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【完結】善人のおっさん、冒険者を引退して孤児院の先生になる 〜 エルフの嫁と獣人幼女たちと楽しく暮らしてます  作者: 茨木野


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82.善人、子供たちと遊び、マチルダとイチャつく【後編】



 缶蹴りをした後、おやつの時間となり、子供たちは孤児院の建物の中へと戻っていった。


 桜華とコレットが子供たちにおやつを食べさせている間、俺とマチルダは休憩を取る。


 天気も良いことだ。俺は裏庭の大きな木の下で、しゃがみ込む。


「ふぅー……」

「ジーロさん♪」


 座って休んでいると、マチルダが笑顔で俺の側までやってきて、隣に座り込む。


「お疲れ様です! ハイこれっジュース!」


「サンキュー」


 事前に複製スキルで出しておいた、缶ジュースだ。

 

 俺はプルを引いて中身を飲む。


「ううん。うーん……。あかない~……」


 マチルダも同じものを持っていた。

 

 だが缶の開け方がわからないようだ。まあ、現地人だしな、マチルダは。


「ほら、貸してごらん」


 俺はマチルダに、自分の持っている缶を持っていてもらい、彼女の缶を受け取る。


 プルを引いて、飲める状態にする。


「ほら……って、おい」


「こくこく……。ぷはぁっ。え、何ですかジロさん?」


 マチルダは俺が一口飲んだ缶ジュースを、美味そうに飲んでいた。


「それ、ちょっと持っててっつもりで渡したんだけど」


「え、そうなんですか? てっきり、俺のやるからそれを飲めーって意味かと! 思ってました!」


 いい笑顔でマチルダが言う。


「嫌じゃないか? 俺が口につけた物を飲むのって」


「何言ってるんですか! ジロさんの飲みかけのジュースなんですよ? 嫌なわけないです! むしろ嬉しいというか、ご褒美です!」


 マチルダが喜々としてそう言う。


 まあ、本人が嫌じゃないというのなら良いか。


 隣に腰を下ろすマチルダが、よいしょよいしょ、と俺の隣までやってくる。


 ぴったり、と肩を寄せてきて、俺を見上げてくる。


「ん~♪」


 すんすん、とマチルダが鼻を鳴らす。


「なにやってるんだ?」


「あ、すみませんっ! 良いにおいだったもので、つい!」


 におい? 俺は別に香水とか何もつけてないのだが……。


 って、汗のにおいか、もしかして?


 そう言えばさっきまで運動していたからな。


 秋も深まり、気温が下がってきているとはいえ、子供たちと一緒に走り回っていたら、汗もかく。


「すまん。汗臭かっただろ?」


「そんな! とっても良いにおいですよ! ずっとずぅっとかいでいたいくらいです!」


 マチルダがからになった空き缶を地面に置くと、俺の体に抱きついてくる。


「ん~♪」


 気持ちよさそうに目を細めて、俺の体にほおずりする。


 マチルダのふわふわとした、色素の薄い髪からは、南国の果実のような、甘酸っぱい香りがする。


 たぶん彼女も汗をかいているのだろう。さっきまで俺と一緒に、子供と遊んでいたのだからな。


 どうして女の子の汗のにおいって、こうも良いにおいなのだろうか。


「ジロさんの汗のにおいかいでたら、なんだか……とってもエッチな気分になってきました……」


「なんでだよ……」


 もじもじ、とマチルダが体をよじって言う。その大きくて張りのある胸を、俺の体にこすりつけてくる。


「んー、たぶん夜のことを思い出すからでしょうか。ほら、汗びっしょりになるじゃないですか」


「ああそういう……。って、ダメだぞマチルダ。今は仕事中」


「ジロさんがそう言うなら、わたし、我慢します!」


 素直な良い子だ。


「でもジロさんが我慢できないーっていうなら、いつでもウェルカムですから! 外でもオッケーですからっ!」


「マチルダ。自重しような」


 俺はポスン、とマチルダの頭に軽くチョップする。


「はーい。……って、そう言えばジロさんジロさん」


 抱きついていたマチルダが、体の向きを駆ける。


 俺に寄りかかるようにして座る。


「さっきコンちゃんが使っていたあれって、なんだったんですか?」


 さっきの、とは、たぶんコンがスマホで使った【あれ】のことだろう。


「スマホをいじっていた……ってことは、デンワをかけてたのでしょうか?」


 マチルダは現地人。なので【電話】のアクセントが若干おかしかった。


「それにしてはデンワかけてる感じなかったんですけど……」


「ああ、あれはメールを使ってたんだろ」


「めぇる?」


 俺はスマホを取り出す。


「最近使えるようにしたんだ。こうして、スマホで文章を打って相手に送信することができる機能だよ」


 スマホに文字を打ち込む。


 地球で使っていたように、文章を打って、登録してあるマチルダの携帯に、メールを送信。


 すると……。


 ぴろりんっ♪


 とマチルダのスマホが鳴る。


「? デンワじゃない……?」


「そ。ここのメールボックスを開いて」


 スマホ画面の、メールアプリをタップさせる。


 そこには俺がさっき送ったメールの文面が書いてあった。


【テスト】


 という一文のみだが。


「わわっ、すごい! 文字が送られてきた!」


 おおー! とマチルダが感嘆の声を上げる。 


「あれ……でもジロさん。これ変じゃないですか?」


「ん? 何が変なんだ?」


 だって……とマチルダがメール画面を指さして言う。


「ここの【テスト】って文字……この世界の言葉じゃないですよね? でも、テストってかいてあるの、わたし、読めるんですけど……」


 そう。


 今回メール機能を実装するにあたって、一番苦労してたのがそこだ。


「まあ、順に説明していこう。そもそもメールの機能を実装するのは、そんなに難しくなかったんだ。【転写トランスファー】って魔法を知ってるか?」


「確か……文章や図を、別のものに書き写す、無属性魔法ですよね。受付嬢の子のなかでも、使えるひとが結構いました」


 事務作業とかによく使われる魔法だからな。


「メールって言うのはようするに、スマホで打った文章を、別のスマホに表示させるわけだからな。【転写トランスファー】と【念話テレパシー】、それとスマホを複製合成させたら、書いた文章を別のスマホに書き写すことができるようになったんだ」


 【動作入力プログラミング】で条件設定を色々と調整したが、それでもメールの機能は、割合あっさりと実装できた。


 問題は別にあった。


「別の問題?」


「ああ。このスマホ、地球……俺のもといた世界のものなんだ。となると何が問題かというと、表示される文章が、地球の文字になるんだよ」


 この世界で使われている言語と、地球で使われている言語は異なる。


 実は俺やマチルダがしゃべっている言葉も、厳密に言えば日本語ではなく、この世界独自の言語だ。


 つまりこのスマホで入力できる文字は、日本語だが、俺たちの使っている文字は、また別の文字。

 

 当然、地球製品のスマホに、異世界語が搭載されてるわけはない。


 だから文字の入力はできるけど、それは異世界語ではなく、地球の言葉。


 マチルダたち現地人には、読むことも書くこともできないというわけだ。


 子供たちはマンガで日本語をある程度勉強しているから使えるけど、マチルダたち現地人は、地球の言葉を使えない。


 だから彼女たちにどうやって、メールを使えるようにするかに、結構手間取った。


「地球の文字はわからない。なら地球の文字を、この世界の文字に翻訳すればどうだろうか?」


「そっか! 【翻訳トランスレーション】の魔法ですね!」


 無属性魔法【翻訳トランスレーション】。


 これは自分の知らない言語を、自分の知っている言語に翻訳してくれる魔法だ。


 これをメール搭載スマホと一緒に複製合成(魔法と物体を合成すること)した結果。


 さっきのように、地球の文字で書かれている文章を、現地人が読むと、この世界の言葉としてスマホが自動的に翻訳。


 結果、マチルダも地球の言葉で書いてあるメールが読めるようになった……という次第だ。


「でもジロさん。これって、読めるようになっただけで、わたしたちメール打てないですよね?」


 そこもちゃんと考えてある。


「マチルダ。最近のスマホって凄いんだぞ。音声で文章を打つことができるんだ」


 俺はメール作成画面を開く。


 画面の下半分に、文字を打つキーボードが表示されている。


 その下の方に、マイクのボタンがあり、それを押す。


「ほら、メールに書きたい言葉を、しゃべってごらん」


「ええっと、【ジロさん大好き! 愛してます!】」


 大きな声ではっきりとそう言うマチルダ。照れるぜ。


 と、マチルダがしゃべった言葉が、スマホに表示される。


『ええっと、ジロさん大好き! 愛してます!!』


 と。


「最近のスマホはすげえよな。しゃべった言葉が一言一句間違いなく入力されるんだからな」


 手で文字を打つのが難しいため、現地人たちには、こうして音声入力で文字を打ってもらう。


【翻訳】が搭載されてるため、現地人がしゃべったこの世界の言葉が、地球語として変換されて、スマホに地球語として入力される。


 あとは送信した先でも【翻訳】が発動し、現地人たちが書いたメールを、読めるというわけだ。


「すごいです! これなら相手が電話に出れなくても、用件を伝えることができます!」


「そうそう。そういうときにメールを使ってくれ」


「はいっ! ええっと、じゃあ試しに何回かジロさんにメールを送っても、良いでしょうか!」


 スマホを胸に抱いて、マチルダが言う。


「ああ、良いぞ」


「じゃあ遠慮なく!」


 マチルダがメール送信画面を開いて、音声入力をオンにする。


「『ジロさん大好きです! 世界一愛してます! ジロさんのすべてが大好きです!』」


 マチルダから先ほどの音声がメールとなって、送られてくる。


「好きって言ってくれてありがとう。嬉しいよ。けど大声であまり恥ずかしいこと言わないように」


「はーい。ごめんなさいジロさん。えへへっ! 優しいっ! 『優しいジロさん大大だーいすきっ!』」


 マチルダから続々と、愛の言葉が書かれたメールが送られてくる。


「ジロさんジロさんっ! わたしのメールに、お返事書いてください!」


 わくわく、と期待に満ちた目を、マチルダが俺に向けてくる。


「わかったわかった」


 俺はスマホで、『俺も好きだよ』と返して送信する。


 するとマチルダのスマホが鳴る。


 彼女は素早くメールを開くと、とろん、と表情をとろかせて、嬉しそうに笑う。


「わたしこのメール、一生大切にします! 家宝にします!」


「大げさだなぁ」


「大げさじゃないですよ! ジロさんからの愛の言葉が書かれたメールですよ? 大事にするに決まってるじゃないですかー! もう絶対に消しませんよ!」


 と、そのときだ。


 ぴろりんっ♪


 と俺のスマホに、メールが入った。


 コレットからだった。


『ミテルゾ』


 ハッ……! と思って孤児院の方を見やる。


 するとそこには、コレットがスマホを持って、俺たちをじいっと見つめていた。


 ぴろりんっ♪


『ズイブント、ナカガ、イイヨウダネ』


 俺は素早くメールを打って返す。


『いやコレット、これはな別に……』と打っている途中で、コレットから猛烈な勢いで、メールがやってくる。


『ワカサ? ネエ、ワカサナノ?』


『違うから。おまえも十分若いから』


『180』


『人間にすると18だろ? 十分若いから!』


『100サイヲコエテル。オバアチャン。マチルダ。ピチピチ』


 結局メールだとラチがあかなかったので、俺はコレットの元へ行って、なだめるのだった。

書籍版、アーススターノベル様より今冬発売予定です。


来月には発売日などの詳しいことをお知らせできると思います。


では、次回もよろしくお願いいたします!

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