71.善人、鬼の母とともにキャンプすることに
いつもお世話になってます!
ここまでのあらすじ。
季節は秋も深まったある日。俺は孤児院のみんなと一緒に、近くの山まで遠足にやってきていた。
秋の山を楽しんだ後、河原で昼ご飯を取る。
昼食後、鬼たちの母、桜華の姿がないことに気づく。
桜華を探していたところ、彼女を河原で発見。
その瞬間、桜華は足を滑らせて、川に落ちてしまう。
俺は川に飛び込み、彼女のそばまで泳いで回収。すると川の流れていった先が滝になっていた。
俺は桜華とともに滝壺へ落下したのだった。
「…………」
ふと、俺は目を覚ます。
目の前には薄いオレンジ色をした【膜】のようなものが、俺たちを包んでいた。
この膜は、俺が発動させた無属性魔法【結界】だ。
外部からの衝撃を吸収する無属性魔法である。
俺は滝から落ちる瞬間、全魔力を使って【結界】を張った。
結果、俺は魔力切れを起こして、気を失った……という次第。
「生きてる……よな」
【結界】のおかげだろう。ぱっと見た感じ、どこもけがをしてない。
限界まで魔力を込めたのが功を奏した……といったところか。
「! そうだ、桜華!」
俺は、腕の中で気を失っている女性を見やる。長くつややかな黒髪と、額から生えている角が特徴的な美女、鬼の桜華だ。
俺は彼女を抱きしめた状態で結界を張った。結界は俺たちを包んでいたのだ。
「無事……だよな。衝撃は全部結界が吸収してるだろうし」
それでもけがを負っていないと、確実に言い切れないので、油断は禁物だ。
「桜華、大丈夫か、桜華?」
俺は彼女の細い肩をゆする。彼女は「うう……」とうなった。死んではない。良かった……。
「…………さて」
仲間の無事を確かめたところで、俺は現状を確認することにした。
どうやら俺は滝から落ちたらしい。
俺がいるのは、滝壺から少し離れた場所。そこは滝から落ちてきた水がたまって、湖のようになっていた。
水の流れは、凪のようにゆるやかである。貯水湖とかそういう感じか。
見上げると、岩肌むき出しの崖。高さは……結構あるな。
崖の斜面は急だ。よじ登ることは不可能だろう。
ざざぁあああ…………と今も滝からは、大量の水流が落ちていた。
「足は……つかないな」
湖はそうとうふかいらしい。まったく足がつく気配がない。俺たちが浮いているのは、結界魔法が浮き輪のような働きをしてるからだろう。
「とりあえず……陸に上がるか」
俺はバリア越しに腕を伸ばし、水をかいて、陸へと向かう。
膜越しにぶにっと腕を伸ばし、片腕だけで、平泳ぎの要領で水をかく。
ややあって陸地に到着。大きな天然の岩があちこちにころがっている。
見上げるところに、滝のてっぺんがあり、むき出しの岩肌と、森の木々が見える。
「登るのは無理だなこれは……」
俺は陸地についた瞬間、結界を解除する。
桜華を地面に寝かせる。彼女の衣服は濡れていて、肌にぴったりと布がくっついていた。
大き過ぎる乳房が、くっきりと強調されている。呼吸するたびぶるん、ぶるんと躍動するそれに、目が行きそうになる。
「い、いかんこんなときに何をしてるんだ俺は……」
とりあえず俺も桜華も、命だけは無事だ。だがここからどうしようか。
滝から落ちてこのまま……というわけにはいかない。まずはここがどこなのかを確認する。
俺はポケットの中に入っていたマジック袋(【無限収納】が付与された革袋。何でも入る)から、スマホを取り出す。
これは俺の特殊技能、【複製】を使って、作ったものだ。
もちろん電波がないため、遠隔地にいる人間と通話はできない。
俺はスマホを取り出してマップアプリを発動させる。これには【地図表示】という無属性魔法が付与されている。
【地図表示】とは、周囲の地理を羊皮紙などに映し出す魔法だ。
以前森の中に逃げたアムを探すときに使った魔法だ。
あのときはカーナビに付与したが、それをスマホに応用しているのだ。
スマホには、周囲の地理情報が表示される。ちょうど向こうの世界で使っていたのと同じように、周囲の地図と、そして俺たちの位置情報が表示されている。
昼にテント張った場所からは、さほど離れていなかった。まあ川にはそこまで流されてなかったしな。
ただ崖があるため、元の場所へ戻るのは難しい。
それでも地図があるため、山を安全に下ることはできそうだ。
「まあ、今から動くのは無理そうだが……」
空を見上げる。すでに日が落ちかけていた。周囲の様子が見えにくく、暗くなっている。
「コレットたちの位置情報は……」
スマホには周囲の生体反応を調べる【探査】の魔法も付与されている。
地図上にマップピンが表示される。
それによると、コレットたちは山を下って、孤児院に戻っているみたいだ。
俺は桜華を探しにいくまえ、コレットには子供たちと山を下りるよう指示してある。
俺の指示に従い、子供たちとコレットは無事のようだ。良かった。
「けど……心配してるよな」
俺は自分の手首を見やる。
俺の手首には、ミサンガが巻かれていた。これは【同期】という無属性魔法が付与されている。
無属性魔法【同期】。これは、離れている相手に、自分の生死・無事を伝える魔法だ。
洞窟内やダンジョン探索の際によく用いられる。仲間とはぐれた際、魔法をかけた相手の安否情報のみを伝える魔法だ。
目を閉じる。
……たしかに、コレットを感じることができる。
かけた相手が死ぬと魔法が切れて、この【相手を感じる】ことができなくなる。
それをミサンガにかけているので、相手が死ぬとミサンガが切れることになっている。
俺のミサンガは、コレットと同期している。俺が死ねばコレットのミサンガがきれるので、彼女は俺の無事だけは確認できている。
「くそ……」
俺はスマホをぎり……とにぎりしめる。スマホがあるのに、電話ができないのは、もどかしくってしょうがなかった。
ここは異世界。電波なんてない。携帯電話なんて、ものがあっても使えないと意味がないのだ。
「……ないものはあきらめよう」
さておき。
俺の無事は相手に確認されている。地図があるので下山は可能。ただ、もう日が暮れている。
夜の山を歩いて帰るのは、自殺行為だ。おりるなら日が昇ってから。
つまり……。
「ここで野宿する、ってことだな……」
☆
桜華が目覚めたのは、俺が陸に上がってから1時間後のことだった。
「…………」
がさり……と桜華が、【そこ】の中から出てくる。
「桜華。目が覚めたか?」
「…………あな、た?」
とろん、とした目つきで、桜華が俺を見てそうつぶやく。
「へ?」
「……じろー、さん」
ふらふら……と桜華がこちらに歩いてくる。そして、
「じろーさんだぁ……♡」
ぱぁっと明るい顔になると、がばっ! と桜華が俺に抱きついてきた。
むにゅぅうう~~~…………♡
と、とんでもなく柔らかな乳房が、俺の顔に押しつけられる。
桜華は女性にしては大柄だ。なので俺をこう、頭を抱きかかえて胸に押しつける……ってことも可能ではある。
「じろさぁん……♡」
「も、ご……お、おうか、どうしたんだよ?」
とてつもない良いにおいが鼻孔をつく。花の蜜を煮詰めたような、むせかえるような甘いにおい。
そして顔を包むのは、人肌に温められた、柔らかな乳房だ。なんだこれは、スライムか? スライムなのか?
大きさといい、柔らかさといい、人間の持つそれを超越していた。
ぐりぐり、と押しつけてくるたび、乳房が俺の顔に押しつぶされて、エロい形にひしゃげる。
ときおり固いものが当たって「あ♡」「ん♡」と艶っぽい吐息を漏らすのが、最高……じゃなくて!
「お、桜華!【正気に戻れ!】」
俺はかつて桜華からもらった、鬼に言うことを聞かせる指輪を発動させる。
指輪が光り、桜華の身体ぴたり、ととまる。
「え…………。ここ…………」
どうやら桜華が正気に戻ったようだ。抱きかかえられている状態なので、桜華の顔が見えないが。
「お、桜華。その、俺を離してくれ」
もごもご……とくぐもった声でそういう。呼吸するたびミルクと蜜の混じったような、甘いにおいが鼻孔をついてくる。気が遠のきそうになる。
「え…………? ~~~~~!!!!」
桜華が悲鳴のようなものをもらすと、俺から手を離す。
酸欠でふらつく。
桜華の顔が、耳の先まで真っ赤になっていた。目は潤んで、今にも泣き出しそうだ。
「も、申し訳ございません!!!」
普段おしとやかな桜華が、このときばかりは声を荒げて、ばばっと頭を下げてきた。
黒髪がバサッとたれて、ふわりと桜の花のようなあまいにおいがする。そしてばるん! と巨大な胸が……。
いや、それよりも。
「あ、謝らなくて良いぞ。別に」
「いえ、ですが……。じろーさんを不快にさせてしまって、申し訳ないです」
「いや別に不快じゃなかったぞ……」
むしろ気持ちよかった……いや、なんでもない。
「でも……ですが……」
「いや、本当に不快になんて思ってないって」
「……えっ」
桜華の目が見開かれる。頬が赤くなる。自分の身体を抱くようにして、もじもじと身をよじる。
「…………」
「…………」
微妙に気まずい雰囲気になってしまった。なんだこの状況。
「え、ええっと……そ、そうだ。桜華が無事で良かったよ」
俺がそう言うと、桜華の方も正気に戻ったようだ。
「……あの、じろーさん。すみません、でした。わたしが、ぼうっとしていたせいで」
ぐす……と桜華が涙目になる。
「いや、気にすんな。桜華が無事で良かったよ」
「でも……わたしのせいで、じろーさんまで川に流されてしまって」
桜華が申し訳なさそうに眉を八の字にする。ぐすぐす……と泣き出してしまった。
「桜華……大丈夫だって。俺もおまえも生きてるわけだし」
「でも……でもぉ……。わたしのせいで、じろーさんを、あぶないめにあわせてしまって……」
別に危なくはなかった。俺には先輩から教えてもらった魔法があったからな。
「まあちょっとひやっとしたけど、桜華も無事で、俺もこうしてぴんぴんしてる。おまえが気に病む必要はない」
「じろーさん……」
涙でぬれた顔は、それでも美しかった。
「…………だめ、です」
桜華はうつむいてそういう。
「……やさしく、しないでください。そんなことされたら、わたし……ほしくなってしまいます」
桜華が下腹部を手でなぞりながらそういう。
「欲しい?」
何か欲しいものでもあるのだろうか?
桜華はハッと正気に戻ると、「な、なんでもありません!」と顔を真っ赤にしてクビを振るった。
「まあ、とにかくおまえは気にしなくて良い。状況もそんなに悪くないからな」
俺は現状を桜華に説明する。
コレットたちには俺たちの無事は伝わっていること。地図はこちらにあるので、無事下山は可能なこと。
ただ暗い中移動するわけにはいかないので、一泊すること。
「一泊……? ここで、ですか?」
「ああ。まあ幸いキャンプ道具は持ってきていたしな」
俺は桜華の背後を指さす。
そこにはキャンプ用のテントがあった。
桜華がさっき寝ていたのは、俺が持ってきていたテントだ。
俺は山へ来る前に、キャンプ道具をひととおり複製してマジック袋につっこんでいたのである。
遭難するという事態もそうていして、結構いろいろと持ってきていたのだ。まさか役に立つとは思ってなかったが……。
「それと桜華。その……服のことなんだけど」
「……ふく?」
はて、と首をかしげる桜華。
桜華は自分の服が、スウェットに変わっていることに気づいた。
「川に落ちたときびしょぬれでさ……その、風邪引くと大変だろうと思って。悪いと思って、その……」
俺は意識のない桜華の服を脱がせて、予備に持ってきていたスウェットに着替えさせたのである。
さっきもいったが風邪引いたら大事だからな。
ほかに誰か女性がいれば、その人に桜華の着替えをしてもらったのだが、あいにく今は俺しかいないからな。
「も、もちろんやましいマネはいっさいしてない! ほんとだ! 信じてくれ!」
事実そうなんだが、男が言うとなんでだろう、信憑性が薄いというか……。
「………………」
桜華が顔を真っ赤にして、その場にしゃがみ込んでしまう。
「す、すまん! ほんとだって、変なことしてないぞ!」
すると桜華は、顔を上げて、ふるふる、とクビを振るう。
「いえ……あの、べつに、じろーさんのこと、うたがってない、です」
「え? そ、そうか……」
はい、と桜華が消え入りそうな声で答えた。
……微妙な空気になったが、とにもかくにも。こうして俺は、夜を山で、桜華と一泊することになったのだった。
お疲れ様です。
投稿が遅れてすみませんでした!




