77.善人、子供と触れあい嫁たちとイチャつく【前編】
いつもお世話になってます。
それは秋も深まった時期。
山でのピクニックを経て、桜華との中が親密になってから、一週間が経過した日のできごとだ。
その日は晴れていた。
孤児院の庭では、子供たちが元気に、ドッジボールをしている。
四角く囲んだラインのなかでは、5歳児くらいの小さな子供たちが、ボールを投げ合っていた。
「くらいやがるです、コン! てりゃー!」
元気いっぱいにボールを投げたのは、犬の獣人、キャニスだ。
りりしい目つき。口元から除く犬歯。そして膝小僧には、絆創膏が貼ってある。
最近寒くなったというのに、キャニスはまだ半ズボンだ。
「みーがとる。ごっどはんどくらっしゃー」
キャニスが投げたボールを、正面からキャッチしようとするは……銀髪のキツネ獣人、コンだ。
いつも眠たそうな半眼。ふわふわとしたキツネの尻尾がトレードマーク。
最近寒くなってきたからだろうか、尻尾の毛の量が増えている気がする。
コンはキャニスの投げたボールを、正面からキャッチ……しようとして、普通にあたった。
「あぅん」
コンにあたったボールが、放物線を描いて、天高く飛ぶ。
「しもうた。みーがやられてしまう。だれか、だれかおらぬのかー」
「はっは! ぼくのかちでやがるですー!」
キャニスが勝ち誇った笑みを浮かべた、そのときだ。
「あまいわっ! れいあがいるのよ!」
バサッ……! と翼を広げて、銀髪褐色肌の少女が飛び上がる。
腰のあたりから竜の翼をはやしたその少女は……何を隠そう、ドラゴンの少女、レイアだ。
コンの体にぶつかったボールを、レイアが空中で見事にキャッチ。
「れいあ。なーいす。そのままキャニスをこうげきだ」
「わっかってるわよ! ていやー!」
レイアが上空から、凄い勢いで、キャニスめがけてボールを投げる。
「! おいばかレイアっ! つよすぎんぞです!」
「しまった! スキル使っちゃったわ!」
ちょっと強すぎるな……。
と思ったので、俺は悪いと思いながら、コートに入る。
キャニスの前に立ち、俺は魔法を発動させる。
無属性魔法【結界】
これは、自分に防護膜を張り、相手からの攻撃によるダメージを吸収する魔法だ。
俺は結界を自分の手に発動させ、猛スピードでやってくるボールに向かって手を伸ばす。
「よっと」
ボールをキャッチする。
凄まじい勢いだ。
大人の俺でものけぞるほどの勢いだが……結界が発動したおかげで、俺はなんとか、レイアからの痛烈な弾丸を、キャッチすることができた。
「「「おー!!」」」
コート内にいたキャニス、レイア、そしてコンから、歓声が上がる。
「すっげーぞおにーちゃんっ!」
ぴょんっ、とキャニスが俺の肩に乗っかってくる。
「レイアのレーザービームうけとめるとは、さてはおぬし、いちろーかな?」
コンも肩に乗っかって、俺を見上げてくる。
「あの人はレーザービームを放り投げる方だろ」
「あえてまちがえるあそび」
きらん、とコンが目を輝かせる。
この子は俺と同じで転生者、つまり地球からこの異世界へと、生まれ変わった存在である。
なので前世の知識が、コンにはあるのだ。
「あの、あのあの……にーさんっ!」
そのときだ。
コートの外で座っていた少女が、ちょこちょこ、と俺の方へ駆け寄ってきた。
「ん? どうした、ラビ」
俺はしゃがみ込んで、やってきた少女に尋ねる。
垂れ下がった目とうさ耳。
ふわふわとした髪の毛が特徴的なその子は、ラビ。
「にーさん、けがはないのです? すっごくはやいぼーるうけとめて、ばちーんってすっごいおとがして、いたそーだったのです……」
きゅーっとラビが目を><にして、俺に問うてくる。
「大丈夫だラビ。魔法で衝撃を吸収してたからな」
「そっかぁ~……。よかったのです……」
ほっ、と安堵の吐息を漏らすラビ。
「ラビは優しいな」
俺はラビの頭を撫でる。
「えへっ」
ラビが嬉しそうに笑みを浮かべると、もじもじ、と身をよじる。
「へいラビ。ゆーもにぃにのりたいのかな?」
肩に乗った状態のコンが、ラビを見下ろしながら尋ねる。
「は、はいなのです! あのぉ……にーさん?」
「ん。いいぞ」
俺はラビをよいしょとだっこする。
これで両肩にキャニスとコン、正面にラビ。そして……。
「れいあをなかまはずれとは良い度胸じゃない!」
「みー!」
背中にレイアがしがみついてくる。レイアの頭には、黒猫のクロが載っていた。
「にーちゃんはぁー……。にんきものだなぁー……ねぇ」
「…………」
そんな風に囲まれていると、また俺に近づく少女の影がふたつ。
赤髪の双子だ。
長髪の方が、妹のアカネ。
短髪の方が、姉のあやね。
特徴的なのは、額から生えている角だ。
彼女は鬼という、人間とはまた別種の存在だ。
「あんちゃー……ん。おいらたちもー……ぉ」
「あ、アタシは、べつに……」
「素直じゃー……ないんだからねぇ」
けらけらと姉が笑い、アカネがうっさいと追い払う。
両足にあやねとアカネがしがみついてきた。
「う、動けん……」
総勢で6人+1匹にしがみつかれているので、重さで動けなかった。
「おめーら! おにーちゃんがこまってんだろです! はなれろやです!」
「そのとーり。みんな、にぃのてをわずらわせちゃいけないよ。はなれようか」
「コン、おめー……さてはおりるきが、ねーな!」
「そーゆーキャニスも、おりるきをかんじられぬ」
どちらも降りるつもりはないみたいだ。
「ぼくはおにーちゃんのうえにまだいたいです。たかいところのけしき、すきでやがるからです!」
「みーはにぃにくっつくじかんですゆえ、くっついてるだけ」
「両者いっぽもー……ぉ。ゆずらないねー……ぇ」
「あ、あのあの……ら、ラビがおりるのです」
ラビが俺を見上げて言う。
「いや、良いよ。よーし、このまま孤児院の中へ戻るぞ。お昼ご飯の時間だからな」
「オー! もーそんなじかんです?」
「ときがたつのははやいものだ。こーいんびーむのごとし?」
「矢、のごとしなのです!」
ラビがそう言うと、子供たちから歓声が上がる。
「「「ラビは……かしこい!」」」「えへー」
と、そのときだ。
「はいみんなー。ご飯の時間ですよー」
孤児院の方から、美しいエルフが、こちらに向かって歩いてくるではないか。
女性にしてはやや高めの身長。
長くつややか金髪に、蒼穹を彷彿させる青い瞳。
緩やかな服を押し上げる、大きすぎる乳房。
そして美しい金髪の間からにゅっ、と伸びるのは、細く長いエルフ耳。
「おねーちゃんっ!」「まみー」「ままー!」
ぴょんっ、と獣人の子供たちが、俺から降りて、エルフへ向かって走って行く。
「おねーちゃんっ! はらへってやがるです! はやくおひるがくいてーです!」
「へい、しぇふ。きょーのめぬーは?」
コレットはニコニコ笑いながら、しゃがみ込んで、獣人たちの頭を撫でる。
「今日はなんと……カレーです!」
コレットの言葉に、子供たちが「「「やったー!」」」と歓喜の声を上げる。
「かれー!」「かれーなう」「ビーフ? まま、ビーフなのですっ?」
ひゃあっ! と獣人たちが両手を挙げて喜ぶ。
鬼たち、そして竜も、手を上てカレーだと喜色満面。
「チキン、ビーフ、シーフードの三種類を用意してるわ」
「「「わー!」」」
「もちろんお野菜も入ってるから、みんな残しちゃダメよ?」
「「「…………」」」
「……残したらデザートのプリンは、お預けよ」
ぼそっ、とコレットが言うと、
「しゃーねーな」「ぷりんをひとじちにとられちゃね」「お、おやさい、がんばるのです!」
するとコレットが淡く微笑むと、
「うぬ、よろしい。じゃあみんな、おてて洗って食堂へゴー!」
「「「おー!」」」
子供たち全員が、手洗い場へ向かって走って行く。
「ジロくんジロくん」
コレットが俺に近づいてくる。
「どうした?」
「さっきは……モテモテでしたな」
俺を見上げながら、コレットがそんなことを言う。
「美少女たちに、囲まれてましたな」
からかうように、ほほえみながらコレットが言う。
「うらやましい」
「コレットもさっき美少女に囲まれてただろ?」
「んーん。そっちじゃなくてね」
じーっ、とコレットが物欲しそうに、俺を見てくる。
「んっ」
立ち止まり、コレットが両手を広げてくる。
「どうした?」
「もうっ。ジロくんの鈍感っ」
コレットが向こうから、俺に抱きついてくる。
柔らかな乳房と、花のような良い香りが、鼻孔をつく。
「お嫁さんがさみしそうにしていたら、自分から抱きついてあげないとだめよ?」
ぐにぐに、とコレットが大きな乳房を押しつけながら、教えを授けるように言う。
「そうだな。すまんコレット」
たぶん子供たちばかりにかまっていたから、自分もかまってほしくなったのだろう。
この子は普段しっかりと先生しているのだが、俺の前では年相応の少女、しかも結構甘えん坊だったりする。
「あー! おねーちゃんがおにーちゃんをどくせんしてやがるですー!」
手を洗い終えたのキャニスが、俺を指さして叫ぶ。
「それはよくない。どくせんきんしほーいはんってやつだ」
「なぁ! コンおめーがなにいってっかわっかんねーけど、とにかくそーゆーこったな!」
「そーゆーこったな」
キャニスとコンが、ぴょんっ、と抱きついてくる。
「おっと二人とも、手はきちんと洗った?」
コレットが子供たちに問う。
「「ばっちり!」」「きちんと石けん使った?」「「ぎくぅ」」
コレットは吐息を吐くと、俺からキャニスとコンを回収。
「石けんを使わないとお腹痛い痛いしちゃうからだめよ。はい、やり直しっ」
「あーん、めし~……」
「あーん、にぃ~……」
キャニスたちを連れて、コレットが手洗い場へ向かう。
「ジロくん。先いっててー」
「あいよー」
子供たちの前だと、先生モードに切り替わるコレット。
切り替え早いな、と苦笑しながら、俺はラビたちを連れて、孤児院へと戻ったのだった。




