


 しばらくの沈黙の後、


 とクゥが両手を開いて、俺たちに見せてくる。


 10本の指を、広げてきた。


「10gってことか?」


 いや、塩10に対して砂金10って、普通のレートと同じじゃないか。


 なんだ質が良いんじゃなかったのか?


「いいえ、違いますー」


 にこやかなまま、クゥが答える。



「10万」



 ……。

 …………。

 ……………………はぁ!?


「い、今なんて……!?」


 びっくりしすぎて、思わず聞き返してしまう俺。


「ですからー、塩10gに対して、砂金10万gをー、こちらから提供させていただきますー」


 つまり……。


 10で、10万なら。


 1で……1万。


 塩1gが、砂金10000gになる、と?


「みたところー、この袋に入っている塩は100gですねー。正確には100.4gですがー。まーここは切りよく100にしましょうー♡ 100って縁起が良い数字ですしねー♡」


 ずいぶんと細かい重さまでわかるんだな、この子。


 しかし……そうか。


 塩1gが、砂金1万gになる、のか……。


「じ、ジロくんすごいわねっ……」


「ああ……夢みたいだ……」


 まさかただの塩が、こんなに化けるとは。

 俺もコレットも、興奮をかくしきれなかった。


 転がり込んでくる大金の量に、俺もコレットも、浮き足立っていた。


「………おいしいおいしい、かもちゃんかもちゃん♪」


 にぃーっ、と薄くクゥが笑い、上機嫌に鼻歌を歌っていた。


「何の歌だ?」


「ウチら商人の歌ですよ-。商売でボロくもうけたときとかにー、歌うナンバーですー」


 そうなのか。不思議な歌だなと思った。


「さすがに手元に100万gの砂金はありませんのでー、いったん帰って準備してからー、塩と交換と言うことでよろしいですかー?」


「ああっ! それで頼むよっ!」


 すっ……と俺は手を出す。


「商談成立ー、ですねー♡」


 その手をクゥが握ってくる。


 こうして俺は、レート1万倍という、すさまじい高レートでの換金先を見つけることができたのだった。


「じゃー、ウチはこれでー、失礼します-。砂金の用意がありますのでー」


 にこやかに立ちあがると、ぺこり、とクゥが頭を下げてきた。


 ふぁっさふぁっさと翼が、機嫌良さそうに動いている。


 これにてお開きか。


 いい商談だった。


「あ、そうだ。ジロくん」


 こちらも笑顔のコレットが、



「どうせ砂金を取りに帰るなら、うちにある残りの塩、いくつか先にもっていってもらったほうが、いいんじゃないかしら?」



 何気なくそう言う。


「!?」


「そうだなー、あの量をクゥが1回で運びきれるわけないもんなー」


「!?!?!?!?!?!!?!?」



「クゥちゃん今日は馬車で来てるのよね? なら荷台にいくつか塩の袋を詰んで……って、クゥちゃん?」


 コレットが首をかしげる。


 クゥは……さっきから妙な顔して固まっていた。


「……うそやろ」


「え?」


「はぁああああああああ!?!?うそやろぉおおおおおおおおお!!!!!!」


 と、クゥが大絶叫した。


 細かった目は驚愕に、限界まで見開かれてる。


 あの月のような目が、爛々と輝いていた。

 いや……血走っていた。


「ウソやろ!? ま、まだあるんっ!? こんなっ……こんな高純度の塩が!? 大量に!? 袋で!?」


 クゥが俺の肩をガッ……! と掴んで、興奮気味に聞いてくる。


「あ、ああ……」


「しかも、ウチの馬車が1回で運びきれない量とかホンマか!? ウソやろ!? ウチだまそうっちゅーなら、無駄やぞ!?」


 黄金の目をぎらぎらと輝かせながら、鼻息荒くクゥが言う。


「ウチは【月の目】をもっとる!! この目があるかぎり、ウチにウソは通じんぞっ!!」


 クゥが金の目をぐわっと見開いて言う。


 月の目?


 ウソ?


「これは特殊技能やのーて、鴉天狗が持つ特有の体質みたいなもんやっ!!」


 ぎらつく金の目を指さしながら、クゥがそんなことを言う。


「どんな能力なんだ?」


「これは鑑定を行える目、別名を鑑定眼ちゅーんや!! これで見た商品の量、成分、価値そのたもろもろの、商品に込められた情報を見抜くことができるんや!!」


 なんと。


 そんな鑑定スキルみたいなものを持っているだなんて。


「この目ぇがあるかぎり、粗悪品掴ませてウチをだまそうとしても、そうはいかんからなっ! それを踏まえておんどれは、馬車に乗りきらない塩があるっちゅーんか!? ア゛ぁあ!?」


 やくざかと思ういきおいで、クゥが俺の胸ぐらを掴んですごんでくる。

 

 こ、怖え……。


 なんだ、これが本性なのか?


「どうなんや!?」


 クゥが今にも俺を殺す勢いで睨んできたので、俺は答える。


「え、あ、ああ……うん。ほんとだよ。ウソじゃない。裏に置いてあるから見てけよ。なんなら全部中身を開けてみてもいいぞ」



    ☆



「コレットの旦那さま、いえ、ジロさま!!! どうかウチの商会の、ギルドマスターになってください!!! お願いします!!!!」


 クゥとともに塩が放置してある、裏の温泉までいった。


 そしてこの間だしたぶんの塩をすべてあらためさせた。


 さらにもっと必要なら作れるぞ、と複製スキルを使って、日本製の塩をどさどさと目の前に出して見せた。


 で、呆然とするクゥとともにリビングに戻ってくるなり、クゥが先ほどのセリフを言ったのだ。


「お願いします!!! お願いしますっ!!! どうかウチらの商会へ入ってください!!! お願いします!!!」


 クゥは土下座して、頭を地面にこすりつけながら懇願してくる。


「く、クゥちゃんどうしたのっ? やめてそんな土下座なんてっ」


「そうだよ、とりあえず頭あげて説明してくれ。いろいろわけわかんねーよ」


 困惑するコレットと俺。


 クゥは頭を上げろというのに、地面につけたまま説明する。


「では端的に言います。ジロさま」「ジロで良いよ。あと頭上げてほんと」「では、ジロさん」


 クゥが頭を上げて、正座した状態で言う。


「ウチはあなたが欲しい。ウチに来て欲しいんです」


 ……。

 …………。

 ……………………え、えええ!?


「浮気……」とコレットがものすごい悲しそうな目で俺を見てきたので、


「違う違う!! おいクゥどういうことだよもっとわかる言葉で言えよ!」


 クゥは「?」と首をかしげて、


「あの、ですからジロさんの複製スキルがあまりにほしいので、ウチに来てくださいって意味ですけど?」

 

 あ、ああ……スキルの話しね。


「ほっ、良かったぁ……」


 コレットが目に涙を浮かべながら、安堵の吐息漏らす。


 良かった、家庭崩壊とかならなくて。


「てか、どういうことだ? 複製スキルが欲しすぎるって?」


「ですから……そうですね」


 クゥはしばし沈思黙考して、


「たとえばジロさん。さっきのパックに入った塩、あれってどれくらい出せるんですか?」


「どれくらいもなにも……あの温泉につかりながらだったら、無限に作れるぞ?」


 俺が答えると、「…………そこまで言うてなんできづかないんや? アホちゃう?」とぶつぶつクゥが恨み言を言う。


「いいですか、ジロさん。さっきも言いましたけど、ジロさんの塩はレート1万倍で売れます。それくらい高品質の塩なんです。それを無限に出せるんですよね?」


 一拍おいて、続ける。


「グラム1万の価値のある塩を、無限に作れるんですよ? 億万長者になれるじゃないですか?」


「いやまぁ、理論上ではそうなるだろうけど……無理だろ」


「どうしてですか?」


 アホを見るような目でクゥが俺を見てくる。


「いや、確かに塩は高く売れるし、無限にしおが作れるとしても、そんなに売れないだろ。高級品ならなおのことさ」


 今でさえ塩は貴重な品物だ。


 庶民には手が出せない。


 いくら商品しおを売りに出したところで、客が買ってくれないともうけにならないだろう。


「これだからど素人は……」


 といらだったようにクゥが言う。


「なあ、ええか? 無限に塩が出せるンやろ?」


 なら、と続ける。


「ならこの塩、めっっっちゃ安く、客に出せるんちゃうか?」


「? ?? ????」


「……なるべく簡単に話すわ」


 クゥはため息をついて、説明する。


「そもそもなんで塩の値段が高いかわかるか、ジロさん?」


「それは……塩が貴重だからだろ?」


「そうや。どうして貴重か? 作るのに金が、運ぶのに金が、とにかく、商品として出すまでに、ものごっっつい金がかかるからや」


 クゥは自分のカバンを引き寄せて、何枚か金貨を取り出す。


「ええか? 塩を作るのに、たとえば金貨10枚必要だとする」


 金貨10枚とは、日本円で10万円だ。


「で、金貨10枚で塩を作った。問題や、塩は金貨何枚で売ればええ?」


「そりゃ……10枚以上だろ?」


「せや、利益出さないとあかんからな。作るのに必要だった金以上の金額を、客に出さないといかん」


 つまり金貨10枚で作ったら、10万円で塩を売らないといけないのか。


 10万円の塩ってそれ……高すぎて誰も買わないだろ?


「そう、塩が高くて庶民が買えない理由は、究極的にはそういうことや。コストがかかりすぎるから、売値もそれだけ高くなる」


 けどな、とクゥ。


「じゃあ問題や。ジロさん、あんたそこにある塩、いくらで作れるんや?」


「いくらも何も……タダだろ」


「そうっ! タダやっ!! ただで塩が作れるンやで!! しかも、この世界にあるどんな塩よりも、高級な塩をやっ!!」


 温泉からもってきた塩を、クゥが目を♡して抱きしめる。


「この上質な塩、一度食べればこの世界の住人は、みんなこれの虜になる。それを安定して製造できて、しかもコスト0でやで。これなら……めちゃんこ安く塩売れるやんか?」


 そこまで言われて、少しずつ理解が追いついてきた。


「そうか……コスト0なら、いくらで売ってももうけが出る。しかも売った金額が全部、利益になる」


「せや。それにこの塩なら、ライバルの出現はありえへん。こんな高純度の塩、作れるやつはおらんからな。そして、この先一生、みんなこの美味くて安い塩しか買わないようになる」


 市場を独占できるワケか。しかもコスト0。


「それ、もうけやばくないかそれ?」


 だってタダで作った塩を、全部売れて、全部金にできるってことだよな?


 それ金作ってるのと同じじゃないか?


 錬金術じゃん、そんなのもう。


「だからやっ!!」


 ぐわっ、と目を見開いてクゥが俺の手を取る。


「だからっ!! ほかのギルドがアンタの価値に気づいてスカウトする前に!! ウチに来てって言ってるの!!! わかったかボケなすっ!!」



    ☆



 クゥは、口から火でも出すんじゃないかっていう剣幕で、俺にまくし立ててきた。


「く、クゥちゃん落ち着いて……ね?」


 コレットがリビングの床に座り、正座の姿勢のクゥをなだめるように、肩をさする。

 しばらく興奮状態だったクゥは、コレットに宥められて、1分くらいして冷静に戻った。


「すみません、冷静さを欠いてました」


 また土下座するクゥ。


「すみません、ジロさん。今までの無礼は謝罪します。ですがお願いですから、ウチに来てギルドマスターになってください」


 心から反省しているのか、クゥの声に必死さが混じっていた。


 というか……無礼?


「どういうことだ? おまえ、別に無礼な態度なんてとってないぞ?」


 俺がそう言うと、クゥは「…………」とため息をついて、


「こんなお人好しの鴨に、どうしてこんなすごい商売のスキルがあるんやろうな……」と疲れた調子で言う。


「鴨?」


「はい……。正直に話します。ウチはジロさん、アンタのことを鴨だと思ってました」


「鴨? カモって……あの鳥の?」


「まあそうですが、あれです、美味しいエサって意味です。だましやすい良い客って意味」


 クゥは目を伏せ、申し訳なさそうにしていう。


「ジロさん、気づいてました? さっき小袋に入っていた塩、あれ100.4gだったじゃないですか?」


「ああ、そんなこと言ってたな」


「で、ウチ100gで取引するって言うたじゃないですか? おかしいって思いませんでした?」


 別におかしなことなど何もないと思うんだが。


「……ジロさん、レート。gいくらって言いました?」


「たしか1g1万って」


「……なら、0.4g塩があったら、どれくらいの砂金が手に入るんです?」


 あー……。


 そうか。

 

 0.4×10000=4000g


 4kgの砂金が、端数としてはぶかれてたんだ。


「砂金は1kgで金貨1枚の価値があります」


 つまり俺は、4万円を端数として捨てるところだったってことか。マジかよ……。


「しかもジロさん、さっき塩10に対して10万って言いましたよね? あれ、ウソです」


「ウソ?」


「ええ……。あの純度の塩なら、15万でいけます。10gの塩が15万gの砂金に」


 つまり塩1gで、砂金15000g

=15kg。


 砂金1kgで金貨1枚。


 だとすると……。


「塩1gで、15万円か……」


 そう聞くとすげえわ。日本の塩。


「その上でさっきの端数の計算をするとどうなります?」


 0.4×15000=6000g

=6kg


「6万円も損するところだったのか……」


 向こうの世界で6万円というと、結構な額だ。


 それを気づかずに損するところだった。


 それでのんきにしていたと思うと……確かに俺はいいカモだったわけだ。


「それにジロさんにバカだとか考えろとか、ひどく失礼なことを言って……本当にすみませんでした。その口でよく言うなと言われても仕方ありません。ですが言います、ウチの商会のギルドマスターになってください」



    ☆



「てゆーかどうしてギルドマスターなんだ?」


 クゥをイスに座らせて、俺が尋ねる。


「簡単です。他社に引き抜かれないようにするためです」


 即答するクゥ。


「たとえばウチの職員として商会に入ったとしましょう。ですが単なる職員なら、別に出て行ってもなんも問題ありません。簡単に他社はジロさんを引き抜けます」


 確かに平社員なら、簡単にヘッドハンティングできるだろう。


 待てよ?


 じゃあ逆はどうだ。


 つまり……そいつが社長、会社のトップだったなら、簡単に他社が引き抜けない。


「そうか、他のギルドが俺に気づいて引き抜きにくいようにするために、ギルドマスターにするワケか」


「最初からそう言うてるやん……って、すみません。また口が」


「いや、いいよ。気にすんな」


 ようやく彼女が言いたいことがわかってきた。


「あの塩を無限に生み出せるジロさんは、もはや存在自体が【金】みたいなもんです。あなたの両手は【金を生み出す手】です。金の神様と言い換えてもいいでしょう」


 な、なんかえらい褒めてくるな、クゥ……。


「ウチら商会は、神様、あんたが欲しい。金の神様がウチに来れば、もう一生うちの商会は安泰や」


 だからお願いします! とクゥが頭を下げてくる。


「でも……いきなり社長、ギルドマスターやれって言われてもな」


「仕事は全部ウチがやります。名義上はジロさんがギルマス、でも実質のギルマスはウチ。面倒ごと全部こっちが負担します」


 まあ、それならいいか。


 仕事しなくて良いならな。ここを離れたくないし、俺。


「それにギルマスがもらっている分の給金を、他の職員同様に、月ごとに支払います」


「ギルマスって月いくらもらってるの?」



「金貨1000枚」


 ……。

 ………………。

 ……………………………………。い、1000万円!?!?!?


「い、いらねえよ、そんなに!! てかもらえねえよ!!」


 月に1000万円稼ぐやつとかどんけだよ。


 だって年に1億2千万(1000万×12)だぞ?

 

 なんだよそれ、プロ野球選手かよ!


「いえ、もらってもらわないと困ります。そうしないと他のギルド職員にしめしつかんですし……」


 確かに社長が給料要らねえよって受け取らないと、社員たちは困るだろうけど。


「面倒な仕事はウチが処理します。ウチに来れば何もしなくてジロさんは月に千枚の金貨が手元に入ってきますよ?」


「それは……」


 実に魅力的だ。 

 

 これでもう金のない生活におびえなくてすむからな。


「本当に仕事なにもしなくていいのか? 塩作るのはやらないとダメだろ?」


「それはまあそうですが。なにも毎日塩を作ってもらわなくていいです。月に……いや、年に1度、大量に作ってください。それでいいです」


「大量に作って運搬とかどうするんだよ?」


「全部こっちがやります。ジロさんは年1で働いてもらえれば、それでええです」


 そう考えると……すさまじい好条件だった。


 まとめると、


社長ギルドマスターに就任

・仕事は1年に1度でいい

・月に1000万円(金貨千枚)、定額でもらえる


 ……うん。


「わかった。引き受けるよ」


「ほ、ほほほほほ、ほんとうに!?!?」


 クゥの表情がパァッ! と明るくなる。


「ありがとうっ!! ほんまありがとうなぁっ!!!」


 ロリ巨乳の少女が、俺のそばまでやってくると、その大きな胸に俺の顔を抱き寄せてきた。


 まあ、うん、気持ちよかったね。


「じーろくんっ♡(ぴきぴき)」


 コレットさん、ちゃ、ちゃうねん。これ、浮気じゃないねん。



 ともかく。



 ……こうして俺は、商人ギルドの社長ギルドマスターを孤児院と兼任することなった。


 そして年俸1億2000万円という、プロ野球選手並みの給料を、ほぼなにもせずに手に入れることができたのである。


 いや改めて、複製スキルって、はんぱねえわ。

お疲れ様です!


今回は塩売る回でした。獣人ちゃんたちの出番が今回なかったので、次回は登場させます。


次回は資金ゲットしたので、街へ買い物に繰り出す感じにしようかなと思います、エルフ嫁と子供たちとともに。

で嫁さんに指輪プレゼントする、みたいな感じにしたいです。


以上です。あと最後にまたお礼を。


皆さまのおかげで、昨日と今朝、日刊総合ランキングで3位に入ることができました。


たくさんの人に読んでもらい、またたくさんのひとに応援のコメントやポイントをもらったおかげで、ここまで来れました。


皆さまホントにありがとうございます!!これからも頑張ります!!


あと可能であればいいので、下の評価ボタンを押してくださると嬉しいです。


それと同時並行で、新しいお話を投稿してます。下にリンクを貼ってますので、ご興味ひかれたかたは是非!


ではまた!

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― 新着の感想 ―
ごめんだけど、頭悪すぎる文章で笑う
[一言] 金の神様...金の神...金神...ゴールデンカムイ...!?
[気になる点] ギルマスでそんなに金持ってるなら育ての恩人が売られそうになってるの助けてあげればよかったのに(T_T)
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