75.善人、母鬼と一緒に閉じ込められる
いつもお世話になってます!
俺たち孤児院のメンバーで、天竜山脈へ遠足に行ってから、2日ほどが経過した。
「ん……。朝か……」
むくりと身体を起こす。
場所は孤児院一階、俺やコレット、先輩やマチルダたちが共通で使っている大部屋。
そのベッドルームにて、俺は目を覚ます。
「いてて……腰いてえ」
起きてすぐ感じたのは、激しい腰の痛みだ。俺の年齢は36。
もうすぐ40に足を突っ込むという年齢。若くもない、かといって年老いてもないという年齢。何が言いたいかというと、腰痛持ちにはまだ早い年齢だといいたい。
なのに腰が痛いのは……まあ、うん。激しかったからだな。何とは言わないが。
「……みんなもう仕事行ってるのか」
壁掛け時計を見ると、9時だ。
今日の非番は俺と、そして桜華。ほかの恋人や嫁たちは、朝から孤児院の職員として働いている。
「……元気だなみんな。これが若さか」
俺は服に着替えながら、ここ数日のことを思う。
2日前、俺は桜華とともに、天竜山脈で遭難にあった。
とは言っても地図はあったので、らくらく下山できてことなきを得たわけだ。
しかし子供たちと、何より職員のみんなに心配をかけてしまった。
ほんと、すまないことをした。
……そしてその日の夜は、その、あれだ。結構激しかったわけだ。
残されていた職員、コレットとアムとマチルダ、そして職員ではないものの先輩も、俺の身に危険があったことで、いつも以上に俺を求めてきたのである。
何せ相手は複数で、こちらは1人。当然こっち側が不利。
竜の湯という体力回復チートがあったとしても、結構な重労働だった。
そしてその翌日、つまり昨晩も引き続き彼女たちに求められた。
嫁がふたりに、恋人がふたり。合計で四人いるのだ。一夜で彼女たちが満足するわけもなく……。
結局2日にまたいで、俺は彼女たちの要求に応え続けたわけである。
「腰が……いてて……腰が……」
俺はへろへろになりながら、ベッドから降りる。
「……飯の前に風呂入っておくか」
俺はベッドルームを出て一階のホールへ移動。
今日は天気が良いので、子供たちは裏庭でサッカーをしていた。
マチルダとアムが元気よく、子供たちとボールを追いかけている。
その表情は心なしかつやつやしているようだ。
……昨日の今日で、ホント、元気な子たちである。
俺は渡り廊下をぬけて、孤児院の裏にある温泉、【竜の湯】へと到着した。
更衣室で服を脱ぎ、俺は風呂場へと向かう。
そこには日本式の露天風呂が広がっている。大きな湯船。石が敷き詰められた床。
壁側にはシャワーがいくつもついていて、その前にはヒノキのイスが並んでいる。
俺は適当にいすに座り、シャワーの栓をひねる。
軽く身体を洗おうと思い、スポンジに手をかけた……そのときだ。
「おに~さんっ」
スポンジが横から、誰かに取られたのだ。スカッ、と俺の手が空を切る。
手の方を見やると……そこにいたのは、小柄な黒髪少女だ。
「弐鳥。おはよう」
「えへへっ。おはよ、おに~さんっ」
そこにいたのは鬼の母、桜華の娘、次女の弐鳥だった。
小柄で身体のラインもメリハリはないが、ぷりっとしたおしりが可愛らしい。
小柄だがやせてなく、肉付きもいいので、太っていると言うより、全体的にぷにっとしてるようである。
「きゃぁん、おにーさんのえっち~。嫌らしい目つきであたしのことみて~。もぉ~」
嬉しそうに弐鳥がいやんいやんと身をよじる。
「別にいやらしい目では見てない」
弐鳥は身体にタオルを巻いてるしな。
「んも~。そういう嘘いらないよ~? おにーさんになら、あたしの初めてあげてもいいっていっつもいってるのに~」
ぷくーっと頬を膨らませる弐鳥。
「そういうのはもっと大切にしろよ」
「大切にしてるもんっ。熟考の上に、おにーさんにもらって欲しいって思ってるんだからっ」
「……もうちょっといろいろ見てから考えような。人生まだまだこれからだろ?」
むー、と弐鳥はむくれたあと、「そだねっ」ニパっと笑う。
「おまえ今日非番だもんな。風呂入りに来たのか?」
「うんっ。まー、ううん」
弐鳥はうなずいたあと、首を横に振るった。どういうことだよ……?
「ちょっと今のあたしは、てーさつぶたいなんだな~」
「偵察? なんの?」
「えへっ、ひ・み・つ~」
話をはぐらかした後、弐鳥は「お背中流すよ~」といってスポンジを手に取り、こしこしと俺の背中を洗ってくれた。
ややあって洗い終えて(前も洗おうとしたので止めた)、シャワーで泡を洗い流す。
「ありがとう」
「ううん、いいよ~。じゃああたしもうあがるね~」
ばいびー、といって弐鳥がその場を後にする。
俺は立ち上がって湯船に移動する。
「あ゛ー……。疲れがとれる」
ここ湯船の中には、竜の体液が含まれている。
竜とは、孤児院で保護してるドラゴンのことだ。
ドラゴンの体液(血や汗)には、あびた人間の体力や魔力を完全に回復する効果を持つ。
ドラゴンの子供、レイアがこの温泉に毎日浸かっているので、湯にドラゴンの体液が多量に含まれる。
結果、このお湯には、ドラゴンの体液と同じ効果、完全回復能力を獲得しているというわけだ。
ここ竜の湯は、ケガ病気すらも治すという、とんでもないチート温泉である。
昨日の疲れ、身体の痛みが、きれいさっぱりとなくなる。
「ふぅ……」
しばしお湯の心地よさに身を任せていると、ふと、気づく。
「……あれ? 弐鳥って、湯船に入っていたか?」
俺がここへ来たとき、だれもいなかった。
身体を洗おうとしたら弐鳥が来て、俺と話した後、出て行った。
そうすると弐鳥は、俺がここへ来てから、温泉を訪れてたことになる。
湯船にも浸からず、この温泉に何をしに来たのだろうか……?
「偵察っていってたな。何のだ?」
☆
風呂から上がり、更衣室へ行くと、先客がいた。一花だった。「おい」
俺はタオルで前を隠しながら、長身長髪の黒髪の乙女に言う。
「ここは男性更衣室だぞ……」
「まあまあ兄ちゃん、そーきになさんな」
かっかっ、と一花が楽しそうに笑う。
「いや気にするって。出て行ってくれよ、着替えられないだろ?」
「アタシのことはお気になさらず。路傍の石みたいに無視して、さっ、お着替えしてくれよ」
どうぞどうぞ、と一花が俺に手をさしのべてくる。
なんなんだ……?
まあ端っこで着替えればいいか。
俺は衣服を入れておいたカゴに手を伸ばして……気づく。
「あれ?」
おかしい。探すが、見当たらない。
場所間違えたか……?
と思って脱衣所のカゴを全部見て回ったが……ない。
「ない……」
「おや、どうしたんだい兄ちゃん?」
「……俺の着替えがなくなってる」
どこを探しても、パンツも服も、バスタオルすらなかった。
「そりゃ困ったねぇ」
「ああ……」
かえの着替えはここにはない。俺の部屋のタンスの中だ。まさかすっぽんぽんのまま行くわけにはいかないし……。
とそこで気づいた。そうだ、ちょうどいいところに一花がいるじゃないか。
「一花。悪いんだけど、部屋から着替えを持ってきてくれないか?」
すると一花は、
「あー、兄ちゃん悪いんだけどさぁ。アタシ兄ちゃんの部屋に入ったことないから、服の場所わからないよ」
……そういえばそうだ。
一花たち鬼は、二階の西側の部屋を基本住居スペースとしている。
俺のスペースである一階には、俺や、恋人たちしか入ったことがない。
「じゃあ悪いがマチルダたちを呼んできてくれないか?」
「んー、なんかマチルダちゃんたち、子供たちつれて森へお散歩いったみたいさね」
「なんだって。……って、そうか。午前中のレクリエーションは散歩だったな」
となると本格的に頼む人がいなくなったわけだ。
「どうするかな……」
すると一花はにやりと笑って言う。
「別に困ったことないだろ?」
「え?」
「だって今、子供たちもコレットちゃんたちもいないわけだろ? なら兄ちゃん、自分で取りに行けるじゃないかい?」
そう言われると……そうか。
「しかしこの格好でか?」
「その格好でさぁ」
……どうしようか。
しかし確かに一花の言っていることは正しい気がする。彼女じゃ服の場所がわからないなら、自分で取りに行くしかない。
タオル一丁の格好でも、確かに人目がないのなら(一花はいるが)、この格好のままいっても大丈夫……か。
「アタシ、先行して人がいないか確認してくるよ。兄ちゃんは後からついてくる。それでどうさね?」
「……わかった。頼む」
「んっ。了解」
かくして俺はタオル一丁という格好で、自分の部屋へ戻ることになった。
一花に先に行ってもらい、俺はその後を追う。渡り廊下をつたって孤児院の建物へと戻る。
1階ホールには、先行した一花と、それと弐鳥がいた。
「んじゃ、準備できてるんさね?」
「もうばっちり。雫っちのお香もしっかり炊いておいたから、もう入っただけで元気百倍だよっ」
「そいつぁ重畳重畳。おっと兄ちゃんだ」
一花がひらひら、と手を振るう。
「だいじょぶさね。弐鳥以外だれもいないよ」
「弐鳥がいるだろうが……」
「まあまあおにーさん。だいじょうぶっ、あたしほら、男の人の裸みてもきゃー、えっちー、みたいにならないからっ」
この子たちの男への慣れっぷりが逆に怖い今日この頃である……。
「でも安心して。あたし未通だから」
「アタシもまださね。いつでも待ってるぜ兄ちゃん」
「何をどう安心しろと……?」
それはさておき。
「早く行ったらどうだい? 子供ら帰ってくるかも知れないさね」
「あ、ああ……そうだな」
俺は当初の目的を忘れるところだった。部屋へ小走りで向かう。
「後は部屋まで一直線だから、アタシはここで待ってるよ」「あたしも~」
背後に鬼娘たちの声がする。
意味はよくわからなかったので、特に気にしないことにした。
ドアを開けて中に入るとき、
「「じゃあ、よろしくね~」」
と、一花たちが俺にそういった。
「よろしく……?」
バタン、とドアが閉まる。
俺たちの部屋は3ブロックに分かれている。入ってすぐはリビングスペース。
ソファがあったり、本棚があったり、ウォーターサーバーや冷蔵庫もある。
そしてドアを挟んで壁向こうは、ベッドルーム。今朝俺がいた場所だ。
そのまた向こうが俺の恋人たちの個室になっている。という構造だ。
俺の個室はない。ベッドルームが俺の自室になっている。
俺はリビングスペースを抜けて、ドアを開け……ベッドルームへと入る。
すると……そこには、
「……お待ち、してました」
「……。……は?」
そこにいたのは、一花たちの母、鬼の桜華だった。
黒髪に黄色い肌。ぱっと見で人間、それも日本人にしか見えない、絶世の黒髪美女。
その彼女が……その、あれだ。
紫色の、スケスケとしたエロい格好で、俺を出迎えてくれた。
「は? え? どういうことだ……?」
桜華は紫色のベビードールしか身につけてない。下着の上下もつけず、うっすらと布地の向こうに、見えてはいけないものがみえてしまう。
俺は目をそらすが、ととと、と桜華が、向こうからこちらへやってくる。
「じろーさん……」
俺の手を握ってくる桜華。その間に俺は手を取られて、「失礼します」
そう言って、俺の指から……指輪を回収された。
「スキルがあると……十分に楽しめませんから……」
「えっ……? あっ!」
俺が取られたのは、桜華からもらった指輪。鬼に命令を下し、言うことを聞かせることのできるスキルの入ったそれだ。
「……失礼します。一花」
「あいよー」
がちゃっ、とベッドルームのドアが開く。
「……じろーさん、ごめんなさい」
ぺいっ、と桜華が、スキルの指輪を、一花めがけて投げる。
一花は指輪を「よっと」とキャッチ。
「そんじゃあとよろしく。他の人たちには上手く言っとくさね」
「ちょっ、一花。おまえらもしかして……」
「ごめん。兄ちゃん。そーゆーことさ。んじゃねー。ごゆっくり」
にやりと意味深に笑うと、一花が部屋を出て行く。
俺は一花の後を追おうとしてベッドルームのドアに手をかけるが。
がちゃ……と回して、ドアを押し開けようとするが……ドアが開かない。
【あー、悪いね兄ちゃん。結界張らせてもらったわ】
【鬼の術、鬼術っていう特殊な術なの。鬼にしかこの結界やぶれないから、ごめんね~】
ドア越しに、一花と弐鳥の声がした。
……弐鳥もぐるだったわけか。
偵察とは……俺が出てくるタイミングを探るため。
「…………」
「じろーさん」
ふにゃり、と背後から、とてつもない柔らかな物体が当たる。
振り返らなくてもわかる。桜華が……俺に抱きついているのだ。
「……強引なまねして、すみません。けど、わたしもう、もう」
ぎゅーっと桜華が俺を抱きしめる。そして、俺の耳元で……ささやいた。
「……この間、山でできなかったこと、してください」
お疲れ様です。
次回で掌編終わりそうです。
次回更新は、今日の夜を予定してます。
あといま新連載やってます。まだの方は是非一度読んでくださると嬉しいです!
ではまた!




