69.善人、河原でお昼ご飯を作る
いつもお世話になってます!
子供たちが河原で遊んだ数十分後。
俺たちはお昼ご飯にすることにした。
天竜山脈を流れる急流、天竜川。
今日は河原でみんなで飯ごう炊さんだ。
米は持ってきている。キノコはさっき松茸を山の中で拾った。あとはおかずを調達するだけだ。
俺たちは川で釣りをすることにした。
「よーし、コンっ。どっちがたくさんつれるかきょーそーすっぞです!」
「ぐらんだーコンと呼ばれたみーにかてるかな?」
釣り竿を持って、俺は犬娘と狐娘、そして「しょーぶごとでれいあがまけるわけないでしょ!」「みー!」と竜人のレイアとともに、川へ向かう。
「ぐらんだーってなんです?」
「ばすづりするすごいひとのこと。にぃ、キングオルカイザーをぷりーず」「今日はルアー釣りじゃないから」「なんとー」
がっかり、とコンが肩を落とす。
「今日はエサ釣りな。これを使う」
俺は【無限収納】が付与されたマジック袋から、釣り竿と、そしてカップに入ったイクラを取り出す。
「にぃ、イソメじゃないの?」
「グロいかなって思ってさ。……というか詳しいな」
「つりきちコンぺいともいわれてたゆえ」
ふふふ、とコンが口元をしっぽで隠して言う。
本当、謎の多い女の子だなこの子……。
子供たちに釣り竿を持たせる。
これには【筋力増強】の魔法が付与されており、子供でも楽々と竿を扱える。
俺は針の先にエサであるイクラをつける。
「あとはこれを川に垂らすだけだ。できるか?」
「「「できらー!」」」
子供たちが次々と、川へひゅっ、と竿を投げる。
「ぼくがみんなのぶんをつって腹一杯さかなかくわしてやるです!」
意気揚々とキャニスが言う。
「きゃにす、つりをなめたらいけないよ。川釣りはむずかしい。しょしんしゃじゃまったくつれないことも」「釣れたー!」「なぬー」
くわっ、とコンが目を大きく見開く。
キャニスが楽々と引き上げた釣り竿の先には、川魚が食いついてた。
「なにゆえ? なにゆえ?」
コンが呆然とキャニスを見やる。俺はキャニスの竿から魚を取って、網の中に入れる。
コンの竿を見ると、ぴくぴく……と微細に動いていた。
「コン。引いてるぞ」
「! りありーやん」
コンが竿をがしっとつかんで、「ふぃーしゅっ」と持ち上げる。
先ほどのキャニスと同様、魚がついていた。
「すごい。なんかめちゃくちゃつれる。にぃ、なにかした?」
「いや、俺は別に。キャニスたちがすごいんだろ」
コンの釣り針から魚をとって、新しいえさをつける。
キャニスが「釣れた-!」と2匹目をつり、レイアが「こっちもよー!」と釣り上げる。
「じー」
コンが二匹目を秒で釣り上げた後、俺をじとっと見てくる。
「なんだ?」
「にぃ、チート?」
「使ってないって」
「それにしてはふしぜん」
同じ転生者だからだろうか、コンにはばれてしまっているらしい。
というのも、俺は確かに、魔法を使っている。
釣り餌のイクラに、無属性魔法【誘惑】を付与してるのだ。
【誘惑】。これは魔物や動物を引き寄せる無属性魔法だ。
討伐クエストのさいによく使われる魔法である。これをエサに付与したことで、魚たちが向こうから呼びよせられたという次第である。
「やはりチートやチーターだ。でぃあべるはーん」
コンがぴーんっ、と尻尾を立たせて言う。
「あんまり釣れないとつまらないかなって思ってさ。無粋だったか?」
「ま-、しょしんしゃがおおいからね。にぃは、ナイスなはんだんだったとおもうよ」
「お褒めいただき光栄です」
俺がそう言うと、にこーっとコンが笑う。
「にぃはやさしい。みーはそんなにぃがすき。きゃ、こくはくしてもーた。してもーた」
むふふ、と笑いながらコンが俺をからかう。
「ほら、キャニスたちはめちゃくちゃ釣ってるぞ」
「おう、そうだった。まけぬぞう」
コンが針を川へ投げる。
「とりゃー! また釣れた-!」「れいあなんてもう5ひきめよ5ひきめ。てんさいじゃないかしら!」
「あまいねみんな。みーのろっどさばきをみよ」
「おー! って、ぜんぜんつれてねーです!」
「しもた。うごかさないほうがつれるこれ」
わあわあと子供たちが魚釣りを楽しんでいる。しばらく子供たちが釣った魚を回収したり、えさをつけたりした。
俺は子供たちがつりをしている様を、ポケットから取り出したスマホで写真を撮る。
前にコレットと桜華が出かけた際、料理動画をとるときに、スマホを作っていたのだ。
電話機能はもちろん使えないが、動画撮影と、そして写真を撮ることができる。
俺はパシャパシャと子供たちのつりの様子を動画と写真とで残す。
プリンタはないけど、まあ魔法を応用すればなんとか写真も作れるだろう。帰ったらやってみるか。
☆
子供たちとつりをした後、魚を持って、俺はコレットたちの元へ帰ってきた。
コレットたちはラビたちとともに、米を炊いていた。
飯ごうやタープといったキャンプ用品は、あらかじめ孤児院で作っておいたものをもってきたのだ。
米とぎは終わり、今は薪の上でご飯が炊けるのを待っているようだ。
「お帰りジロくん♡ おかえりみんな」
にこっと笑ってコレットが言う。
「「「ただいまー!」」」「釣果はどうだったかなー?」「「「大漁だー!」」」
俺の持ってるビクを指さし、子供たちがえへんと胸を張る。
「すごいわ。こんなにたくさん。みんなつりの天才ね」
コレットは子供たちの前に座り、よしよしと頭をなでる。
「それほどでもねーです……♡」
「みーたちふつーですよ♡」
「れいあももっとなでてっ!」「みー! みー!」
コレットが全員をよしよしとする。獣人たちの尻尾がふにゃりと垂れ下がった。
一方で、たき火の前では、桜華とラビ、鬼姉妹がしゃがみ込んでいる。
「はわ、はわわっ、はんごーから泡が出てるのですっ!」
「おかーちゃー……ぁん。ふたあけないのー……ぉ?」
「……まだです。もうちょっと待って、少し蒸らすのがこつ、です」
「「「なるほど……っ」」」
ラビたちが感心したように、ふんふんとうなづく。
「おーかおねーちゃんは、たくさんいろんなこと、たっくさんしっててすごいのです!」
「そうだぜラビちゃん。うちのマ……おふくろはすげーんだぜ」
妹鬼のとなりで、姉がにぃーっと笑う。
「アカネちゃー……ん。どうしておかーちゃんのこと、いつもみたいに呼ばないのー……ぉ?」
「いつも?」
「ばっ……! 姉貴、よ、よけーなことラビちゃんに教えるんじゃあねー!」
すると、トコトコ……とキャニスたちがあやねたちの輪に加わる。
「へいあやねる」「なんだー……ぁいコンちゃん」
つつつ、とコンがあやねに近づく。
「普段アカネるはおーかママのことなんてよびなさってるの?」
「普段はママー……ぁって、呼んでるだー……ぁよ」
「ほほう、なぜ言い直したのかな?」「きっとママって呼ぶのがー……ぁ、恥ずかしいんだろうねー……ぇ」
「あーーーーーねーーーーーきーーーーーーーーーー!!!」
顔を真っ赤にしてアカネが叫ぶ。
「きゃー……ぁ、妹におそわるー……ぅ」
ケラケラ笑いながら、あやねが逃げる。その後をアカネが追い、「おにごっこか! ぼくもまぜろやー!」「かりごっこだね。みーもまぜてー」
と子供たちがわーっ、と走って行く。
「じゃあジロくん。わたしたちは魚の準備しましょうか」
「いや、それは俺がやるよ。コレットは子供たちを見ててくれ。川に落ちたら大変だ」
「りょーかい。じゃ、行ってくるわね」
コレットが子供たちの方へとかけていく。
俺はまな板とナイフと取り出す。
まな板に魚をのせて、腹を割き、内臓を取り出す。
「に、にーさん」
振り返ると、ラビが俺を見上げていた。
「どうした?」
「ら、らびは、にーさんをお手伝いしたいのです!」
ぴっ、とラビが手を上げて言う。
「そうか。ありがとうな。それじゃ、こっちを頼む。魚に串を刺してくれ」
「はいなのですー!」
ラビにやり方を説明する。
ラビは器用なので、すぐに刺す場所やコツをつかんだ。
「上手いぞラビ。さすがだ」
「えへへっ、にーさんにそういわれると、うれしーのですっ」
河原に座りながら、俺達は魚に串を通していく。
桜華はその間に飯ごうをたき火からよけて冷ましていた。
「そっちはできたか?」
「……はい。完成です」
パカ……と桜華が飯ごうの蓋を開ける。ほかほかとした湯気の向こうに、ぴかぴかに炊けたご飯が見える。
「! うまいもん警報はつれー!」
おっかけっこをしていたキャニスが、ぴたりと立ち止まり、声を張る。
「! うまいもんがちかくにあります。みなのものしゅーごー」
コンのかけ声とともに、子供たちがわーっ! と集まってくる。
コンが真っ先に来て、飯ごうからにおいたつ湯気に、すんすん、と鼻を鳴らす。
「かんぺき。ぱーふぇくつ。このにおい、1おくまん点」
「そんなにか」「みーにとってはなつかしきかほりでもあるゆえな」
コンの尻尾がぶんぶんぶん! と激しくゆれる。
「じゅるり……うまそうね……じゅるり……」「みー……」
「レイアちゃぁー……ん。よだれよだれ」
姉鬼がレイアの口元を、ハンカチでぬぐってやる。
それを見たアカネが、「…………」ぐいぐい、と姉の服の袖をひっぱる。
「姉貴。アタシも」
「あー……。ごみんねー……ぇ。かまってあげられなくてー……ぇ」
「べ、別にそういうのじゃねーし」
そう言いながらも、姉に口を拭いてもらって、ご満悦のアカネ。
「コンっ、これはさっきおめーがいってたマツタケってやつです?」
「そーですきゃにす。これがマツタケ。とてもびみ。1ほん数万円とかする。ゆーざんがいってた」
「「だれー?」」「リアクション取るひと」
その認識は間違ってると思うんだが……。
「はいみんなー、ご飯が炊けたし、そろそろお昼にしましょー」
「「「待ってたー!」」」
子供たちが喜色満面になる。
コレットと桜華はウェットティッシュ(俺が複製で作ってきた)で、子供たちの手を拭いてる。
俺は魚をたき火で焼いていた。
「にぃ、まだ? 魚の焼けるにおいにみーはもうはらぺこちゃんです」
コンが俺の背中に張り付いて、ぶんぶんと尻尾を振り乱す。
「こ、コンちゃんくすぐったいのですー」
隣にいたラビのほっぺに、コンの尻尾があたって、くすぐったそうに身をよじっていた。
「ほれほれ、ほれほれ」「きゃははっ♡ もー、コンちゃんやめてよぅ」「やめろといわれてやめるひとはいないんだよ」
待つことしばし、川魚がやけたところで、昼ご飯になった。
メニューは、松茸ご飯、焼き魚。そして桜華がぱぱっと作ってくれた野菜スープ。
紙皿をマジック袋から出して、子供たちにご飯やスープをついで出す。
「それじゃあみんなー、いただきまーす!」
「「「いただきまーす!」」」
コレットが号令すると、子供たちが元気よく声を張り上げる。
キャニスはスプーンで松茸ご飯をすくう。
「コンっ、これほんとーにくえるんです?」
「くえるくえる。ちょーくえる」
「よーし……。えいっ」
ぱくっ、キャニスが松茸ご飯を一口食べる。コンも、レイアも、もぐもぐと口を動かす。
ごくん、とコンが嚥下した後、
「はふん。これこれ。このかんじ。こきょーをかんじるかんじ」
とろん、とコンのキツネ尻尾が垂れ下がる。
「すっげー! においがぶわって! ぶわってひろがりやがるです!」
「がつがつがつがつがつ!」
キャニスが口元に米をつけて、笑顔でそういう。レイアは夢中で、ご飯をかっこんでいた。
「おにーちゃん、とってもうめーです!」
「そりゃ良かった。ただ作ったのは俺じゃない。お礼は頑張ってくれたラビたちに言ってくれ」
キャニスの口元の米粒を俺が取ってそういう。
「ラビっ! おめーやるな! です!」
キャニスがニカっと笑って、ウサギ娘の背中をばしっとたたく。
「ありがとーなのです! このお魚も…… とってもおいしいのです!」
にこにこーっとラビが笑いながら、魚をはふはふと食べる。
「姉貴、あつい。ふーふーして」
「はいよー……ぉ」
ふー、ふー、とあやねが魚をさまし、妹に食べさせる。
「姉貴。んっ」
今度はアカネがふーふーして冷ましたものを、姉に渡す。
「ありがとー……ぉ♡」
あやねはアカネの頭をなでた後、もぐもぐと魚を食べる。
俺達職員は、子供たちにおかわりをついだり、口についた米を取ったりする。俺達の食事は後回しだ。
「魚もうめーです。塩ふっただけです?」
「そうなのですっ。でもでもっ、とってもおいしーのです! ふしぎっ」
「ふしぎじゃない。みんなでそとでたべるごはん、それとてもうまい」
「「「それかー!」」」
子供たちは美味しそうに魚にかぶりつき、スープを飲み、ご飯を平らげていく。
結構たくさん米を炊いていたのだが、あっという間になくなってしまった。
「あっ、みんなたいへんなのですっ」
あらかた食事を終えた子供たち。ラビが声を張り上げる。
「どうしたですラビ?」
「にーさんたちのぶんのごはんが、ないのですっ」
「「「なぬっ」」」
飯ごうは空っぽだ。
「まあいいよ。俺達は魚あるし、スープもあるからさ」
するとキャニスが「いや、それはよくねーです!」と首を振るう。
「松茸ご飯とってもうめーかったです」
「これをたべないなんて、にぃたちじんせーそんしてるね」
「つーわけです、ぼくらでおにーちゃんたちのぶんのご飯を炊こう! いろんは?」
「「「なし!」」」
キャニスたちがご飯を作ってくれるようだ。
「えとえと、まずはおこめを洗うのです」
「お水はこのボトルに入ってるのをつかうんだよー……ぉ」
ラビたちはさっき、桜華から飯ごうの使い方のレクチャーを受けている。
ラビたちから教えてもらい、キャニスたちは協力して米をとぎ、水を張って、切った松茸と調味料を入れる。
飯ごうをたき火の上にのせる。
「泡が吹いてもあけちゃだめなのです」
「赤子泣いても蓋取るなー……ぁだよ」
「「「ふんふん」」」
子供たちが松茸ご飯を作ってる様を、俺達職員が見守っている。
「ふふっ」
コレットがほほえんだ。
「どうした?」
「嬉しいなって思って。あの子たちがわたしたちのためにご飯作ってくれるのが」
コレットは子供たちを見てそういう。
「あの子たち、どんどんいろんなこと吸収していってるわ。どんどん成長してる。……わたしも、成長しないとね」
コレットが無意識に、外見をかえる魔法薬を取り出す。だが……すっ、と懐に戻した。
「コレット。……そうだな」
俺はコレットの頭をなでる。するとつつっ、と移動してきて、俺の肩に頭を乗せてきた。
「子供たちが見てるぞ」
「べつにやましいことしてないから、だいじょぶだいじょぶ」
にこーっと笑って、コレットが体を預けてくる。花のような甘いかシャンプーの香りに、汗のにおいがまじってくらくらした。
「…………」
その様を、桜華がじっと見つめてきた。
「コレット。ほら桜華みてるから」
「あ、ごめんなさい。桜華さん」
コレットがぱっ、と離れて頭を下げる。
「…………」
桜華はぽーっと俺達を……というか俺を見ていた。
「桜華?」「……あ、え、ごめんなさい」
我に返った桜華が謝る。
「いや別にいいけど、どうした? 何か今日変だぞ?」
「……そ、そんなことありません。ただ」
「ただ?」
と、そのときだった。
「「「かんせー!」」」
ちょうど、子供たちが作った松茸ご飯が、完成した。
「おにーちゃんあついうちにくえやです!」
「はらがぱんくするまでくっていいよ」
ぐいぐい、と子供たちが俺の手を引いてくる。結局、桜華の台詞を聞きそびれてしまったのだった。
お疲れ様です。次回から桜華さんのことに踏み込んで行く感じになります。
ではまた!




