79.善人、エルフ嫁に電話の使い方をレクチャーする
いつもお世話になってます!
スマホ(未完成)を作った翌日。
俺が1階のホールへ行くと、そこにラビがいた。
「あ~。にーさぁん」
にぱーっ、と笑って、ラビが俺に近づいてくる。
ふわふわとした茶髪に、垂れ下がったロップイヤー。
最近冬になってからか、厚着にプラスして白いタイツをはくようになった。
ててて、と俺に近づいてくるが、「あうっ」と途中で転ぶ。
俺はラビの側によって、よいしょっ、と抱き上げる。
「大丈夫か?」
「へーきなのですっ。ぐすん……」
俺はラビの膝に、初級光魔法(回復魔法)をかける。
「えへっ、ありがとうなのです!」
「ラビ、我慢しなくて良いんだぞ」
「でも、でもでも……にーさんに悪いかなぁって」
この子は人一倍優しい。俺に治癒魔法を使わせることを、負担だと思ったのだろう。
「そんなことない。悪いなんて思ってないからな。それにいつも言ってるけど、子供が気を遣う必要なんてないぞ。な?」
「はいなのです……!」
ラビは笑顔になると、俺の胸にきゅーっと抱きついてくる。
「それでラビ、何してたんだ? 他のみんなは?」
「はうっ! 忘れてたのですっ!」
あわわ、とラビがポケットからスマホを取り出す。
「スマホ?」
「はいなのです! コンちゃんとおでんわごっこしているのです!」
先日、俺は未完成バージョンのスマホを作った。
子供たちにそれを手渡し、それを使って遊んでくれと頼んである。
使い勝手とか、不具合とかのテストを兼ねているわけだ。
「そろそろコンちゃんから、おでんわがあるはず……」
プルルルルルッ♪ プルルルルルッ♪
と、スマホが鳴り出した。
「はうっ! コンちゃんから、おでんわがかかってきたのです!」
俺の腕の中でラビが、あわあわ、と慌て出す。
「大丈夫か? 使い方わかるか?」
「わかるのです。コンちゃんからいっぱいれくちゃーをうけたのです……」
むむむ、とラビが真剣な表情になる。
取るのを手伝おうと思ったが、やめておいた。この子の成長を邪魔しちゃいけないしな。
「たしかこの……おでんわマークをおすのです……。えいやっ」
ラビが通話ボタンを押す。
ロップイヤーの下に「うんしょ」とスマホを持って行き、「もしもーし」
と声を張る。
「はいなのです。……うん。……うん。……ええっ!?」
ラビの顔が真っ青になる。
「どうした?」
「こ、コンちゃんから……電話で……。ままがこうつうじこおこして……あいてにたがくのばいしょーきんを、はらうひつようがあるだって……」
……コン。
あのお茶目キツネ娘め。
あの子がからかうのが好きなのは知っているが、優しいラビにその冗談はしゃれにならないと思う。
あとできちんと言っておかねば。
「はわわっ、どどど、どーしよーにーさぁん……」
「いや大丈夫だろ。おーい、コレットー」
俺は2階に向かって声を張る。
「なぁにー」
ひょいっ、とコレットが、2階の洗濯場から出て、吹き抜けになっている廊下から、顔を出す。
「ままー!」
ぱぁっ! とラビが明るい顔になる。
コレットが1階に降りてくると、ラビが俺から飛び降りて、彼女に向かって走って行く。
「よいしょー。どうしたのラビ? 何か怖いことあったの?」
コレットがラビを抱き上げて、頭をよしよしと撫でる。
「ままがね、くるまで100キロだしてこーつーじこをおこしたって。いしゃりょうで100億円だってぇ~……」
「あら大変。……って、私、車なんて最近乗ってないわよ。ね、ジロくん」
「ああそうだな」
というかコレットには、ハンドルを握らせないことにしているし。
理由は単純。コレットはハンドルを握ると、コンがついたウソのように、めちゃくちゃに速度を出して危ないからだ。
「じゃあままは、じこをおこしてないのです?」
「もちろんよ。誰かな、そんな嘘をついたのはっ」
すると2階から、にゅっ、とコンが顔を出す。
「みー」
「こらっ。コン。ラビが泣いちゃったでしょっ」
「おーそーりー。ラビをかなしませるつもりはなかった」
コンがててて、と階段を下って、ラビの元へ行く。
コレットがラビを下ろす。
「ごめんね」「うんっ」
コンが謝ると、ラビはにこっと笑って許していた。
「うえでみんなで、ぼーどげーむしよう」
「はいなのですっ!」
コンはラビと手をつないで、2階の子供部屋へと、戻っていた。
後には俺と、コレットが残される。
「ジロくんジロくん」
コレットがすすす、と俺に近づいてくる。
「さっきラビが持っていたのって、なぁに?」
そう言えばコレットには、電話のことを伝えてなかったな。
俺はポケットから、また別に作っておいたスマホを取り出して言う。
「これは電話だ。これを使うと遠くにいる人と話せるようになるんだ」
「ほほう。ジロくんの世界の便利アイテムですな」
コレットは俺が転生者であり、前世が地球人であることを知っている。
「遠くの人とお話しできるのね。とっても便利ねこれ」
「ああ」
「これがあれば妻を心配させることもなくなるわけだ」
にこっ、とコレットが俺を見て笑う。
「……ほんと、あのときはごめんな。だからこそ作ったんだよ」
コレットの美しい金髪を撫でる。
山で遭難したとき、俺はコレットをはじめとした、孤児院の子たちに迷惑をかけてしまった。
後になって先輩に聞いたのだが。
コレットは、子供たちの前では、気丈に振る舞っていた。
だが誰もいない場所で、俺の不在に心を痛めて、泣いていたらしい。
「……まったくだよ。あのときはとっても心配したんだからね。もう二度と、ああいうことはしないでね」
「うん。ごめん。で、だからこその電話なんだよ」
「なるほどなるほど」
コレットにスマホを手渡す。
「どうすればその……デワン? できるの?」
「電話な。単純だよ」
俺はコレットともにソファに座る。
コレットが俺の右腕に密着してくる。ふにゅっ、と柔らかく大きな乳房がぶつかる。
「近くないか?」「そんなそんな」「わざと当ててないか?」「まさかまさか」
楽しそうに笑いながらコレットが言う。
「ジロくん先生! そんなことより早く電話の使い方が知りたいです!」
コレットが俺の腕をつかんで、ぐにぐにと胸を押しつけながら、元気よく言う。
「えっとだな。電源のボタンがここについてるんだ。これをまず押す」
「ふむふむ」
コレットが片手でスマホを、もう片方の手で俺の腕をつかみながら操作する。
「押したよ。それで?」
「次にこの緑色のアプリアイコンがあるだろ?」
画面上にスマホの待機画面が表示される。
様々なアプリのアイコン(まあほとんど使えないので見かけだけだが)が並ぶ。
「あぷり? ……あぷりこっと?」
「このたくさん並んでいる四角のことだ。緑色の四角を押すんだ」
「むむむ……難しいねこれ」
「まだ難しくないだろ……」
画面上に電話アプリ(緑のアプリアイコン)はひとつしかない。
「これ? これかなっ?」
「それは電話帳。こっちだ」
「んー。どれかわからないなー」
ちら、っとコレットが俺を見上げてくる。
にこっと笑って、
「えいっ」
コレットが俺の膝の上に、乗っかってきた。
ふにゅっとしたおしりの感触が、桃の上に乗っかる。
「どうしたんだいきなり?」
「後からさ、ほら、ここだよーってレクチャーして欲しいなあって。ね、先生♪」
あれか。ゴルフとかで、コーチが後からクラブを握って、打ち方を教える。
みたいなあれか。
「了解」
俺はコレットの細い手をつかむ。白くて、すべすべとした肌だ。
どうして女の子の肌って、こんなにすべすべしてるんだろうな。
「ここな。ここを押すんだ」
俺はコレットに後から覆い被さり、彼女の手を持って、ここだと教える。
「なるほどわかったわ」「そうかわかったか」「ジロくんの硬い胸板があたって、どきどきするねっ」「コレット……」
どうにも真剣に俺から教えを請おうとするより、俺といちゃつきたいと思ってるらしかった。
「冗談冗談。ここね?」
コレットが電話アプリをぽちっと押す。
「あとはこの通話のマークのボタンを押すだけだ」
今のところ、電話番号を入力して、好きな相手と通話できる……みたいな機能はついてない。
登録したひとつの相手としか、通話できないのだ。
「ここを押せばジロくんと電話できるのね?」
「そうだ。試しにやってみるか」
「んっ。そうだね」
コレットが俺の膝に載った状態で、通話ボタンを押す。
俺のポケットに入っていた、もう一個のスマホがなる。
「…………」
俺はポケットからスマホを取り出して、通話ボタンを押す。
「もしもーし」【もしもーし】
と、目の前と、左耳から、コレットの声が聞こえてきた。
「コレット……。これ、遠くに離れてないと意味ないから」
「わっ。ハコの中からジロくんの声が聞こえるっ!」
コレットのエルフ耳がぴくぴくと動いた。
「次はちょっと離れたところからかけてみるわねっ」
コレットは俺から降りると、ててて、と歩く。
1階ホールからガラス戸を開けて、裏庭へ行く。
そして電話がかかってきた。
通話ボタンを押して出る。
【あー、こほんこほん。聞こえますかー?】
裏庭からコレットが手を振りながら、通話してくる。
「ああ。問題なく」
【本当かなぁ~?】
コレットがからかうような調子で言ってきた。
【このお電話先が、本当にジロくんなのか、テストする必要が、あるわねっ!】
楽しそうなコレット。
「いやだからこれ、まだ俺としか通話できないし。別の人からかかってくることないと思うんだが……」
【だーめっ。本当にジロくんからの電話なのか、調べる必要があるのっ! いいわねっ!】
意外とコレットって頑固なんだよなぁ。
「……わかった」
【ふふっ。ではいまから、あなたにジロくんしか知らない質問をします。それに答えられれば、ジロくんだと認めましょう】
「了解だ」
【では第一問! ジロくんが子供だったときの、私への呼び方は?】
これは簡単だ。
「先生、だろ」
【正解! では第二問。ジロくんの一番愛している人の名前をお答えください!】
「…………」
【お答えください!】
「…………」
【あれ答えられないの? なら電話の相手はジロくんじゃないのかな? 本当にジロくんなら、一番愛してる人の名前、言えるよねっ?】
たぶんそれを言わせたいがためにやっているのだろうな……。
結構子供っぽいところあるんだよ、うちのエルフ嫁。
「……コレットです」
【聞こえないよジロくん。もっと大きな声で。誰を一番愛してるのっ?】
「……コレットだよ」
無論アムも先輩も、マチルダも桜華も好きだ。
だがコレットの求めている回答は、さっきのとおりになる。
【ふふっ、正解ですっ。第3問! そのコレットが大大だぁいすきな、男の人の名前は何でしょうかっ?】
「……コレット。子供じゃないんだから」
【あら子供ですよ。まだ人間で言うと私は18なんですからねっ】
コレットは結構、自分の年齢を気にする。人間で言うと18だが、実際には180歳なのだ。
【さあ答えてジロくん。私が大好きな人の名前をっ!】
「……今ジロくんって俺の名前呼んだだろ」
【お答えねがいたいっ】
俺はため息をついて、「ジロくんか?」答えた。
すると通話が切れる。
コレットが裏庭から、建物の中へと入ってくる。
満面の笑顔を浮かべて、俺に正面から抱きつてくる。
「正解っ!」
花が咲くような笑みを浮かべて、コレットは俺にキスをするのだった。
次回もよろしくお願いします!




