82.善人、子供たちと遊び、マチルダとイチャつく【前編】
いつもお世話になってます!
クゥから接待を受けてから、1週間後の出来事だ。
その日、俺とマチルダは、子供たちと、裏庭で缶蹴りをしていた。
俺が鬼で、子供たち+マチルダを捕まえる役である。
「あんちゃんつよー……ぉい」
「にぃ、つよすぎ。じちょうするべき」
「くそう……」
「ジロさん強い……さすがです!」
鬼姉妹とコン、そしてマチルダが、現在捕まっている。
残りはレイアとキャニス、そしてラビだ。
空き缶の周りに、丸い線が引いてある。
線の中央に缶があり、それを蹴ると子供たちの勝ちだ。
捕まった子供たちはその側の木の下で待機している。
「残りの子たちは……姿が見えない。探しに行くか」
俺は缶の側を離れる。
「ちゃーんす」
コンがすかさず、しゃきーんとポケットからスマホを取り出す。
スマホをぽちぽち……といじるコン。
「ん? コンちゃん何してるの?」
「しっ。まちるだ。おしずかに。にぃにばれてまう」
「あ、ごめんねコンちゃん」
恐らくつい最近実装した、あの機能を活用しているのだろう。
上手く活用してくれているみたいだ。やっぱり子供の方が、新しいものに対する順応しやすいのだろう。
さておき。
俺はキャニスたちを探しに出かける。
缶から結構離れた……そのときだ。
「いまだ! いくぞレイア-!」
「わかってるわよー!」
ガサッ……! と森の茂みから、キャニスとレイアが出現する。
キャニスは裸足だ。靴を脱いで戦闘態勢である。
一方でレイアは翼を広げており、凄いスピードで滑空する。
俺の横をぎゅぅん! と駆け抜けていくキャニスたち。
俺はふたりの俊敏さにはかなわなかった。
あっという間に、キャニスたちが缶の元へ駆けつける。
「かもーん。みーたちをたすけてくれぃ」
「れいあがたすけるわよ、コン!」
「いや、ぼくがたすけるです、コン!」
キャニスとレイアが、缶の前に到着する。
だが……。
「なによっ! れいあがけるんだもん!」
「ぼくがみんなのきゅーせーしゅになるです!」
缶の前で言い争いになるキャニスとレイア。
「みーのためにあらそわないでー」
とコンがいつもの調子で言う。
「なかがー……ぁ。いいねー……ぇい」
ふへっと笑う姉鬼。妹鬼は「姉貴、とめなくていいのか?」と言う。
「なかよしさんだからー……ぁ。じゃまするほー……ぉが、やぼだよ-……ぉう」
その間に俺はキャニスたちに近づく。
そしてひょいっとレイアたちを抱っこする。
「ふたりとも。捕まえた」
俺は抱っこした状態で、缶を踏む。
「あー! レイアてめー! おめーのせーでつかまったでやがるです!」
「なによ! キャニスがれいあのしょーりのじゃましたんじゃない!」
かーっ! と犬歯を向くキャニスたち。
「落ち着けってふたりとも。ケンカは良くないぞ」
俺はキャニスたちを連れて、捕まっているコンたちのもとへと、連れて行く。
と、そのときだ。
「たーっ」
キャニスたちに気を取られていると、視界の端から、小さな影が出てくる。
「ていやー」
かぁーんっ!
と、その子が缶を蹴った。
「「「おー!!!」」」
子供たちの歓声が上がる。
缶があった場所には、ウサギ娘が立っていた。
「ふぅ……ふぅ……かったのです-!」
額に汗を垂らすラビが、両手を挙げて笑顔を浮かべる。
「よっしゃー!」「れいあたちのかちじゃない!」「やったー……ぁね」「すげーぜラビちゃん!」
捕まっていた子供たちが、ラビに殺到する。
ちょこちょこ、とコンが俺に近づいてきた。
「にぃ。みーたちのさくせんがちだね」
きらん、とどや顔でコンが言う。
その手にはスマホが握られた。
そしてラビの首からも、スマホがぶらさがっている。
「コン。おまえか」
「さくせんさんぼーちょうですからね」
おそらくコンが、キャニスやラビに作戦支持を送っていたのだろう。
「俺の負けだ。みんな、強いなぁ」
俺がそう言うと、子供たちが俺のもとに集まってくる。
「まー、でもおにーちゃんもがんばったです」
「そー……ぉだよ。おいらたちは6にんだー……ぁもん」
「にぃはがんばったほうだよ。でもみーたちのほーがつよかった、それだけだよね」
「「「それねー」」」
子供たちが笑顔でハイタッチをかましている。マチルダがその光景を見て微笑んでいた。
ラビがちょこちょこ……と近づいてくる。
「あのあの……にーさん。ごめんねぇ……」
ラビが垂れたうさ耳を、さらにぺちょんと垂らして言う。
「なんで謝るんだ?」
よいしょ、とラビを持ちあげて抱っこする。
「だってにーさんにかっちゃったから……。まけたらくやしーのです……」
「ああ、そんなこと気にすんなって」
この子はほんと、優しい子だ。勝負事において、負けた人のことを思いやる優しい心を持っている。
「良いんだって。これは勝負だったんだ。勝ったら素直に喜べばいい」
「にぃさん……」
俺はラビの頭をよしよしと撫でる。
ラビが甘えるように、俺の胸元にほおずりしてきた。
うさ耳を俺の胸に押しつけて、安心しきった表情になる。
「コンがタイミングを指示して、キャニスたちにツッコませる。そんで揉めてるふりしてわざと捕まらせて勝つか……。凄い作戦だ。ラビが考えたのか?」
「おっとばれてーら」
「はぅ……。みぬかれてたのです~……」
まあでも見抜いていたと言うよりは、終わってみて気付いた感じだ。
「なんだー、ばれてたです」
「キャニス、あんたえんぎりょくなさすぎなのよっ」
いやでも、たいしたもんだ。
すでにあの機能を使いこなしてるようだ。
「えむぶいぴーはラビだね」
「えむぶい、ぺー? おいコン、なんですそれ?」
「さいゆーしゅーせんしゅのこと。もっともしょーりにこーけんした、いわばえいゆーだね」
「「「おー!」」」
子供たちが俺の周りに集まってくる。
俺はラビを下ろそうとしたが、きゅーっとラビが俺に抱きついて、離れない。
「降りないとほら、みんなが来たぞ」
「で、でもでも。にーさんのそばに、もっといたいのです……」
だから子供たちが、俺の体に登ってくる。
「ラビ、やっぱおめーすげーです!」
キャニスが俺の肩に。
「みーはしってた。らびはすげーと。そしてそのすげーらびは、みーがそだてた」
逆側の肩にコン。
「れいあをおとりにしたんだもんっ! かってとーぜんよ!」
頭の上にレイアが。
「ラビちゃんかっけー……ぇい」
「ラビちゃんすごいぜ!」
「ラビちゃん、とってもかっこよかったよ!」
鬼姉妹が俺の胴体にしがみつく。マチルダは「いいなぁー」と羨ましそうに子供たちを見ていた。
みんなが俺の体に登って、胸の中にいるラビを褒める。
「すごいぞラビ。よくやったな」
「「「よくやったー!」」」
するとラビが、「えへへっ」と嬉しそうに笑う。
「みんなのおかげなのですっ! みんながいなかったら、かてなかったのです! みんな……ありがとー!」
「「「わーっ!」」」
こうして缶蹴りは子供たち勝利で終わったのだった。




