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【完結】善人のおっさん、冒険者を引退して孤児院の先生になる 〜 エルフの嫁と獣人幼女たちと楽しく暮らしてます  作者: 茨木野


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73.善人、鬼の母と一夜を過ごす

【お知らせ】

この度このお話、アーススターノベルス様から書籍化される運びになりました。

皆様のおかげで夢である小説家になれました。ありがとうございます!


冬ごろ(年内)刊行予定です。

詳細は活動報告の方をご確認ください。



 桜華と一緒にテントに寝ることになった、その30分後。


 俺と彼女は、川の字になって眠っている。

「…………」

「…………」


 お互い無言だ。ふたりとも寝袋にくるまっている。俺はあえて右側を下にして寝ることで、桜華の方を見ないようにしている。

 なぜかというと、暴力的だからだ。


 その、大きすぎる胸が、すぐ隣にあるという状況が……。何を考えているんだ俺は。状況を考えろ。


 今俺たちはコレットたちとはぐれてしまっている。生存だけは、彼女たちには伝わっている。


 ……それでも、彼女たちと、そして子供たちに心配をかけていることには、変わりない。


 そんな状況なのだ。浮ついた気持ちになってはいけない。


 孤児院の人たちみんなの顔を思い浮かべると、俺の心は凪のように静かになった。


「…………」


 桜華の吐息が背後から聞こえてくる。まだ眠ってはいないようだ。


 俺はちらりと背後を振り返る。


 桜華はじっと、俺の背中を見つめていたみたいだ。俺と目が合う。


「…………」


 すっ、と桜華が目を、慌ててそらした。顔が赤くなっていた。


「……あ、あの、その、すみません」

「いや、なんで謝るんだ?」

「……だって」


 と言った後、しかし桜華は黙りこくってしまう。何も言わずに、ただ沈黙がそこに広がっていた。


 気まずい……。


 気軽に会話したくても、状況が状況だしな。かといって起きてる状態で何も言わないのもちょっとおかしいし。


 ……しかし桜華と二人きりの状況など、考えてみれば今まで一度もなかった。だからほんと、何を話せば良いのかわからない。


 夕食時は、状況の説明とか食事の話とかで間を持たせた。だがふたりきりになり、後は寝るだけというこの時間。俺は話題をなくして、話せないでいた。


 気まずい時間が続き、ややあって桜華が、ぽそりと口を開く。


「……じろーさん」 

「どうした?」


 俺の問いに、桜華は「すみませんでした」と返す。


 俺は背後を見やる。


 彼女は起き上がって、ぺたん、と女の子座りしていた。


 俺も身体を起こして彼女の目の前に座る。

「……わたしのせいで、じろーさんにも、コレットさんたちにも、キャニスちゃんたちにも迷惑かけて」


 きゅっ……と自分の手を胸に抱き、桜華が言う。申し訳なさそうに、眉を八の字にしていた。


「いや、だから夕飯のときにも言ったろ。俺は気にしてないよ」


 仲間を助けたことに、俺は後悔も悪感情も抱かない。俺にとって桜華は大切な仲間だ。仲間を助けるのに理由はいるだろうか。

「コレットや子供たちは……そうだな。みんなには心配かけてしまってる。いくら俺たちが生きてることは伝わってるとはいえな。みんな優しい子たちだから」


 俺の魔法で、コレットたちは俺たちの生存は確認できている。とは言え心配は心配だろう。


「……そう、ですよね」


 桜華が肩をすぼめる。きゅっと自分の身体を抱く。


「……わたしのせいで、皆さんを不安にさせて。それに、遠足も、台無しにして。……子供たちに、合わせる顔がありません」


 つらそうに目をゆがめて、唇を震わせる桜華。


 ……桜華はみんなに心配かけたこと、そして、何より、子供たちの楽しい遠足を台無しにしたことに、とても心を痛めているようだ。


 ……気にするな、と言っても気休めにもならないだろう。


 だから俺は、別の言葉で、彼女を癒やすことにする。


「ただ……安心してくれ」


 俺は桜華の頭に手を乗せる。


「……安心?」


 顔を上げた桜華。その目には涙がたまっていたが、こぼれ落ちてなかった。


「ああ。言ったろ。みんな優しいやつらだって」


 孤児院の職員も、そこで暮らす子供たちも、みんな良い子たちばかりだ。


「みんな純粋に桜華のことを心配してるだけだよ。誰もおまえを責めたりしない。遠足を台無しにされたなんて思ってなんかないさ」


 俺はそう断言できる。


 子供たちと長くつきあっているからわかる。


 キャニスも、コンも、ラビもレイアも。


 そして鬼姉妹も、みんな帰りを待ってくれている。早く無事帰ってきてくれと、それだけをおもいながら。


「もちろん心配かけたことには変わりない。だから帰ったらちゃんと無事を伝えて、そして心配かけてごめんって謝ろう。そしたら、みんな笑ってお帰りって出迎えてくれるさ。な?」


 俺は言葉を言い終えて、桜華の頭をよしよしなでる。


 大人にやるポーズじゃないかな……と思いつつ、いやと否定する。


 大人だって、つらいときや悲しいときは、誰かのぬくもりを欲するだろうから。


「ひぐっ……ぐす……じろぉさぁん……」


 桜華がまた涙をこぼす。


 子供のように泣きじゃくっている。


「泣くなって」

「でも、でもぉ……」


 俺は桜華の頭をなでながら、ハンカチを複製スキルで出し、彼女の涙を拭く。


「さっさと山降りて、とっととみんなに無事な姿見せよう。そのときは、泣いてたらだめだぞ?」


 桜華は俺からハンカチを受け取る。


 目元をぬぐい、そして俺を見て言う。


「はい」


 気づけば彼女は、穏やかな表情になっていた。うん、良かった。



    ☆



 桜華が落ち着いた後、俺は気になっていることを尋ねることにした。


 すなわち、


「桜華。どうして川の近くで、ぼうっと突っ立っていたんだ?」


 数時間前。


 山に遠足に来ていた俺たち。


 河原で昼食を取った後、桜華が突如としてふらっといなくなる。


 気づけば彼女は河原にたってぼうっとしていた。やがて足を滑らせて川に落ち、今に至るわけである。


 俺の前にぺたんと女の子座りする桜華が、そっと目を伏せながら言う。


「……昔のこと、考えてました」


「昔のこと?」


 はい……と桜華がうなづく。


「……まだ、あの人が生きていた頃を、思い出していたんです」


 あの人……? 口ぶりからして故人だろう。いったい誰のことか……といいかけて、ふと思い当たる。


「元旦那のことか?」


 こくり、と彼女がうなづいた。


 桜華の旦那は死んだと、以前彼女から聞いた。桜華は鬼だ、つまり、旦那も鬼。


 鬼は古来より、人食いとして恐れられた種族だったそうだ。


 だがその実態は違う。俺たち人間とほぼ同じだ。


 人食いをしていたのは、オスの鬼だけ。


 つまり……元旦那も。


「旦那も人食いをしていたのか?」

「…………」


 桜華は答えなかった。だが無言はこれ以上ないくらい、肯定であるという証明であった。


「そうか……」

「……はい」

「もしかして旦那が死んだのって……」


 桜華がきゅっと唇をかんで、こくりとうなづく。


 なるほど……。


 つまり、旦那は殺されたのだ。人間を食べたことで、討伐対象にされて、冒険者や騎士に殺されたのだろう。


 ……そうなると、思わずにはいられない。

「なぁ桜華。気を悪くしないでくれ」

「…………」


 桜華は俺を見てなんですか、と首をかしげる。


「桜華は……人間に対して、その、恨みを抱いてたりしないのか?」


 旦那が人間に殺されたのだ。殺した人間を恨んでもしょうがないかもしれない。


 しかし普段の桜華からは、俺たち人間や、獣人、そしてハーフエルフに対して、分け隔てなく接している。優しくしてくる。


 とても恨みを抱いてるようにも、心の中に抱えた負の感情を隠しているようにも、思えなかった。


「……恨んでない、です」

「旦那が……いや、すまん」


 旦那が殺されたのにもかかわらずか、といいかけて口を閉ざした。デリカシーのない発言だったなと反省する。


「いえ、お気になさらず。……けどあの人は、仕方なかったと思います」


「仕方ない?」


 桜華の顔を見やる。その顔は遠い日の出来事を思い出すように目を細めていた。


 ただ、悲しみに暮れてるようなことはなく、本当に、過去を思い出してるそれだけのように見えた。


「……あの人は、昔から気性の荒い人でした。人間を食料としか見てない、典型的なオス鬼でした」


 桜華の表情に険しさが指す。それは、亡くなった夫を責めてるようでもあった。


「……そんなことないのに。鬼も、人間も、みんな平等。みんなこの星にくらす同じ生き物なのに」


 それはオス鬼とは正反対の考え方だった。人間を食料と見るオス。人間を平等な生き物だとみる桜華。


「よく、桜華は、結婚したな」


 疑問が口をついた。


「……そう、ですね。ただ、わたしの場合は、仕方なくという意味が強かったです」


「仕方なく?」


「……鬼は、前も言いましたが、かつて絶滅一歩手前までその数を減らしました。それに、鬼は人食いであると、古来より人間たちから追われ続けていました」


 だから、と桜華が続ける。


「……鬼は、年頃になると、すぐに女は嫁に出されるのです」


「子供を産ませるためにってことか?」


「……はい。そういう、風習というか、しきたりは、今なおあります。そしてわたしは家を出て、あの人のもとへ嫁ぎました」


「相手は桜華が選んだのか?」


「……いえ、あの人が。オスに決定権があるんです」


 何でも鬼は、男が上で女は下、という前時代的な考え方が根付いてるそうだ。


「……それにオスの方が数が少ないんです。だから、オスは優遇されます。わたしたちメスは選ばれる側です」


 つまるところ、桜華は望んで結婚してないというわけか。


「……そうか。結婚相手が選べないんじゃ、かわいそうだな」


 桜華は俺を見上げてほほえんだ。


「どうした?」

「……いえ。ただ、あなたは本当に優しい人だな、と思いまして」


 桜華はもじもじ、と身をよじりながら言う。


「わたしの周りは、鬼ばかりでした。だからメスがオスに選ばれるのは当然であると思ってます。わたしも、思ってました。誰もメス側、わたしたちを哀れんでくれるひとはいませんでした」


「そうなのか?」


「……はい。人間の皆さんは、わたしたち鬼を怖がって、同情や憐憫の情をいだくことは、そもそもありませんし」


 未だに鬼は怖いものという認識が、ちまたにはあるからな。


「だから……じろーさんだけです。鬼に優しくしてくれるのは。鬼を、哀れんでくれるのは、あなただけ」


 桜華が熱っぽい視線を俺に向けてくる。


 すっ、と半立ちになると、ずいっ、と桜華が俺に近寄ってくる。


「じろーさん……」

「ど、どうした桜華?」


 桜華が俺の手を握る。そして自分の胸に手を押しつける。


 ぐんにゃりと、とてつもなく柔らかな感触と、生暖かさが伝わってくる。


 手が、沈む。夏の日、よく暖められた泥の中に、手を突っ込んでいるような暖かくも柔らかい感覚に失神しそうになる。


「お、桜華。何してるんだよ急にっ」


 俺はばっと離れる。声が裏返っていた。子供かよ。


「じろーさん……」


 目を伏せながら、桜華が聞いてくる。


「どきどき、してくれましたか?」

「は? え? どうしたいきなり……」


 俺の質問に、桜華は気にせず続ける。


「……この頃、思っていました」


「な、何を?」


「……じろーさんに対する、この胸のもやもやはなんだろうかと」


 きゅーっと桜華が自分の身体を抱く。爆乳が潰れて、とんでもないことになっている。腕の間から柔らかい乳房がぶにっと出ている。


「……じろーさんに優しくしてもらったり、じろーさんの頼りになるところを見ると、胸がきゅーっとなってなるんです。そして、うずくんです」


 桜華は自分のおなかをすりすりとなで回す。


「……わたし、男の人はお父さんと、あの人だけしか知りませんでした。お父さんは父親だし、それに元夫に愛情はありませんでした」


 だから、と桜華が続ける。


「……だから、初めてだったんです。男の人を見て、胸がざわざわして、ここがきゅんきゅんとうづく、この感覚が」


 桜華が俺を見上げる。

 

 その目は濡れていた。そして、ぎらぎらと輝いている。


 ……それは、よく知っている目だ。桜華の子供たち、一花いちか弐鳥にとりたちが俺によくする、情欲に濡れた瞳。


「……今日、ここに来て、わかりました」


 桜華が手をついて、俺に近づいてくる。俺は気圧されて、背後に下がる。


「……あの人と暮らした場所に来て、過去を思い出しても、わたしは一度たりとも、あの人に対して、この胸のざわめきと、ここのうずきを感じることはありませんでした」


 テントの壁にぶつかる。桜華が俺に覆い被さるようにしてくる。壁に両手をついて、俺を見下ろす。


「……ぼうっとしていたのは、考えていたんです」


「か、考えていたって、何を?」


「……あなたへ抱いている、この感情の正体を」


 桜華の肩がぜえはぁ、と全力疾走したように激しく動く。真っ白な肌がピンクに染まっていた。


「……川に落ちて、あなたに助けられて、わたし、ようやくわかりました。わたし、わたしは……じろーさん。じろーさんのことが……」


 あの人よりも、とつぶやいた後、勢いよく俺の顔を両手で包んでくる。


 無理矢理引っ張って、近づけさせられる。それこそ、食われるかと思った。


 桜華。美しい女性の顔がすぐ近くにあった。目は濡れて、俺のことしか見ていない。

「じろーさん、わたっ、わたしっ、わたしっ……!」


 桜華がそう言うと、俺の胸元に手をやって、そのまま衣服を引きちぎった。


「はっ?」


 桜華はそのまま自分の服も引きちぎり、俺を地面に押し倒す。


「すみませんじろーさん。鬼は繁殖に対する欲が強くて、だから、だからっ」


 確かにそんなことをさっき言っていたけれどもっ。


 桜華の目はすでに正気を失っているようだ。濁っている。俺の……まあうんを凝視していた。


「お、桜華」

「ごめんなさいじろーさん。わたし、もうあなたへのおもいがあふれてとめられなくって!」


 好意をすっ飛ばし繁殖行為に至ろうとしている。そこに文化の、人間と鬼との違いを感じた。


 好意の末に行為に至る人間と。


 感情と行為が直結している鬼。


「もうっ、だめっ。だめなんですじろーさん!」


 桜華が俺に唇を重ねようとしてきた、そのときだ。


 俺は指輪が挟まっている方の手を上げる。

 かつて、桜華からもらった抑止力を。


 鬼を制御する力を、行使する。


「【桜華、落ち着いてくれ!】」



    ☆



「も、申し訳ございませんでした……」


 翌朝。


 俺たちはテントを片付けて、山を下りていた。


 手にはスマホ。これには周辺地理を表示する魔法が付与されている。


 地図を片手に下山する俺たち。


「いや……うん。気にするな」


 桜華の服も俺の服も、複製スキルを使って新しく作った。


 ……昨晩。


 桜華は思いを暴走させて、俺を押し倒してきた。俺はスキルを使って難を逃れた。


 桜華からもらった、鬼に命令を下せる能力を帯びた指輪。


 かつて一花たちに襲われるのを懸念して、桜華が俺に授けてくれたものだ。


 ……まさか、もらった本人に対して使うとは思わなかったけど。


 俺の命令を聞いて冷静になった桜華は、そのまま顔を真っ赤にして気絶してしまった。


 で、翌日の今に至る。


「本当に、すみません……」

「いやまぁ、鬼って性欲強いんだから仕方ないよ」


 ただ状況を考えて欲しかった。俺たちは今、遭難しかけていた。子供たちも職員たちも俺たちの身を案じてくれている。


 その状況で、俺たちがよろしくやるわけにはいかなかった。


「……じろーさん、わたし、あきらめます」


 隣を歩いていた桜華が、ぴたり、と足を止める。


「あきらめる? 何をだ」

「……じろーさんのことをです」


「ど、どうしたいきなり?」


 もうなんか昨日からびっくりしまくってる気がする。


「だって……昨日、あんなふうにお、襲うようなマネして、ふ、不愉快に思われましたよね?」


 ぐす……ぐす……と桜華が鼻を鳴らす。


「いや、そんなことないぞ」

「…………………………え?」


 桜華がきょとんと目を点にする。


「別におまえを嫌いになる理由にはならないよ」

「けど……昨日、抱いてくれなかったのは……?」

「だから……」


 なんと説明したものか。というかさっきちゃんと説明したつもりだったのだが。


「桜華」


 俺は鬼娘の肩をつかむ。


「俺は、別におまえのことを嫌いになんて思わない。思ってない。昨日のことがあっても別にな」


 むしろ、と続ける。


「おまえのこといろいろ知れて、おまえのこと理解できて、うん、身近に感じたよ」



 過去を知って、桜華をかわいそうだと思った。


 桜華が人間も獣人も平等に思う、本当に優しい子であることも。


「……嫌いじゃ、ない? ほんとう、ですか?」


 探るような調子で、桜華が俺に尋ねてくる。


「ああ。嫌いじゃない。ただ……その、なんだ。まずは無事に下山して、みんなにただいまを言おう。それが先決だ。だろ?」


 桜華の顔が、俺を見て、こくりとうなづく。そして……「はい」とつぶやいた。


「よし。じゃあ帰るか」


 ……その後俺たちは、地図を頼りに天竜山脈を無事下山。


 山を下りて麓へ行くと、来るときに使った車が置いてあった。


 俺はその車に乗って、天竜山脈を離れ、そしてそるティップの森へと帰ってくる。


 森を抜けて、そこには孤児院があった。


 孤児院の前には、美しいエルフ女性がたっている。


 俺は車を止めてドアを開ける。すると彼女が俺めがけて走ってきた。


「ジロくん!」


 ……俺に抱きついてきたのは、エルフ少女、コレットだ。


 彼女はぐすぐす……と泣きながら俺の首に抱きついている。


「ごめん、心配かけた」

「……うん。心配したよ。けど信じてた」


 コレットが顔を離す。


 にこっと笑うと、「ジロくんがちゃんと、桜華さんを連れて無事に帰ってくるって。私の旦那は、ちょっとやそっとじゃ死なないって、私わかってましたから」


 輝く笑顔で俺を出迎えてくれる。


「そうか。ありがとう。俺を信じてくれて」

「えへへ。そりゃあなたのお嫁さんですもの。旦那を信じるのは嫁の義務だぜい」


 さて、とコレットが俺から離れる。


 そしてドアから降りていた桜華に駆け寄ってだきっと、とコレットが抱きつく。


「桜華さん。良かった無事で」

「……コレットさん。ごめんなさい。心配かけて」


 コレットが桜華のふかふかの胸に顔を埋めた後、ほっと安堵の吐息をはく。


「でもほんと、ふたりが無事帰ってこられて、本当に、本当に良かったわ……」


 桜華から離れて、俺たちにそういうコレット。その目の端には、涙がうっすらと浮かんでいた。目が……赤く腫れていた。


 やはり、うん。反省しないとな。


 嫁を悲しませたんだから。


 とそのときだった。


「ジロさん!」「ジロ!」「ジロー!」


 ばんっ! と孤児院のドアが開いて、マチルダとアム、そして先輩が駆け寄ってくる。


「おにーちゃん!」「にぃ!」「にーさん!」「じろぉ」


 その後ろから獣人たちが。


「にぃちゃん、おかーちゃん!」「うぇええん!」


 鬼姉妹もやってきて、俺たちに向かって走ってくる。


 俺と桜華は、孤児院のみんなに囲まれた。ぎゅうぎゅうと抱きついてくる。


 ややあって俺と桜華は、無事に帰ってきたことを子供たち、そして職員たちに告げる。


「……みなさん、ごめんなさい」


 桜華がぺこりと頭を下げて、今回のことをわびた。


 しゃがみ込んで、子供たちの前で、深々と頭を下げる。


「……ごめんなさい」


 すると子供たちは、「良かったです」「おーかちゃんかむばっく。みーうれし」「おねーちゃんが無事で本当に良かったぁ……」


 と誰一人として、桜華を責めてなかった。


「……みなさんの、遠足をだいなしにしたのに、怒ってないのですか?」


 桜華が泣いてる妹鬼をよしよししながら、子供たちに尋ねる。


「んなこと気にしてねーです。おーかちゃんが帰ってきたことのほーがうれしーです!」

「おーかちゃんがいないと、みーたちこまりまるりんぐ」


 キャニスとコンの言葉に、他の子たちもうなづいている。


「みなさん……」


 感極まって、桜華がえぐえぐ泣き出す。


「おーかちゃんは泣き虫だなぁです」

「みーのしっぽでなくといいよ」


 獣人たちがよしよし、と桜華の頭をなでて慰める。そう、なにも不安がることなんてなかったのだ。


 子供たちはみんな優しい。だれも桜華を

責めたりしないのだ。


「じろーさん……」


 すっ……と桜華が立ち上がる。そして俺の手を握る。


「じろーさんの、言うとおりでした」

「だろ? 良かったな」


 桜華はうつむいあと、はにかんだ。


 それは春に桜の花が咲くようなほど、きれいな笑みだった。


 子供たちが俺達に抱きついてくる。コレットが朝ご飯にしましょうと言う。


 俺達はみんなで、孤児院の中へと向かう。

 俺たちの家。


 俺たちの帰る場所。


 玄関をくぐると、俺は心の底からほっとした。


 そして実感した。


 我が家に無事帰ってこられたのだ……と。


お疲れ様です。

そんな感じで10章終了です。お疲れ様でした。


投稿感覚が開いてすみません。書籍化作業にかなり時間がかかってしまった感じです。


時間をかけたぶん、いいものが作れたと思います。ほんと、冒頭でも書きましたが皆様のおかげでここまでこれました。ありがとうございます!


さて次回ですが、掌編を挟んでから11章へと向かう予定です。


掌編の内容は桜華さんのお話。娘たちが母の、ジロヘの好意に気づいて一肌脱ぐか!とはりきり、娘アシストで桜華が思いを告げるみたいな内容です。


なるべく早くというか、明日には掌編をあげます。


そして、話は変わりますが、新連載始めました。下にリンク貼ってます。よろしければぜひ!


ではまた!

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